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双蛇密室 [読書・ミステリ]


双蛇密室 (講談社文庫)

双蛇密室 (講談社文庫)

  • 作者: 早坂吝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/13

評価:★★☆


 娼婦にして名探偵、上木(かみき)らいちが活躍するシリーズの一編。
 レギュラーメンバーで「お客様」でもある刑事・藍川が幼少時に経験した、不思議な2つの密室事件に挑む。


 らいちの "お得意様" である刑事・藍川広重(ひろしげ)は、物心ついた頃より悪夢に悩まされてきた。真っ暗な闇の中で二匹の蛇に襲われる夢だ。

 母親である誉(ほまれ)の話によると、広重は1歳の頃に自宅の部屋で蛇に襲われたことがあるらしい。しかしそれを聞いたらいちは、その中にある矛盾点を指摘する。どうやら誉は真実を話していないらしい。しかも父・出(いずる)は実の父親ではないことも知る。

 真相を知るために、5年ぶりに帰郷した広重は両親に問いただす。2人が語り出したのは、過去に起こった不可解な "事件" だった。

 38年前、産婦人科医だった藍川出は、妊婦検診に来た誉が夫・万場黒太郎(まんば・こくたろう)からDVを受けていることを知る。彼は妻を虐待した実体験をもとに執筆したSM小説で人気作家となっていた。
 出は医師として誉に接しているうちに、彼女への同情は次第に愛情へと変化していく。

 検診日に姿を現さなくなった誉を心配した出は彼女の家に向かい、母屋の隣のプレハブ棟の中で、気を失った誉と黒太郎の死体を発見する。死体の傷跡から、黒太郎の毒蛇に噛まれたことが死因と考えられた。
 しかし現場周辺は雨が降った後で、プレハブ棟の周囲は泥濘んでいて人の出入りした足跡も蛇が這った跡もない。

 警察に通報すると、誉に殺人容疑がかかるかも知れない。出は黒太郎の双子の兄弟・緑太郎(りょくたろう)の申し出のまま、事件を闇に葬ることに同意する。

 そして事件の直後に誉は広重を出産、出は誉を妻に迎え、広重の養父となった。出さんの度量の大きさには感服してしまう。実によくできた人だ。
 息子のほうは、刑事という立場にもかかわらず、女子高生のらいち相手に援助交際してるんだけどね(笑)。

 そして1年後。一家は高層マンションの27階に居を構えていた。ある日の午後、買い物を終えて自宅に帰った誉は驚愕する。子供部屋に2匹の蛇がいて、広重を襲っていたのだ。無我夢中で蛇を捕まえて窓の外へ投げ捨てる誉。幸い、広重は病院での治療で事なきを得た。
 しかし玄関のドアは施錠され、内部への入り口は開放していた窓だけ。マンションの27階に、どうやって蛇は侵入したのか・・・


 私は蛇が苦手で(得意な人の方が少ないだろうが)、いささか読むのが辛かったことを告白しておこう。

 登場人物が少ないが、そのぶんキャラが濃い人ばかり。なかでも雨傘蛇女(あまがさ・じゃのめ)という女性は、ネーミングからして "ただ者ではない" 感が半端ない。性格も行動も名前通りに凄まじく、とんでもない女傑ではある。

 本筋には関係ないけど、広重の同僚でレギュラーメンバーである小松凪南(こまつなぎ・みなみ)刑事が警察に採用されたときのエピソードもなかなか豪快で面白い。彼女もまた "ただ者ではない" ようだ。

 少ない登場人物=少ない容疑者 というわけで、フーダニットよりはハウダニットがメインになる。

 もちろんミステリ的な注目点は2つの密室のトリック。
 タネ明かしされてみて思ったが、これはいわゆる「一発芸」的なネタで、推理でどうにかなる問題ではないような気もする。
 アンフェアではないのだけど、「この発想」にたどり着く人はまれではないのかな(だからこそミステリとして成立するのだろうが)。もちろん、このネタを思いついた作者は素直にスゴいとは思うが。



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