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探偵さえいなければ [読書・ミステリ]


探偵さえいなければ 烏賊川市シリーズ (光文社文庫)

探偵さえいなければ 烏賊川市シリーズ (光文社文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/09

評価:★★★


 関東の一地方都市・烏賊川(いかがわ)市を舞台としたユーモア・ミステリ・シリーズの8冊め。短編集としては3冊め。


「倉持和哉の二つのアリバイ」
 倉持和哉は、経営するレストランの赤字を埋めるべく、妻の叔父・安西英雄に借金を頼むが断られ、殺害を思い立つ。
 アリバイの証人として私立探偵・鵜飼杜夫(うかい・もりお)を仕立て上げ、首尾良く殺害に成功するが・・・。
 倉持が用意周到であるが故に墓穴を掘る。バカバカしいオチだが、舞台が烏賊川市だから許される(?)結末かも知れない。


「ゆるキャラはなぜ殺される」
 『烏賊川市民フェスティバル』で行われた「ゆるキャラグランプリ」で殺人事件が起こる。被害者は "ハリセンボンのハリー君"。「中の人」がアイスピックで刺殺されたのだ。
 犯行現場の状況から、犯人はグランプリに参加しているゆるキャラたちに絞られた。"川魚のヤマメちゃん"、"蟹のケガニン"、"カメの亀吉"、"鷲のワシオさん"・・・
 探偵役は "烏賊の剣崎マイカちゃん" と、被害者も容疑者も探偵もみな着ぐるみを着ての登場で、解き明かされる真相も "ゆるキャラ" ならではの特殊事情が背景にあり、ミステリとしてもちょっと意外な結末を迎える。


「博士とロボットの不在証明(アリバイ)」
 烏賊川市に研究所を構える秋葉原博士(笑)は、AI搭載の人型二足歩行ロボット "ロボ太" を完成させる。しかしその直後、スポンサーの深沢新吉から研究開発費用5000万円の返却を迫られてしまう。悩んだ博士はロボ太にそそのかされ(おいおい)、深沢の殺害を決意する。
 ロボ太を使ったアリバイ工作により、博士は首尾良く深沢殺害に成功するのだが・・・
 とにかくロボ太のキャラ(?)が面白い。博士との掛け合いは漫才かコントのそれ。こういう会話を書かせたら、作者は本当に上手い。
 関係ない話だが、「秋葉原博士」と聞いて『鉄甲巨兵 SOME-LINE』(吉岡平)を思い出したよ。往年の巨大ロボットアニメのパロディで、30年以上前のライトノベルだけど、面白かったなぁ・・・(遠い目)。


「とある密室の始まりと終わり」
 私立探偵・鵜飼と助手の戸村流平は、依頼人・塚田京子とともに彼女の息子夫婦(政彦/広美)の家を訪ねた。すると、キッチンには大量の血痕が残され、風呂場の浴槽の中には政彦のバラバラ死体が浮かんでいた。しかも、家の扉も窓もすべて内部から施錠された密室状態だった・・・。
 いやあこの密室トリックにはびっくり。ユーモア・ミステリの衣をまとっているけど、このトリックは想像を絶するもの。その落差がものすごい。


「被害者によく似た男」
 スーパーのアルバイト店員・北山雅人は、居酒屋で知り合った女・田代直美から、雅人の異母兄・姉小路一彦の殺害計画への協力を打診される。雅人が一彦とそっくりなことを利用して、直美は自分のアリバイづくりをするという。
 彼女は首尾良く一彦殺害に成功するが、雅人の元へ警察の手が伸びてくる。そこで直美は雅人に意外な助言をするのだが・・・
 事件の捜査を誤誘導しようとする直美の思惑が、意外なところから崩れていく。それもしっかりユーモアの衣をまとって。上手いなあ。


 タイトルの「探偵さえいなければ」。これは「探偵が現れなければ、犯人たちは上手く逃げおおせたのに・・・」という意味だと思っていたのだが、巻末の解説を担当してる作家の阿津川辰海氏は、もう一段上の解釈を示す。これには思わず「なるほど」って思った。



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