SSブログ

許されようとは思いません [読書・ミステリ]


許されようとは思いません(新潮文庫)

許されようとは思いません(新潮文庫)

  • 作者: 芦沢央
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/22

評価:★★★☆


 日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作を含む5編を収録、各種ミステリ・ベストテンにランクインした短編集。


「目撃者はいなかった」
 営業職の葛木修哉(かつらぎ・しゅうや)は、テーブル用板材を大量に誤発注してしまう。それを同僚や上司に知られないようにもみ消すべく、資材引き渡しの現場に自ら赴き、余分な板材の回収に成功する。しかしその瞬間、彼の目の前で交通事故が起こってしまう。
 後日、修哉は事故の当事者が虚偽の証言をしていることを知る。しかし目撃者として名乗り出ると、自分の失態が明らかになってしまう・・・。
 ちょっと前に、海外の短編で似たシチュエーションの作品を読んだが、本作のほうがサスペンスに振ったつくりで、展開もひねりも効いている。


「ありがとう、ばあば」
 語り手は年配の女性。9歳の孫・杏(あん)からは "ばあば" と呼ばれている。
 物語は、"ばあば" がホテルの7階のベランダに閉め出されるシーンから始まる。窓の鍵を閉めたのは杏。目の前は海なので誰にも助けを求められない。季節は冬で雪が舞っており、このままでは凍死は時間の問題だ。なぜ、杏はこんなことをしたのか・・・
 ここから回想シーンで "ばあば" とその娘(杏の母)、そして杏の三者の過去が綴られていく。娘の反対を押し切って杏を芸能界に入れ、人気子役となった杏の生活すべてを管理していく "ばあば" の溺愛ぶりが描かれていく。異常なまでの孫への執着ぶりは鬼気迫るものがある。
 そして最後に明かされる杏の行動の理由。これには愕然。


「絵の中の男」
 女性画家・浅宮二月(あさみや・にがつ)は、幼少の頃に強盗に両親と姉を殺されるという壮絶な体験をしており、それが彼女の絵の持つ異様な迫力の源だといわれていた。
 二月は長じて結婚し、息子・猛を授かる。この頃、家政婦のような立場で一家と同居していた女性が、本編の語り手である。
 二月は何度もスランプに見舞われ、一人息子の猛をも火事で喪うという悲惨な運命を辿る。そしてついに破局が訪れる。夫を殺害してしまうのだ。
 しかしラストに至り、語り手は夫の殺害事件に新たな解釈を示してみせる。
 絵の描けない私には想像もできないことなのだが、これが芸術に憑かれた者たちの "業" というものなのか。


「姉のように」
 主人公である "私" の姉が逮捕される。童話作家として成功していた姉の事件は連日マスコミで報道され、"私" に向けられる周囲の人々の目もまた、以前とは異なるものになってしまう。
 「私は姉のようにはならない」と堅く心に誓って生活をしようとするのだが、3歳の娘は当然ながら状況を理解せず、勝手気ままに行動する。"私" は次第にフラストレーションが蓄積していき、夫の無理解も重なって、娘に対する虐待の衝動が抑えられなくなっていく・・・
 本書の中で、ラストの切れ味はピカイチ。あからさまに伏線が張ってあったのに全く気づかなかった。完敗です。


「許されようとは思いません」
 主人公・諒一は、恋人の水絵と共に東北の寒村を訪れる。そこは諒一の母の故郷で、村の寺に祖母の遺骨を納めるためだ。
 18年前、祖母は舅である曾祖父を包丁で刺し殺すという事件を起こしていた。裁判では「私は自分の意思で殺しました。許されようとは思いません」とだけ述べて動機については語らず、獄中で病死していた。
 諒一は、水絵に問われるままに当時の状況を語る。未だに地方に残る理不尽な因習、それに従わないものへの悪意、虐待。それに晒された祖母の苦悩。
 終盤に至り、水絵は祖母の事件に意外な解釈を示してみせる。ミステリ的な切れ味も鋭いけど、この水絵さんが実に素晴らしい女性だ。ラストに交わされる、若い2人の未来へ向けた会話がこの作品の陰惨さを救っている。



nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント