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蟬かえる [読書・ミステリ]


蝉かえる (創元推理文庫)

蝉かえる (創元推理文庫)

  • 作者: 櫻田智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 昆虫オタクの青年・魞沢泉(えりさわ・せん)が活躍する連作短編ミステリ集、第2巻。第74回日本推理作家教会賞および第21回本格ミステリ大賞受賞作。


「蟬かえる」
 山形県西溜(にしだまり)村の山中へやってきた魞沢は、そこで出会った糸瓜京助(へちま・けいすけ)という男から奇妙な話を聞く。
 16年前、西溜村を大地震が襲い、多大な被害を出した。京助はボランティアとして村に入り、4人の行方不明者の捜索に加わったが、そのうちの一人、12歳の少女が未だ発見されていなかった。
 そんな中、京助は村の神社の境内へ入っていく少女の姿を目撃する。後を追って中に入ったが、なぜか少女の姿は消えていた。亡くなった少女の亡霊だったのか・・・?。
 例によって魞沢が合理的な解釈を示す。密室状態からの人間消失トリック自体は見当がつくのだが、その背景となった事情が意外であり、かつ深い。


「コマチグモ」
 女子中学生がミニバンにはねられる交通事故が起こり、同時刻、団地の一室で平朱美(たいら・あけみ)という女性が頭から血を流して倒れていると警察に通報が入る。
 目撃者の証言によると、朱美の発見時、現場には彼女の娘・真知子がいたが、すぐに外へ駆けだしていってしまったという。その直後、交通事故に遭った中学生こそ、真知子だったのだ。
 捜査員は、事件の直前に真知子と話をしていたという男・魞沢と出くわす。変質者と間違われた魞沢くんだったが、彼が真知子と会話を交わすきっかけがトンボだったというのはいかにもである。そして彼の語る推理は、事件の様相を一変させるものだった・・・。
 事件の背景は哀しいものだが、ラストの数行でちょっと救われる。


「彼方の甲虫」
 前巻収録の「ホバリング・バタフライ」で登場した瀬能丸江(せの・まるえ)さんが再登場。前作の事件から2年後、ペンション経営者となった丸江に招かれ、再びアマクナイ岳へやってきた魞沢。
 しかしその翌朝、丸江のペンションの宿泊客アサル・ワグディが姿を消し、遺体となって発見される。
 フーダニットよりも、動機の方がメインかな。古くて新しい問題で、特に現代ではしばしばニュースになったりするほど根が深い。


「ホタル計画」
 科学雑誌『アピエ』に寄稿していたライター・繭玉カイ子(これは筆名。男性である)が失踪した。編集長の斎藤は、カイ子の自宅がある北海道に向かう。カイ子は北海道の水田にホタルを復活させる〈ホタル計画〉を進めていたという。
 彼の消息を追ううち、斎藤は地元にある東斗理科大学の生物学教授・長下部(おさかべ)が変死していた事実を知る・・・
 事件の背景にあるのは、これも一時期、さかんに取り上げられていた問題だ。
 魞沢の名は、ラスト近くになってようやく出てくる。謎に包まれた魞沢の正体(?)の一端が本作で明かされることに。


「サブサハラの蠅」
 魞沢が成田空港で再会したのは、大学の同期生だった江口。彼は〈越境する医師団〉の一員として、8年間アフリカで医療活動に関わってきた。
 数ヶ月後、帰国した江口が経営するクリニックに魞沢が訪ねてくる。信頼していた現地の女性スタッフを風土病で失ったことなど、アフリカでの思い出話を語る江口。その中で、魞沢は彼が "よからぬ隠し事" をしていることを見抜くのだった・・・
 全編がほぼ、2人の会話のみで進行する。これも、江口の抱えたもの以上に、その背景そして動機に心が動かされる。



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