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新任巡査 [読書・ミステリ]


新任巡査(上) (新潮文庫)

新任巡査(上) (新潮文庫)

  • 作者: まほろ, 古野
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 文庫
新任巡査(下)(新潮文庫)

新任巡査(下)(新潮文庫)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/08/16
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★

 舞台は架空の地方・愛予(あいよ)県。人口も多くなく、従って警察官の人数も少ない、小規模警察となっている。

 そこの警察学校を卒業した2人の新人警官、上原頼音(らいと)、内田希(あきら)が主人公となる。
 ちなみに上原は警察学校での成績は中くらい。単純だが実直、自分なりの理想の警察官を目指す熱血漢だ。
 一方、女性の内田は2位の席次で卒業している優等生だ。冷静沈着で、作中では「コンピュータ」に例えられるくらい、感情を見せない。というか感情そのものが欠落しているようにも思える。彼女がそういう人格になった理由は作中で明かされるが・・・

 2人はそろって県庁所在地にある愛予警察署への配属となり、上原は愛予駅東口駅前交番、内田は同西口交番で研修に入っていく。

 文庫で上下巻合わせて870ページという大部なのだが、上巻約430ページは上原の一人称で語られる。
 警察学校での出来事、そして 卒業式 → 署への着任 → 独身寮 → 初出勤 と続き、彼の勤務実習の状況が綴られていく。

 とにかく交番勤務は過酷だ。出勤するとそのまま24時間勤務となる(もちろん交代で非番の日はあるが)。
 交番の前に立って周囲を見る ”立番”、受け持つ区域の住宅を廻って様子伺いをする ”巡回連絡”、勤務中は常に身につけている無線通信機の使い方、そして何より交番の中ではいちばんの下っ端なので出前の注文はもちろん雑事万端が降りかかってくる。

 しかしそんな、十年一日のようにも思えるルーチンワークには、実はとんでもない ”深い意味” が込められていることを上原は知っていく。
 道を尋ねに来るなど、交番へやってきた一般人への対応にだって、必ず守らなければならない決まりがあったりする。
 交番に届けられた落とし物にも、拾い主への確認事項や作成する書類などの処理の流れには、素人には窺い知れない ”驚きの理由” が潜んでいる。

 上原は、最初は全くそのあたりを理解しないで職務に就いているのだが、そこを教育係の先輩警官にどやされる。そこで改めて雷を落とされた理由を説明されるのだが、そこがまた「そ、そうだったのか・・・!」
 上原と一緒に ”目から鱗” を連発しながら、読者は新人警官の生活を ”経験” していくことに。

 冗談抜きで、本書を読んだあとは交番にいる警察官を見る目が変わること間違いなしである。同時に、彼らの ”目に見えない不断の努力” によって、地域の治安が守られていることを思い知るだろう。

 下巻に入ると、描写は三人称になり、上原の同期の新人・内田が主役となる。
彼女は教育係の先輩警官とともに、”職務質問” の実地研修を積んでいくことになる。これもまた ”実に深い” んだけども・・・

 このあたりまでは、まさに新人巡査が直面する様々なトラブルを描いた ”お仕事小説” の趣。
 もしこのまま終わってしまっても、読者は全く不満に思わないだろう。「警察の知られざる内幕を描いた面白い小説だったなぁ・・・」って満足しながら本を閉じることができる。
 作者は交番勤務を皮切りに、最後は警察大学校の教官まで務めた人だからね。リアルさでは比類がない。

 しかし本書はそれだけでは終わらない。描かれてきた ”2人のお仕事” の中には、無数の ”伏線” がばらまかれているのだ。

 愛予署管内では、少女連続行方不明事件が起こっており、終盤の約300ページでは、上原と内田がこれに巻き込まれていくことになる。
 それまでの500ページ以上に渡って、上原と内田の新人研修の日々の描写が延々と続いてきたのだけど、この部分があるおかげで終盤のサスペンスが大いに盛り上がるという仕掛けにもなっている。

 ネタバレになるので詳しく書けないけど、明かされる真相は実に意外で、驚く人も多いだろう。



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