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連続自殺事件 [読書・ミステリ]


連続自殺事件【新訳版】 (創元推理文庫 M カ 1-13 フェル博士シリーズ)

連続自殺事件【新訳版】 (創元推理文庫 M カ 1-13 フェル博士シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 創元推理文庫で進行中の改訳シリーズの一編。

 本書は1941年に刊行された作品(邦訳の刊行は1961年)の改訳版となる。とはいっても、カーに『連続自殺事件』なんてタイトルの作品なんてあったかな? 『連続殺人事件』ってのはあったけど・・・って記憶を辿り、本書巻末の解説を見たら、その『連続殺人-』を改題したものとのこと。原題ではそっちの方が正しいらしい。

 旧訳を読んだのは大学時代だったかと思う。内容はさっぱり覚えてないのだけど、「とても面白かった」という記憶は残っていた。
 今回再読してみたけど、当時の感想は間違っていなかった。とても楽しませてもらった。


 舞台設定は1940年頃。
 スコットランドの古城に住む老人アンガス・キャンベルが亡くなり、遺産についてキャンベル家の一族による家族会議が開かれることになった。そこには、かなり遠縁の者たちまで呼ばれることに。

 まずは歴史学者のアラン・キャンベル。35歳と若いが、ユニヴァーシティ・カレッジの教授を務めている。

 彼がスコットランドへ向かう寝台列車の中で知り合ったのが、キャスリン・キャンベル。20代後半と若いが、彼女もまた女子カレッジの歴史学教授。

 こんな若い人たちが教授として大学の教壇に立ってるのは、日本とは大学教育のシステムが違う(「教授」の位置づけが違うとか)のかなとも思ったが、1940年という、第二次大戦中が舞台だったのも影響があるのかな、とも思ったり。

 鉄道会社の手違いで2人はダブルブッキング(同姓だったせい?)となり、目的地まで一晩、同じ客室の中で過ごすことになってしまう。
 仲良くするかと思いきや、2人は大げんかを始めるのだが、その理由は読んでのお楽しみかな。

 このあたりは典型的なラブコメ展開で、物語を通じて2人はだんだんと距離を縮めていくことになる。

 さて、古城に到着した2人はアンガスの死の状況を知る。20m近い高さの塔の、最上階の部屋からの転落死だった。しかも部屋は内側から鍵と閂(かんぬき)で厳重に施錠されていた。
 当然ながら自殺と思われたが、最上階の部屋からは事件直前まで存在していなかったはずの物品が見つかり、何者かの侵入も疑われた。

 そして明らかになったのは、アンガスが様々な事業に投資しては失敗し、財産がほとんど残っていないこと。彼の唯一の ”資産” は、35000ポンドの生命保険のみだった。しかし自殺だと保険金は支払われない。

 ちなみに、当時の35000ポンドって今の日本円でいくら位なのかと思っていくつかサイトを見てみた。それぞれ上下に幅があるのだけど、億単位の金額になりそうなのは間違いないみたい。

 そこで、真相究明のためにギディオン・フェル博士が呼ばれることに。

 しかし、不可解な事件は続く。
 古城の塔では第二の転落 ”事故” が発生し、密室状態の民家の中からはアンガスの知人の死体が発見される。タイトルに ”連続自殺” とあるように、どちらも自殺ともとれる状況なのだが・・・

 アンガスの内縁の妻、アンガスの弟、新聞記者、弁護士、保険会社の社員など一筋縄ではいかなそうな胡散臭い登場人物たちを交えて物語は進行する。
 作中での酒盛りシーンでは、泥酔した者たちによる大騒ぎが描かれる。ラブコメにドタバタと賑やかなのだけど、その中にもしっかり伏線は張ってある。


 今回、塔と民家という2つの密室が登場し、それぞれ別のトリックが使用される。塔のトリックは、実現可能性はどうなのかとも思うのだけど、当時としては斬新なものだったのだろう。

 その辺を差し引いても、ミスディレクションが巧みなのは流石だ。ラストの展開もなかなか意外。フェル博士の ”裁定” も、この物語の締めとしてはアリかと思う。


 さて、旧訳の『連続-』のほうで、ストーリーはサッパリ覚えてないと書いたんだけど、実は ”あるシーン” だけ覚えてた。とても印象的、というかインパクトが大きかったので。
 だから今回はそこが新訳で読めると思って楽しみにしてたんだが、なんとその場面がない! ”それらしいところ” さえ皆無。

 ・・・どうやらカーの別作品と混同していたらしい。いやはや40年前の記憶などあてにならない、ということを改めて思い知った次第。



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