短編ミステリの二百年5 [読書・ミステリ]
評価:★★☆
短編ミステリの歴史を俯瞰するアンソロジー、全6巻の5巻目。
本書には12編を収録。
「ある囚人の回想」(スティーヴン・バー)[1950]
年老いた囚人が、新聞記者に過去の事件について語る。19世紀末、ヴィクトリア女王在位60年記念の祭典に沸き立つロンドンで、資産家の家から宝石を盗もうと計画を進めていたのだが・・・。ミステリファンなら途中でネタが分かってしまうが、作者はそれも計算のうちだろう。
「隣人たち」(デイヴィッド・イーリイ)[1968]
その町に引っ越してきたのは夫婦と子どもの3人家族。しかしなぜか夫婦は近所づきあいを拒み、しかも、子どもの姿を見た者は誰もいない・・・
「さよなら、フランシー」(ロバート・トゥーイ)[1970]
ジョンの妻レオーナは資産家だが、かなり年上だ。彼は夫婦の住まいから25キロ離れた街にアパートを借り、そこでフランシーという女と過ごすようになっていく。それは ”ある陰謀” の準備のためだった・・・
「臣民の自由」(アヴラム・デイヴィッドスン)[1961]
政治亡命を僭称してロンドンに逃げ込んだ外国人犯罪者・コマー。しかし生活のためにスパイ紛いのことをしていたが・・・
「破壊者たち」(グレアム・グリーン)[1954]
不良少年たちのグループが、彼らが ”しょぼくれ” と呼ぶ老人が住む小屋を、壊してしまう。ただそれだけの話(笑)。よく意味が分かりません。何が面白いのかも私には分からないです。
「いつまでも美しく」(シーリア・フレムリン)[1970]
夫が若い女性にご執心なことに危機感を覚えた41歳の妻は、”永遠の美を保証する” という触れ込みの、怪しげな医者に会いにいくのだが・・・
「フクシアのキャサリン、絶体絶命」(リース・デイヴィス)[1949]
キャサリンは四十路の未婚女性。田舎町でひっそりと暮らしていたが、愛人のルイスが彼女のベッドの上で急死してしまう。村人たちには彼との仲を隠し通したのだが、彼の遺言書にはキャサリンに大金を贈ると記されていて・・・
「不可視配給株式会社」(ブライアン・W・オールディス)[1959]
アーサーとメイベルの夫婦の元に、ある日、1人のセールスマンがやってくる。夫婦は彼と ”生涯にわたる賭け” をすることになるのだが・・・。
タイトルの ”不可視” とは、”形のないもの” という意味。
「九マイルは遠すぎる」(ハリイ・ケメルマン)[1947]
”九マイルを歩くのはただごとじゃない。まして雨の中では”。通りすがりに耳にした、このわずかな文章を足がかりに推論をすすめ、意外な状況を引き出してみせる。もはや古典的名作の域。
「ママは願いごとをする」(ジェームズ・ヤッフェ)[1955]
殺人課刑事の ”わたし” は、母(ママ)と妻・シャーリィとの3人暮らし。ママは類い希な推理力で、”わたし” が担当している事件の真相を解き明かす。刑事の身内が安楽椅子探偵を務めるというのは便利なパターンだなあと思う。
「ここ掘れドーヴァー」(ジョイス・ポーター)[1976]
史上最悪の探偵(笑)といわれるドーヴァー警部。彼の妻も負けずに我が強い人らしく、自宅の物置小屋に何者かが忍び込んだと強硬に主張する。押し切られてしまったドーヴァーは、部下のマクレガー部長刑事を呼びだすのだが・・・
「青い死体」(ランドル・ギャレット)[1965]
科学の代わりに魔術が基礎技術となって発展した世界を舞台にしたミステリ。死亡した貴族を葬るために棺を新調したが、その中には既に死体が入っていた。しかも全身を青く染められて・・・。現代の日本では、”特殊設定ミステリ” は広く書かれるようになってきたが、この頃はどうだったのだろう。
ミステリとして面白いと思ったのは「ある囚人の回想」「さよなら、フランシー」「フクシアのキャサリン、絶体絶命」「九マイルは遠すぎる」「ママは願いごとをする」かな。おお、5作もあったぞ(おいおい)。
「青い死体」は今ひとつよく分からなかった。私のアタマの出来が悪いせいか。
「隣人たち」「いつまでも美しく」はある種のホラー、
”奇妙な味” の「不可視配給株式会社」。
「臣民の自由」はスパイもののパロディ、
「ここ掘れドーヴァー」は探偵ミステリを茶化してるみたい。
そんな中で「破壊者たち」はミステリとは思えず、面白いとも思えませんでした。やっぱり選者の方と私の間には、埋められない溝があるようです(笑)。
このシリーズも残り1冊。
ここまで、思ってたよりも(私の考えるところの)ミステリが少ない。
さて、ラストにはどんな作品が待っているのでしょうか。
まあ、ミステリではなくても、楽しく読めればそれでいいのですが。