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沈黙のパレード [映画]

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まずは公式サイトのSTORYから引用。


 天才物理学者・湯川学(福山雅治)の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫(柴咲コウ)が相談に訪れる。
 行方不明になっていた女子学生が、数年後に遺体となって発見された。内海によると容疑者は、湯川の親友でもある先輩刑事・草薙俊平(北村一輝)がかつて担当した少女殺害事件で、完全黙秘をつらぬき、無罪となった男・蓮沼寛一。
 蓮沼は今回も同様に完全黙秘を遂行し、証拠不十分で釈放され、女子学生の住んでいた町に戻って来た。
 町全体を覆う憎悪の空気…。 そして、夏祭りのパレード当日、事件が起こる。蓮沼が殺された。
 女子学生を愛していた、家族、仲間、恋人…全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあった。そして、全員が沈黙する。
 湯川、内海、草薙にまたもふりかかる、超難問...!
 果たして、湯川は【沈黙】に隠された【真実】を解き明かせるのか...!?


 原作は既読です。それについての記事も2021年12月6日にアップしてます。ミステリとしての感想は小説版の記事のほうに当たっていただいて、ここでは映画の評価について書きます。

 結論から言うと、私はとても満足しました。ストーリーも真相もすべて知っていた上で観たのですが、それでも最後まで楽しめました。

 やはり映像の力というのは凄い。小説を読みながらで、頭の中で思い描いていた場面が、想像どおりの、あるいはそれを超えた形で目の前に展開されていくのは快いものです。

 冒頭、14歳の並木沙織が夏祭りのステージで歌い出すシーンから、もう目が潤んでしまいましたよ。この数年後、彼女が辿る運命を思ったら・・・

 主な舞台となるのは、沙織の両親(飯尾和樹・戸田菜穂)が経営する定食屋「なみきや」。その店に集い、看板娘だった沙織を幼い頃から慈しんでいた仲間たちを演じる田口浩正、吉田羊、高垣智也、椎名桔平、檀れい。そして彼らの憎悪を一身に集める蓮沼を演じる村上淳。その他の端役に至るまで、ハズレのキャストは一人もいないと思いました。

 そして、”運命の時” となる菊野市夏祭りパレード。大量のダンサーにエキストラ、この撮影のために用意されたと思しき山車の数々。さすが人気シリーズだけのことはあって、予算もかけたのでしょう。TVドラマとはスケールの違いを感じさせます。

 主演は福山雅治と柴咲コウなのですが、この2人を押さえて、北村一輝の熱演が光ります。過去の事件を解決できなかった悔い、それによって新たな事件を呼び起こしてしまった自責の念。
 徹頭徹尾、悩み苦闘し続ける草薙刑事を演じた彼こそ、この映画の影の主役と言えると思います。

 飯尾和樹もよかったですね。娘を殺された父親・並木祐太郎の悲哀を、ギャグ要素ゼロで演じきりました。彼のことを知らない人は、誰もお笑い芸人だとは思わないでしょう。
 祐太郎の親友・戸島修作役の田口浩正も存在感がありました。オッサン俳優が頑張る姿は嬉しいものです(笑)。

 それ以外の主要な登場人物たちも、決して少ない数ではないのに、それぞれの感情をうまく掬い上げ、各自にそれぞれ見せ場が用意されています。監督と脚本の ”交通整理” も、尋常でなく達者です。

 ただ、終盤で明らかになった真相が、さらに二転三転するあたりは、原作未読の人にはわかりにくいかも・・・とは思いますが。


 さて、上に書いたように私は満足したのですが、ネットの評価は必ずしもそうではないようで、けっこう低評価の人がいます。
 まあ、価値観は人それぞれですから、それはそれでかまわないのですが、低評価にはそれなりの理由がいくつかありそうです。

 そのひとつが、「『ガリレオ』っぽくない」というもの。
 湯川が事件解決のために実験をするシーンが少ない、真相に閃いて数式を書き殴るシーンがない、などですね。

 私見ですが、これは『ガリレオ』シリーズの短編と長編の違い、そして作品内での ”時間の流れ” から来るものが大きいように思います。

 短編では、大がかりな物理トリックを中心に据えて物語が構築されます。ちょっと意地悪く言えば ”一発芸” 的な。それを解明するために、湯川による検証実験が行われ、解決に至る。ある意味単純なんだけど、そこが面白い。
 ですから1時間で完結するTVドラマ向きなのだと思います。

 長編では、物理トリックだけで支えるにはちょっと駒が足りない。そこで登場人物の人間ドラマや、ストーリー展開の意外性など、複数の要素を付け加えて引っ張っていく。短編とはかなり構造的に違いがあると思います。ですからTVドラマのような雰囲気を期待すると当てが外れる、ってことが起こるのでしょう。

 実際、この作品では ”大がかりな物理トリック” は使われていません(あの殺害方法は充分に ”大がかり” だよって、感じる人もいるかとは思いますが)。
 ですから湯川も、大々的な実験は行う必要もない。ゆえに数式を書くこともない。でもその代わり、湯川は ”犯人” の心の内を深く推し量ることで、真相に到達していきます。
 だったら「探偵役は湯川である必要はない」って意見も出てくるかも知れませんが、”それは言わない約束” でしょう(笑)。

 そして、『ガリレオ』の世界は ”サザエさん時空” ではありません。
 今作の湯川は助教授(准教授)から教授へと ”出世” し、内海刑事も既に新人ではありません。2人の間にエキセントリックなシーンが減り、ある程度の落ち着きが感じられるのは作品内でも時間が経ったということなのでしょう。ついでにいえば、草薙も係長へと昇任しています。
 15年前のTVドラマのような湯川と内海の威勢のいい掛け合いを期待していた人は、ちょっとがっかりしたのかも知れません。

 上にも書きましたが、本作は福山雅治と柴咲コウを観る映画というより、北村一輝と飯尾和樹(+多彩な脇役陣)を観る映画です。
 原作から改変されている部分もありますが、映画化のためには必要かつ効果的な変更だと感じました。そしてなおかつ、原作を読んだ人間に違和感を感じさせないつくりに仕上がっているのは流石です。

「ミステリ小説の映画化」という点では、ベストな出来ではないかと思いました。


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