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ベルリンは晴れているか [読書・ミステリ]


ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)

ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)

  • 作者: 深緑野分
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2022/04/22
評価:★★★★

 ナチス・ドイツが無条件降伏して2ヶ月後の、1945年7月。

 敗戦後のドイツはイギリス・アメリカ・フランス・ソヴィエト連邦の4ヵ国による分割統治状態になっていた。首都ベルリンも同様に、4つの管理地区に区切られていた。

 主人公のアウグステは17歳のドイツ人少女。戦時中に身寄りを失ったが、自身は終戦前後の混乱を生き延び、今はアメリカ軍の軍用食堂で働いている。

 ある日、彼女はソヴィエトの管理区域へと連行されてしまう。そこで待っていたのは内務人民委員部(秘密警察で、KGBの前身)のドブリギン大尉だった。

 音楽家のクリストフ・ローレンツが変死したのだという。青酸カリを仕込まれた歯磨き粉によって。
 クリストフとその妻フレデリカは、戦時中にはナチスからの迫害者を匿っていた。アウグステも2人の世話になったことがあり、恩人だった。
 しかし犯人としてアウグステの名を挙げたのはフレデリカだった。

 身の潔白を訴え、釈放されたアウグステはフレデリカから謝罪され、その夜はローレンツ家に泊まる。そこでアウグステは、クリストフの死の直前にフレデリカの甥・エーリヒが姿を見せていたことを聞く。

 翌日、再びドブリギン大尉の前に引き出されたアウグステ。彼もまた、エーリヒへの疑惑を持っていた。
 アウグステは大尉からエーリヒを見つけ出すように命令される。彼女は反発を覚えながらも、彼にクリストフの訃報を伝えるために承諾する。

 元俳優で泥棒で捕まった男・カフカを相棒に、ベルリンから30km離れたバーベルスベルグへと向かうことになるのだが・・・


 文庫で約510ページという大部。内容は「本編」と「幕間」が交互に挟まれていく構成。

 「本編」は上に書いたように終戦直後のベルリンから隣町へ人捜しに行き、その途中で様々なアクシデントに遭遇するという ”ロードノベル”。
 移動の距離自体は大きくないのだけど、2人の旅は実に多難で、アウグステとカフカは多くの人たちとも出会っていく。

 「幕間」はアウグステの誕生から始まって終戦に至るまでの ”過去編”。
 ナチスが台頭し、独裁体制から戦争突入。圧迫される市民生活、ユダヤ人への差別そして虐待の様子が描かれていく。

 戦時中のドイツの様子はいままで多くの小説や映画で描かれてきたと思うのだけど、本書のいちばんの読みどころは、”終戦直後のベルリン” の様子が描かれていること。これはあんまり例がなかったんじゃないかな。

 「本編」はアウグステの一人称で語られるのだけど、読んでるとまさに1945年7月のベルリンの街を歩いているような感覚になる。それだけ微に入り細を穿つ描写が、これでもかとばかりに続いていく。まさに圧倒される思いだ。
 おそらく膨大な量の資料に当たったんだろうと推察するが、単なる事実の羅列に止まらず、”人の生活” が感じられるように描かれているのは、作者の ”消化能力” が桁外れなのだろう。

 日本での敗戦後の様子はいろんな作品で描かれてきてる。最近は減ってきたけど、8月になると毎年のように特集や、戦争を描いたドラマがTV放送されたりしてたからね。
 だけど終戦後のベルリンは日本のそれとはかなり異なる印象を受ける。歴史的背景とかも異なるのもあるのだろうけど、いちばん大きいのはやはり4ヶ国による分割統治かな。他の区域への移動も不自由だし、この時点でも東西対立は既に発生していて、ソ連の管理区域は他の地域とは隔絶していたようだ。

 ヒロインのアウグステ、胡散臭い相棒のカフカ、”敵役” となるドブリギン大尉、その部下のベスパールイ軍曹など、主要な登場人物にはみな隠された裏の顔があり、物語が進むにつれて次第にそれが明らかになっていく。

 本作はミステリであるから、終盤ではアウグステを送り出したドブリギン大尉の思惑も、クリストフ殺害の真相も判明する。

 だけど、何といっても敗戦で廃墟となったベルリンの街と、そこで強かに生き抜いている人々の ”存在感” こそ、本書の ”真の主役” なのだと思う。



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