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タワーリング [読書・冒険/サスペンス]

タワーリング (新潮文庫)

タワーリング (新潮文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/01/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★

昔、『タワーリング・インフェルノ』って映画があったよなあ・・・
なんてのが、本書のタイトルを見たときに思ったこと。
超高層ビル火災を描いたパニック映画で、
見に行きたいと思いつつ結局行けず、何年か後にTVで観た。
そんなことを思い出してしまった。

裏表紙の惹句を読んで、次に連想したのは
やはり高層ビルを舞台にしたアクション映画『ダイ・ハード』だった。
これも映画史上に残る傑作だと思ってる。
東京でリバイバル上映しているのをかみさんと一緒に見にいった。
そういえば、二人で観た最初の映画だったなぁ・・・

さて、実際に読んでみると、本書はどちらにも似ていなかった。
まあ当たり前だけど。

閑話休題。


地上50階、地下5階の《ウインドシア六本木》という
超高層ビルが本書の舞台である。

総合ディベロッパー、マーズ・コーポレーションが手がけたビルで、
マーズの本社機能をはじめ、オフィスやレジデンスも入居する
日本有数のランドマークとなっている。

マーズ企画事業部の船津は、
エレベーターから異音がするとの報告を受け、
地下2階にある防災センターへ点検・修理を指示する。
しかし、業者を装って現れた男たちはセンターを占拠、
さらに最上階にあるマーズ社長・川村の自宅に潜入、彼を人質に取る。

《ウインドシア六本木》の管理機能を掌握した犯人たちは
ビル全体を封鎖し、中にいた人々は閉じ込められてしまう。

外部からの救援が望めない状況で、
船津をはじめとするマーズ社員たちは
事態を打開するべく策を巡らすが・・・


犯人グループからは人質解放のための要求が出されるが、
この手の話で往々にそうであるように、
表向きの要求とは別に、犯人たちには真の目的があるものだ。
それと絡んで、ミステリ的な "オチ" も用意されている。
「エピローグ」でそれが判明したときには
ちょっと安易かなぁとも思ったのだけど、
今これを書きながら考えてみたら、これでいいような気もしてきた。

高層ビルを舞台にしたサスペンスとしては、
値段分は充分に楽しく読ませてもらった。


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ヒア・カムズ・ザ・サン [読書・その他]

ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)

ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

本書はいささか変わった成立過程があったらしい。

 真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
 彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
 強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
 ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
 カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
 父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
 しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた・・・

この「あらすじ」から、小説と演劇という
二つの物語をつくる試みが行われたという。
そのうち、小説版の担当をしたのが本書の著者・有川浩だ。

そして、本書にはもう一つ、
「Parallel」と副題のついた同名の小説も収められている。
これは、有川氏が演劇版を見て想を得た物語とのことで、
基本設定・登場人物を同じくしながら異なる内容を展開している。

主人公がサイコメトラー的な超能力を持つがゆえに
SF寄りな雰囲気になるかと思いきや、そこはやはり有川浩。
超常の要素は控えめに、
あくまで人間ドラマ主体のストーリーを紡いでみせた。


便宜的に「小説版」と「パラレル版」としよう。

展開としての大きな違いは2つ。

ひとつは、真也とカオルの関係。
小説版での二人は同期入社の友人関係。
(もっとも、ゆくゆくは恋仲になりそうな描写もある)
パラレル版では結婚まで秒読みに迫った恋人同士として登場する。

そしてもう一つはカオルの父の設定。
シナリオライターとしての成功を夢見て
妻子を捨ててアメリカに渡ったのは同じながら
小説版では大作映画の脚本家として華々しい凱旋を飾る。
パラレル版では・・・これは読んでのお楽しみだろう。


小説のタッチもかなり異なる。
どちらもカオルの父の秘密が明かされるのは同じながら
小説版の終盤では、真也が(超能力の助けもあるが)
カオルの父に迫り、意外な "事情" が明らかになる。
このあたりの真也くんは "名探偵" みたいである。
有川浩ってミステリもいけるんじゃね? なんて思ったよ(笑)
一方、パラレル版では、有川浩お得意の人情噺的な展開を見せる。

その名の通り、パラレルワールドのような二つの物語。
個人的にはパラレル版の方が、より有川らしくて好きだけど
小説版も捨てがたいなぁ・・・


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Question 謎解きの最高峰 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Question  謎解きの最高峰 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Question  謎解きの最高峰 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★

日本推理作家協会編纂によるベスト短編ミステリ集。
2012年版(2011年発表の作品)を文庫二分冊で刊行した、その2。
ちなみに「その1」は以前記事をupした『Junction 運命の分岐点』。

「足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)」三上延
 ベストセラー『ビブリア古書店の事件手帖』シリーズの一編。
 題名からしてアヤシげだが、実在する本らしい。
 某巨匠漫画家が若い頃に別名義で発表した作品とのこと。
 須崎という男がビブリア古書店に現れ、
 店主・栞子に表題の本の買い取りを依頼するが
 なぜかその途中、須崎は立ち去ってしまう。
 しかし栞子は、ホームズばりの推理で須崎の家の条件を絞り込み、
 店員の大輔とともに捜し当てることに成功する。
 しかし彼の家で問題の本を見た彼女は意外な事実にぶち当たる・・・
 栞子さんの魅力、そして彼女の母の秘密、
 語り手である大輔が彼女に抱く 切ない恋心、
 そして古書にまつわる謎解き。
 たしかにベストセラーになるのもうなずける。
 このシリーズは未読だったんだけど読んでみようかなあ・・・

「三階に止まる」石持浅海
 短編集で既読。
 "僕" の住むマンションのエレベーターが、
 誰もいないのに、必ず三階で止まる。
 業者が点検しても異常はないという。
 主人公は、同僚・小泉とともにさまざまな解釈を試みるが・・・
 ミステリというよりはSF、それもホラーに近いかな。

「新陰流 "月影"」高井忍
 短編集で既読。
 12人の盗賊を斬り殺した柳生十兵衛。
 しかしそのうちの一人・中村平太夫の娘・千織は
 父が盗賊だったとは信じられず、十兵衛に対して仇討ちを企てる。
 そして武者修行中の毛利玄達もまた、助力を申し出るのだったが・・・
 シリーズものならではの意外な展開。

「言うな地蔵」大門剛明
 政治家であった妻の父から地盤を引き継いだ白崎は
 代議士として順調に当選を重ねていた。
 しかし彼には、30年前に農夫・野路(のじ)を
 猟銃で撃ち殺した過去があった。
 総選挙が迫る中、地盤を走り回る彼の元に
 30年前の殺人を告発する手紙が届く。
 大半の読者が想定するだろう展開そのままに進行するのだが・・・
 いやあ、この作者、上手いです。
 本書収録7編中のトップ2のひとつ。

「現場の見取り図 大癋見(おおべしみ)警部の事件簿」深水黎一郎
 マンションの一室で起こった殺人事件に出動した大癋見警部。
 しかし、被害者は危険人物として公安からマークされており、
 現場の隣の部屋には公安部の刑事が詰めていて
 立ち入りはすべて監視されていたという実質的な密室状況にあった。
 タイトル通り現場の見取り図が載っている。
 (この手の図を見てトリックが分かった試しがないのだがwww)
 確かに超意外な真相なんだが、結果として脱力系のバカミス。
 これを「ベストミステリー」に入れるのはいかがなものか。
 (バカミス自体は好きだよ。でもねえ・・・)

「ダークルーム」近藤史恵
 デザイン系の専門学校で写真を学ぶ琢巳(たくみ)は
 母と妹から逃れるように一人暮らしをしている。
 同級生の榊と恋仲になるが、ある日彼女は失踪してしまう。
 人の悪意を描くのがミステリではあるのだけど・・・
 こういう話は私の好みではありません。

「原罪SHOW」長江俊和
 人の死ぬところを見せるツアーがあるという噂が出回る。
 TVの報道局に勤務する "私" は、ネットをたぐって
 このツアーに潜り込むことに成功する。
 マイクロバスに集った "客" を乗せ、向かった先は山奥の峠道。
 止まった車から見えたのは、一人の男が
 金属バットで滅多打ちされ、灯油をかけて焼き殺されるシーンだった。
 "私" はツアーの背後関係を探り始めるが・・・
 終盤は読者の予想を上回る展開。いやあこれも上手い。
 本書収録7編中のトップ2の、もうひとつ。


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スチームオペラ 蒸気都市探偵譚 [読書・ミステリ]

スチームオペラ (蒸気都市探偵譚) (創元推理文庫)

スチームオペラ (蒸気都市探偵譚) (創元推理文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/04/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

内燃機関の代わりに蒸気機関が発達した、
いわゆるスチームパンク世界を舞台にしたSFミステリ。

蒸気辻馬車が行き交い、圧搾空気推進超特急が駆け抜ける。
そんな大都市で生活する女学生、エマ・ハートリー。
そろそろ将来の職業を見据え、どこかに弟子入りして
一定期間の修行しなければならないが、
いまだに進路を決めかねていた。

その日、彼女の父がキャプテンを務める
エーテル推進の空中船《極光号》が帰還した。
今回は大気圏を越え、はるか星の世界まで旅をしてきたという。

 ちなみに、《極光号》の外見は
 『天空の城ラピュタ』のOPに登場するような飛行船を
 イメージすればだいたい間違いないだろう。
 あの、プロペラがやたらいっぱいついてるやつ(笑)。

エマは学校をサボり、首都港まで父を出迎えに向かう。
警備の目をくぐって《極光号》に忍び込んだエマは、
謎のカプセルと、その中で眠る一人の少年を発見する。
そこへ現れた名探偵ムーリエ。
エマはカプセルから目覚めた謎の少年・ユージンとともに
彼の助手を勤めることになる。

彼らが出会った最初の事件は、エマの同級生・サリーの父が
オーナーを勤めるホテルで起こった殺人事件だった。

実験物理学者・モーロイ教授が密室状態の中で撲殺されたのだ。
そして、彼と同じ学会発表に参加していたサイモン博士が現場に現れ、
密室殺人の謎解きを始めるのだが・・・


我々の世界とは、一部異なる物理法則が支配する世界だけに
いろいろな説明/解釈がなされる。
サイモン博士の説明も、このあとムーリエが提示する仮説も、
この世界では起こり得ることなのかもしれないが、
読者からすれば、納得することはいささか難しいだろう。


この後、第二の不可能殺人(姿なき犯人)も起こるのだが、
二つの殺人事件の最終的な真相として開示されるトリックは、
(我々の世界の物理法則に照らしても)
原理的には不可能ではないものの限りなく実現可能性は低いと思う。

それでもなんとなく許せてしまうのは、
このファアンタジックな異世界をリアルに書き込んできた
作者の努力のたまものだろう。
「かなり無理そうだけど、この世界でならアリかな」
って思える人なら、本書は楽しめるだろう。


実は本書中最大の謎は、密室殺人や不可能殺人のトリックではなく
ユージンの正体だろう。各章の合間に断片的に描かれていて、
こちらはかなりSF的な背景がありそうなことが予感でき、
さらに今回の事件の底流に深く関わっていることが明かされる。

いやぁ、しかしながらこれはまた古典的だなあ。
彼の "レトロフューチャーな正体"(笑) が受け入れられるのも、
このスチームパンク世界設定のおかげだろう。


ところがところが、まだ終わりではないんだなぁ。
最後の最後で、この世界の根底に関わることが判明するんだが、
それは読んでのお楽しみ。私はけっこう驚いた。

巻末のあとがきにもあるけど、
作者の趣味というか嗜好が炸裂している作品。
しかし読者を置いてきぼりにはしないで、
最後までSFとして、そしてミステリとして楽しませてくれる。
そういう意味ではとても贅沢なつくり。
わたしはとても楽しんで読ませていただいた。


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先生、大事なものが盗まれました [読書・ミステリ]

先生、大事なものが盗まれました (講談社タイガ)

先生、大事なものが盗まれました (講談社タイガ)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/19
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

このミステリはかなり世界設定が特殊だ。

まず、舞台となるのは凪島(なぎのしま)。
4万人ほどの人が住む島だ。
場所は明示されていないが、(たぶん)日本のどこかにある(笑)。

島の形はほぼ正三角形をしていて、
それぞれの頂点にあたる場所には3つの高校がある。

北の端にあるのが灯台守(とうだいもり)高校。
ヒロインの神灯(しんとう)雪子が通う学校である。

西南の端には御盾(みたて)高校。
島のエリートが集う学校で、警察や法務官僚を輩出し、さらには
多くの卒業生が諜報員や私立探偵として働いているという。
人呼んで「探偵高校」。
ここには、雪子の幼なじみの男の子、千歳圭(ちとせ・けい)が通う。

そして東南の端には黒印(こくいん)高校。
かつて流刑島だった凪島には、今でもその末裔が多く暮らしている。
彼らには、なぜか体のどこかに黒い痣があるという共通した特徴がある。
島の人口の1/3を占める彼らは大きな勢力であり、
また伝統的に(?)「盗む」技術に長けていて
時の権力者たちにとっては "重宝" な存在として利用されてきた。
黒印高校にはその「黒印を持つ末裔たち」が入学し、
「盗む技術」を磨いているという。
そしてここにも、やはり雪子の幼なじみの
小舟獅子丸(こぶね・ししまる)が入学していた。

本書では、この3人組が出会う3つ事件の顛末を描いている。


ここまで書いてきて思ったけど、かなりむちゃくちゃな設定だなあ。
たぶん「架空の世界のファンタジック・ミステリ」へと
振り切ってしまうためなのだろうけど、
この島の存在自体にものすごい "仕掛け" が
仕込んであるような気もしないでもない(笑)。

そのあたりは現時点では不明だ。

ただ本書の最後では「つづく」とあるので、続巻の予定があるのだろう。
物語が進むとまたいろいろなことが明らかになってくるのかもしれない。


なんだか設定を紹介するだけで疲れてしまった(笑)。


本書には3編を収録している。

「第一話 先生、記念に一枚いいですか」
 灯台守高校の入学式の朝、新入生の雪子は
 遅刻しそうになるところを親切なバスの運転手に救われる。
 しかしその運転手がなぜか雪子の教室に現れる。
 彼こそ雪子のクラス担任・夜去廻(ヨサリ・メグル)だったのだ。
 入学式後に集まった雪子たち3人組。
 雪子とシシマルは、チトセから
 御盾高校への入学早々に与えられた課題について相談される。
 それは「未解決事件を解決せよ」というもの。
 その事件とは、島唯一のアートギャラリーに展示されている
 彫刻・『招きライオン』に関するもの。
 ある日、ギャラリーの床に一枚の紙が置かれ、そこには
 「あなたのだいじなものをいただきました 怪盗フェレス」
 と書かれていた。しかし『招きライオン』はそのままそこにある。
 いったい怪盗フェレスは "何" を盗んだのか?
 調査を始めた3人だったが・・・
 終盤の展開はミステリというよりはSF。
 まあ、ここまで読んでくればなんとなく
 "普通の" ミステリじゃないんだろうなぁとは思っていたけど(笑)。
 そしてその中で、雪子はヨサリ先生こそ怪盗フェレスではないか、
 という疑いを抱いていく・・・

うう、事件を一つ紹介するだけでまたすごく疲れてしまったよ。
あとの2編は題名だけ紹介しておこう。

「第二話 先生、待ち合わせはこちらです」
「第三話 先生、なくしたものはなんですか」

この2編も、ミステリのつもりで読んでいると肩すかしを喰う。
(もっとも、第一話を読めばそういう意識はなくなると思うがwww)
上にも書いたけれども、SFかファンタジーを読むつもりで
取りかかった方がいいだろう。

続巻ではヨサリ先生の過去なども明らかになりそうなんだが
読むかどうかは微妙だなあ・・・


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コルトM1851残月 [読書・歴史/時代小説]

コルトM1851残月 (文春文庫)

コルトM1851残月 (文春文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/04/08
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

タイトルのコルトM1851とは、
アメリカの銃器メーカー・コルト社が1851年に発売した拳銃のこと。
目次の次のページにこの銃の図解も載っている。

文庫版の表紙では、髷を結った町人風の男が
この銃を手にした姿が描かれている。
つまり、時代劇にこの銃は登場するのだ。
時期的には矛盾はしないものの、
これはちょっとしたインパクトだった。


江戸時代も最末期、明治維新までほんの15年ほどの1853年が舞台。

江戸の廻船問屋・三多加屋の番頭・郎次は
堅気の商人を勤める一方、江戸の裏金融を牛耳る
儀平一家の大幹部でもあった。
人呼んで「残月の郎次」。

そして彼にはもう一つ、人に知られぬ秘密があった。
それは "商売上" の邪魔者を、
6連発式の拳銃で密かに "始末" していること。
死体は必ず、人目につかぬよう "処理" しているため
誰も郎次が銃を使ったことに気づかない。

周囲の者たちは、郎次が凄腕の殺し屋と手を組んでいると見ている。
郎次自身もそれを否定せず、
親分の儀平にすら拳銃のことを明かさないできた。

おかげで組織内での出世も順調で、
郎次のことを儀平の跡目を継ぐ候補者の一人とみるものもいた。
しかし順風満帆な日々はある日突然に断ち切られる。

郎次は組織の金をかすめ取った女・おしまを始末しようとするが
なぜか儀平はそれを黙認しようとする。

おしまの言動を腹に据えかねる郎次。
このままでは示しがつかないと、彼女を殺してしまう。
しかしそれを知った儀平によって、
郎次は閑職に追いやられてしまうのだった。

このままでは終われない。
失地回復をもくろむ郎次は、儀平の意図を探り始めるが・・・


現在の物語と並行して、郎次の生い立ち、
そして彼が拳銃を入手した経緯などが語られていく。

幼い頃に家族を失った悲惨な経験。
身寄りのない自分を引き取り、一人前に育ててくれた儀平。
しかしその儀平の真意はいずこにあるのか。


やがて明らかになる儀平一味の陰謀、
そして郎次の家族を死に追いやった真相。
組織にも裏切られて、自分はとことん孤独であったことを
今更ながらに思い知る郎次。

屈辱と失意の中、郎次は組織から離れ、
生き残るために儀平と全面対決する道を選ぶ。


クライマックスでは、郎次は儀平の潜むアジトに対して
拳銃一丁だけを手に急襲をかける。
しかしそれを予想していた儀平は、
圧倒的な "戦力" を用意して待ち受けていた。

まさに絶体絶命かと思われたが
郎次はその状況を逆利用して、次々に儀平の手下を倒していく。
このあたりはハリウッド映画的な
派手なアクション演出でぐいぐい読ませる。

そして物語は、いかにも "ノワール" なエンディングを迎える。


月村了衛って好きな作家さんなんだけど
ノワール小説は私の守備範囲外。
というかはっきり言って苦手。

 かなり昔だけど馳星周の『不夜城』を読んで
 やっぱりノワールは受け付けないなあ・・・って思った。
 ところがその馳星周が本書の解説を書いていたりする(笑)。

そんなわけで、読み通せるかちょっと心配だったんだけど
最後までそれなりに楽しんで読めたよ。
だけど、あのラストはやっぱり好きになれなかったなあ・・・


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天鬼越 蓮丈那智フィールド・ファイルV [読書・ミステリ]

天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイルV (新潮文庫)

天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイルV (新潮文庫)

  • 作者: 北森 鴻
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/03/27
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

タイトルは「あまぎごえ」と読むが
石川さゆりとは関係がありません(笑)。

2010年に著者である作家・北森鴻氏が亡くなり、
いくつかのシリーズが未完で残された。
この「蓮丈那智」シリーズも、もう新刊は出ないのかと
このブログでも書いたのだけど、
その記事を読んでくださった「コースケ」さんから
「残されたプロット+単行本未収録作品の5巻目が出てる」
と教えていただいた。

ありがとうございます。m(_ _)m

そして今回、文庫となった本書を手に取ったという次第。

本書は

単行本未収録だった2編
   +
浅野里沙子さんによる書き下ろし4編
(うち1編は北森氏の残したプロットによる)

という構成。

浅野さんは北森鴻の公私にわたるパートナーで、
前巻の『邪馬台』を途中から書き継いで完結させた人でもある。


「鬼無里(きなさ)」
 山深いH村に伝わる「鬼哭念仏」。
 鬼の面をつけた村人が
 年に一度、山から下りてくる鬼哭様に扮し、村の中を練り歩く。
 5年前、この祭りの調査に向かった那智たちの前で起こった殺人事件。
 謎のメールに導かれ、助手の三国は再びH村へ向かうが・・・
 横溝正史的な寒村で起こる伝奇ミステリ。
 こういう雰囲気を書ける人も貴重だったのに。

「奇遇論」
 市民講座の講師を務めることになった三国。
 しかし参加したメンバーの一人・出雲の妻が
 地下鉄のホームから転落死を遂げて・・・
 珍しく都会が舞台の作品。
 妻殺害の容疑をかけられた出雲だが、意外な真相が判明する。
 やっぱり北森鴻は短編ミステリの名手だったというのを実感する。


ここまでが北森鴻によるもの。
以下の作品は浅野さんが書き継いだもの。


「祀人形(まつりひんな)」
 地方の旧家・榊原家が御守をしている
 神社の調査依頼を受けた蓮丈研究室。
 しかし現地へ到着した三国が調査を開始した早々、
 殺人事件が起こる・・・
 遠い過去から続く因縁が事件の遠因になっていたりと
 こちらも横溝的展開。
 その気になれば長編にも仕立てられそうな雰囲気もあって
 浅野さんオリジナルの長編ミステリも読んでみたくなる。

「補堕落(ふだらく)」
 宮崎県原佐町に伝わる歴史的行事「補陀落渡海」。
 かつて極楽浄土を目指して海へ乗り出した僧に見立て、
 その年に選ばれた若者がただ一人で
 沖合に停泊した船の中で一夜を明かす。
 しかしその年の参加者・敷島は、翌朝に死体となって発見される。
 一種の密室ともいえる不可能状況下の殺人事件。
 明かされてみればそれしかないと思えるトリック、
 古の風習とリゾート開発という現代的なテーマを組み合わせて
 単なる謎解きに終わらない物語になっている。
 あとどうでもいいことだけど、「補陀落」と聞くと
 『妖星伝』(半村良)を思い浮かべてしまうのは私だけですかそうですか。

「天鬼越」
 在野の民俗学研究者を名乗る賀川という男が
 蓮丈研究室に持ち込んできた古文書・「天鬼年代記」。
 その文書が伝わる天鬼村へ赴いた蓮丈と三国だが
 村では40年前に立て続けに3件もの不審死が起こっていたという。
 さらに賀川の変死体も発見されて・・・
 これもまた古くからの因縁に、ダム建設という
 現代の問題が持ち上がり、事件へとつながっていく。
 表題作らしく、伝奇度では本書中で一番だろう。
 「あとがき」によると、本作は
 北森氏が生前に残したA4用紙数枚程度のプロットを元に
 浅野さんが小説化したものという。
 このようにすばらしい出来になって、
 さぞ北森氏も喜んでいるのではないか。

「偽蜃絵(にせしんえ)」
 シリーズの掉尾を飾る作品。
 三重県の名張にきた蓮丈研究室の一行。
 泊まった老舗旅館に飾られた一枚の掛軸には、
 ハマグリの見せる"蜃気楼"の絵が描かれていた。
 昭和10年頃に宿に泊まった若い絵師によるものだという。
 この絵一枚から、那智は意外な物語を紡ぎ出してみせるのだった。
 そして最後の最後に意外な事実が明かされて、全巻の終わりとなる。
 海外の某巨匠に同じ趣向の短編があったなあ・・・
 なんて思いながら巻を閉じた。
 ちなみに、最後の最後のオチはなんとなく見当がついたよ。
 年季の入ったミステリファンのツボをうまくついてる出来といい、
 文庫で30ページに満たない作品だが、密度は高い。
 浅野里沙子、侮りがたし。


これで本当に蓮丈那智シリーズは打ち止めとなる。
悲しいけれど、物事にはいつかは終わりがくる。
『こち亀』だって連載終了になったし(笑)。

北森鴻の後を書き継いだ浅野里沙子さん。
前巻でも感じたけど、驚くほど違和感なく
「連丈ワールド」を引き継いでいる。
そのためには、おそらく並々ならぬ努力があったのだろうと推察する。
そこには北森鴻氏への愛情があったのはもちろんだが
彼女自身もまたこのシリーズへの愛着があったのだろうと思う。

浅野さんは時代劇がメインの人らしいけど、
ミステリにも並々ならぬ才能があると思う。
上にも書いたけど、北森鴻云々は別にして、
彼女が書くオリジナルのミステリというのも
いつか読んでみたいものだ。


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青春探偵ハルヤ [読書・ミステリ]

青春探偵ハルヤ (創元推理文庫)

青春探偵ハルヤ (創元推理文庫)

  • 作者: 福田栄一
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/08/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

浅木晴也(ハルヤ)は苦学生である。
アルバイトで学費と生活費を稼ぎ出しながら、
悪友の俊喜、和臣とともに学生生活を過ごしている。

そんなある日、ハルヤは
女学生・美羽(みう)につきまとう不審者を捕まえれば
報酬が受け取れるという話を聞き、引き受ける。

ハルヤは、同級生の葵らの協力を受けて
ストーカー候補者をリストアップしていく。

美羽のマンションに赴いたハルヤは、建物の前に佇む男を発見する。
しかしその男・広沼は、美羽の隣の部屋に住む妹が失踪し、
連絡が取れなくなっていて捜しているのだという。
ハルヤは広沼から妹の捜索への協力を求められてしまう。

候補者リストから浮かんだ容疑者・馬場に接触したハルヤだったが
実は馬場は夏紀という女から強請られていて、
美羽につきまとうどころではなく、逆にハルヤは助けを求められる。

さらに、さらに、というわけで
ハルヤの行くところ様々な事件が起こっていて
ことごとくハルヤは巻き込まれていってしまうのだった・・・


複数の事件が同時進行するミステリを
「モジュラー型」と言うらしいが、
それを私はR・D・ウィングフィールドの
「フロスト警部シリーズ」で知った。

 もっともこのシリーズ、
 最初の2冊しか読んでないんだけどね。

ネットでちょっと調べてみると、けっこう作例も多くて
ミステリの中では一つのジャンルをなしているようだ。
京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」の一部の作品もそうらしいと聞いて、
言われてみればそうかなあ、とも思う。


もちろん、すべての事件が単独のワケはなく、
たとえばA・B・C・Dの4つの事件があったとして
AとBが裏で繋がってたり、
Cが原因でDが起こってその結果がAに影響したり、とか
けっこう複雑なつながりを持ってたりする。


今作の中で起こる複数の事件も、中盤以降になると
意外なつながりがあることが次々に判明していく。

そして最後には綺麗にまとめて解決し、
さらにはちょいと意外な "事実" まで明かされてきっちりと終わる。
かなり複雑なプロットながら、読者は混乱することもなく
最後まで迷子にならずに読めるのは、作者の構成の上手さ、
そしてストーリーテリングの巧みさだろう。


キャラもいい。
主役のハルヤは、大学入学前に通っていた学校が
けっこう荒れていたせいか、かなりのヤンキーだったみたいで
肝は据わってるし、腕っ節も強い。それに加えて
いろんな "特殊技能" (ほとんど犯罪じゃね?ってレベル)も
身につけていたりと、とにかく規格外の大学生。
まあ、それくらいハードボイルドじゃないと
現代社会で探偵なんて務まらないよねえ。

俊喜と和臣もハルヤの "助手的存在" として脇を固めてる。

そして、事件を通して少しずつハルヤとの距離を縮めていく
ヒロイン的な立ち位置にいる葵ちゃんも可愛くていい。

二人の "その後" も気になる。
いつの日か、続編が読めるといいなあ。


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訣別の森 [読書・ミステリ]

訣別の森 (講談社文庫)

訣別の森 (講談社文庫)

  • 作者: 末浦 広海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

第54回江戸川乱歩賞を、過日記事をupした
『誘拐児』(翔田寛)と同時受賞した作品。

陸上自衛隊で戦闘ヘリのパイロットだった槇村は
部下の起こした不祥事によって退職、
北海道の東部でドクターヘリの機長をしていた。

北見市の医師・小久保佐智子と恋人関係にあるが、
槇村のパイロットとしての委託契約はまもなく終了し、
高知へ異動することになっていた。
しかし、自らの過去の経緯から、
佐智子との関係にもう一歩踏み出せないでいる。

ある日、帰投する途中の彼のヘリは
墜落した新聞社の取材ヘリを発見、救助に向かう。
その現場で救出したのは、かつての陸自時代の部下であり、
不祥事の関係者でもあった武川一恵だった。

収容されて治療を受けた一恵だったが、その夜、
病院から失踪してしまう・・・


「ドクターヘリ」と「自衛隊」、そして
物語中盤から明らかになる「自然保護問題」をからめて
三題噺にしたミステリという感じか。

さらには暴力団による麻薬密売まででてくるし、
舞台は知床半島の原生林とこれまた広大。

であるから、主人公である槇村は実にアクティブ。
ヘリの操縦はもちろんバイクも駆って
道東の原野を縦横に移動してみせる。

調査に赴いた知床の原野では、なぜか陸自が展開していて、
かつての同期生にも再会する。
この "事件" は、自衛隊もまた調査に当たっていたのだ。

空間的なスケールも大きいし、内容も盛りだくさん。
でも、最後ではきっちりとまとめて
きれいに風呂敷を畳んでみせる手際は
さすがは乱歩賞作家というところか。

 途中で登場人物の行動に一部納得できないものを感じたのだけど
 最後まで読むとそれなりに説明がなされていて、
 そういう意味では "穴" のない作りでもある。

主人公が自らの過去と向き合い、
事件を通じて未来への希望を取り戻していくという
典型的な冒険小説のフォーマットに則ったミステリなんだけど、
ものすごい謎があるわけでもないし、
ものすごいアクションシーンがあるわけでもない。

こう書くと、冒険小説としてもミステリとしても半端な出来なのかと
思われてしまうかも知れないが、そういうことでもないんだな。

上に書いたようにいろんな要素を欲張って取り込んでいるけど、
本書の良さは、それらのバランスがいいことだと思う。
そして主人公の槇村が、過去に対しても、佐智子に対しても
常に誠実であろうとして行動していくこと。
そんな槇村に充分に感情移入できるので
私は最後まで興味を持って読み続けることができた。

そして新たな未来へ向かって踏み出す槇村を見届け、
満足しながら巻を閉じることができたよ。


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つめたい転校生 [読書・ミステリ]

つめたい転校生 (角川文庫)

つめたい転校生 (角川文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

読書録によると、この本を読んだのは7月中旬。
感想をupするのに2ヶ月近く間が空いてしまったが
前の記事に書いたように、8月はもう
記事を書く暇も惜しんで活字を追ってたからねえ・・・

在庫を少しでも減らせるよう、ぼちぼち書いていきましょう。

さて。

本書は、人と、"人でないもの"との間に芽生えた
切ないロマンスを描いた短編6作を収録した作品集である。
全般的にミステリというよりはファンタジーな雰囲気。
まあテーマからしたら、そうならざるを得ないのだろうけど。


「かわいい狙撃手」
 女子大生の"わたし"が一目惚れした彼は、
 いつも大きな手提げケースをさげていた。
 そしてビルの屋上で何かしている。
 ひょっとして、ケースの中身は銃?
 彼は凄腕のスナイパー?
 いやあ、"人ならざるもの"とはこういう意味か、
 ってよくわかる作品です。

「つめたい転校生」
 隣のクラスに転校してきた女の子。
 "僕" は、彼女の姿に数年前に出会った女の子の面影をみる。
 そんな中、彼女は衆人環視の倉庫から忽然と姿を消してしまうが・・・
 ミステリのようで実はホラー?
 ラストは実に切ない。

「うるさい双子」
 女子大生の弓子は、夏休みに東北の旅館・睡蓮荘で
 泊まり込みのバイトをすることに。
 しかし初日に出会ったバイトの先輩・シオネは
 何ともいけ好かない若者。
 そして、旅館の離れにはシオネによく似た青年・ハルが住んでいた。
 本書では珍しくハッピーエンドっぽい?

「いとしいくねくね」
 スランプに陥った漫画家の "私"。
 そんなとき、同じマンションの住人が変死する。
 死ぬ前に、"異様なもの" を見たらしい。
 "私" は、少年の頃に見た、人に死をもたらす
 『くねくね』の記憶をたどり始めるが・・・
 ラストは、ちょっと驚きと切なさと。

「はかない薔薇」
 大学教授が殺害された事件の目撃者はなんと薔薇だった。
 『アンブリッジ』と名付けられた薔薇を刑事の車井が
 手に取ったとき、彼の眼前に事件の光景が浮かんだ・・・
 これもいがいなところで切ない話だ。
 いやあ、たしかにこれも人外ではあるな。

「ちいさいピアニスト」
 森の中にある、住む人もない古ぼけた洋館。
 しかしいつからか、洋館から夜な夜な
 ピアノの音が響いてくるようになった。
 好奇心に駆られて洋館を調べていた "私" は、
 洋館の中に青年の姿を見つけるが・・・
 これもある意味ハッピーエンドなのかもしれないが、
 人外との恋がみのることって果たして幸福なのかどうなのか。


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