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スチームオペラ 蒸気都市探偵譚 [読書・ミステリ]

スチームオペラ (蒸気都市探偵譚) (創元推理文庫)

スチームオペラ (蒸気都市探偵譚) (創元推理文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/04/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

内燃機関の代わりに蒸気機関が発達した、
いわゆるスチームパンク世界を舞台にしたSFミステリ。

蒸気辻馬車が行き交い、圧搾空気推進超特急が駆け抜ける。
そんな大都市で生活する女学生、エマ・ハートリー。
そろそろ将来の職業を見据え、どこかに弟子入りして
一定期間の修行しなければならないが、
いまだに進路を決めかねていた。

その日、彼女の父がキャプテンを務める
エーテル推進の空中船《極光号》が帰還した。
今回は大気圏を越え、はるか星の世界まで旅をしてきたという。

 ちなみに、《極光号》の外見は
 『天空の城ラピュタ』のOPに登場するような飛行船を
 イメージすればだいたい間違いないだろう。
 あの、プロペラがやたらいっぱいついてるやつ(笑)。

エマは学校をサボり、首都港まで父を出迎えに向かう。
警備の目をくぐって《極光号》に忍び込んだエマは、
謎のカプセルと、その中で眠る一人の少年を発見する。
そこへ現れた名探偵ムーリエ。
エマはカプセルから目覚めた謎の少年・ユージンとともに
彼の助手を勤めることになる。

彼らが出会った最初の事件は、エマの同級生・サリーの父が
オーナーを勤めるホテルで起こった殺人事件だった。

実験物理学者・モーロイ教授が密室状態の中で撲殺されたのだ。
そして、彼と同じ学会発表に参加していたサイモン博士が現場に現れ、
密室殺人の謎解きを始めるのだが・・・


我々の世界とは、一部異なる物理法則が支配する世界だけに
いろいろな説明/解釈がなされる。
サイモン博士の説明も、このあとムーリエが提示する仮説も、
この世界では起こり得ることなのかもしれないが、
読者からすれば、納得することはいささか難しいだろう。


この後、第二の不可能殺人(姿なき犯人)も起こるのだが、
二つの殺人事件の最終的な真相として開示されるトリックは、
(我々の世界の物理法則に照らしても)
原理的には不可能ではないものの限りなく実現可能性は低いと思う。

それでもなんとなく許せてしまうのは、
このファアンタジックな異世界をリアルに書き込んできた
作者の努力のたまものだろう。
「かなり無理そうだけど、この世界でならアリかな」
って思える人なら、本書は楽しめるだろう。


実は本書中最大の謎は、密室殺人や不可能殺人のトリックではなく
ユージンの正体だろう。各章の合間に断片的に描かれていて、
こちらはかなりSF的な背景がありそうなことが予感でき、
さらに今回の事件の底流に深く関わっていることが明かされる。

いやぁ、しかしながらこれはまた古典的だなあ。
彼の "レトロフューチャーな正体"(笑) が受け入れられるのも、
このスチームパンク世界設定のおかげだろう。


ところがところが、まだ終わりではないんだなぁ。
最後の最後で、この世界の根底に関わることが判明するんだが、
それは読んでのお楽しみ。私はけっこう驚いた。

巻末のあとがきにもあるけど、
作者の趣味というか嗜好が炸裂している作品。
しかし読者を置いてきぼりにはしないで、
最後までSFとして、そしてミステリとして楽しませてくれる。
そういう意味ではとても贅沢なつくり。
わたしはとても楽しんで読ませていただいた。


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