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訣別の森 [読書・ミステリ]

訣別の森 (講談社文庫)

訣別の森 (講談社文庫)

  • 作者: 末浦 広海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

第54回江戸川乱歩賞を、過日記事をupした
『誘拐児』(翔田寛)と同時受賞した作品。

陸上自衛隊で戦闘ヘリのパイロットだった槇村は
部下の起こした不祥事によって退職、
北海道の東部でドクターヘリの機長をしていた。

北見市の医師・小久保佐智子と恋人関係にあるが、
槇村のパイロットとしての委託契約はまもなく終了し、
高知へ異動することになっていた。
しかし、自らの過去の経緯から、
佐智子との関係にもう一歩踏み出せないでいる。

ある日、帰投する途中の彼のヘリは
墜落した新聞社の取材ヘリを発見、救助に向かう。
その現場で救出したのは、かつての陸自時代の部下であり、
不祥事の関係者でもあった武川一恵だった。

収容されて治療を受けた一恵だったが、その夜、
病院から失踪してしまう・・・


「ドクターヘリ」と「自衛隊」、そして
物語中盤から明らかになる「自然保護問題」をからめて
三題噺にしたミステリという感じか。

さらには暴力団による麻薬密売まででてくるし、
舞台は知床半島の原生林とこれまた広大。

であるから、主人公である槇村は実にアクティブ。
ヘリの操縦はもちろんバイクも駆って
道東の原野を縦横に移動してみせる。

調査に赴いた知床の原野では、なぜか陸自が展開していて、
かつての同期生にも再会する。
この "事件" は、自衛隊もまた調査に当たっていたのだ。

空間的なスケールも大きいし、内容も盛りだくさん。
でも、最後ではきっちりとまとめて
きれいに風呂敷を畳んでみせる手際は
さすがは乱歩賞作家というところか。

 途中で登場人物の行動に一部納得できないものを感じたのだけど
 最後まで読むとそれなりに説明がなされていて、
 そういう意味では "穴" のない作りでもある。

主人公が自らの過去と向き合い、
事件を通じて未来への希望を取り戻していくという
典型的な冒険小説のフォーマットに則ったミステリなんだけど、
ものすごい謎があるわけでもないし、
ものすごいアクションシーンがあるわけでもない。

こう書くと、冒険小説としてもミステリとしても半端な出来なのかと
思われてしまうかも知れないが、そういうことでもないんだな。

上に書いたようにいろんな要素を欲張って取り込んでいるけど、
本書の良さは、それらのバランスがいいことだと思う。
そして主人公の槇村が、過去に対しても、佐智子に対しても
常に誠実であろうとして行動していくこと。
そんな槇村に充分に感情移入できるので
私は最後まで興味を持って読み続けることができた。

そして新たな未来へ向かって踏み出す槇村を見届け、
満足しながら巻を閉じることができたよ。


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