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天鬼越 蓮丈那智フィールド・ファイルV [読書・ミステリ]

天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイルV (新潮文庫)

天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイルV (新潮文庫)

  • 作者: 北森 鴻
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/03/27
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

タイトルは「あまぎごえ」と読むが
石川さゆりとは関係がありません(笑)。

2010年に著者である作家・北森鴻氏が亡くなり、
いくつかのシリーズが未完で残された。
この「蓮丈那智」シリーズも、もう新刊は出ないのかと
このブログでも書いたのだけど、
その記事を読んでくださった「コースケ」さんから
「残されたプロット+単行本未収録作品の5巻目が出てる」
と教えていただいた。

ありがとうございます。m(_ _)m

そして今回、文庫となった本書を手に取ったという次第。

本書は

単行本未収録だった2編
   +
浅野里沙子さんによる書き下ろし4編
(うち1編は北森氏の残したプロットによる)

という構成。

浅野さんは北森鴻の公私にわたるパートナーで、
前巻の『邪馬台』を途中から書き継いで完結させた人でもある。


「鬼無里(きなさ)」
 山深いH村に伝わる「鬼哭念仏」。
 鬼の面をつけた村人が
 年に一度、山から下りてくる鬼哭様に扮し、村の中を練り歩く。
 5年前、この祭りの調査に向かった那智たちの前で起こった殺人事件。
 謎のメールに導かれ、助手の三国は再びH村へ向かうが・・・
 横溝正史的な寒村で起こる伝奇ミステリ。
 こういう雰囲気を書ける人も貴重だったのに。

「奇遇論」
 市民講座の講師を務めることになった三国。
 しかし参加したメンバーの一人・出雲の妻が
 地下鉄のホームから転落死を遂げて・・・
 珍しく都会が舞台の作品。
 妻殺害の容疑をかけられた出雲だが、意外な真相が判明する。
 やっぱり北森鴻は短編ミステリの名手だったというのを実感する。


ここまでが北森鴻によるもの。
以下の作品は浅野さんが書き継いだもの。


「祀人形(まつりひんな)」
 地方の旧家・榊原家が御守をしている
 神社の調査依頼を受けた蓮丈研究室。
 しかし現地へ到着した三国が調査を開始した早々、
 殺人事件が起こる・・・
 遠い過去から続く因縁が事件の遠因になっていたりと
 こちらも横溝的展開。
 その気になれば長編にも仕立てられそうな雰囲気もあって
 浅野さんオリジナルの長編ミステリも読んでみたくなる。

「補堕落(ふだらく)」
 宮崎県原佐町に伝わる歴史的行事「補陀落渡海」。
 かつて極楽浄土を目指して海へ乗り出した僧に見立て、
 その年に選ばれた若者がただ一人で
 沖合に停泊した船の中で一夜を明かす。
 しかしその年の参加者・敷島は、翌朝に死体となって発見される。
 一種の密室ともいえる不可能状況下の殺人事件。
 明かされてみればそれしかないと思えるトリック、
 古の風習とリゾート開発という現代的なテーマを組み合わせて
 単なる謎解きに終わらない物語になっている。
 あとどうでもいいことだけど、「補陀落」と聞くと
 『妖星伝』(半村良)を思い浮かべてしまうのは私だけですかそうですか。

「天鬼越」
 在野の民俗学研究者を名乗る賀川という男が
 蓮丈研究室に持ち込んできた古文書・「天鬼年代記」。
 その文書が伝わる天鬼村へ赴いた蓮丈と三国だが
 村では40年前に立て続けに3件もの不審死が起こっていたという。
 さらに賀川の変死体も発見されて・・・
 これもまた古くからの因縁に、ダム建設という
 現代の問題が持ち上がり、事件へとつながっていく。
 表題作らしく、伝奇度では本書中で一番だろう。
 「あとがき」によると、本作は
 北森氏が生前に残したA4用紙数枚程度のプロットを元に
 浅野さんが小説化したものという。
 このようにすばらしい出来になって、
 さぞ北森氏も喜んでいるのではないか。

「偽蜃絵(にせしんえ)」
 シリーズの掉尾を飾る作品。
 三重県の名張にきた蓮丈研究室の一行。
 泊まった老舗旅館に飾られた一枚の掛軸には、
 ハマグリの見せる"蜃気楼"の絵が描かれていた。
 昭和10年頃に宿に泊まった若い絵師によるものだという。
 この絵一枚から、那智は意外な物語を紡ぎ出してみせるのだった。
 そして最後の最後に意外な事実が明かされて、全巻の終わりとなる。
 海外の某巨匠に同じ趣向の短編があったなあ・・・
 なんて思いながら巻を閉じた。
 ちなみに、最後の最後のオチはなんとなく見当がついたよ。
 年季の入ったミステリファンのツボをうまくついてる出来といい、
 文庫で30ページに満たない作品だが、密度は高い。
 浅野里沙子、侮りがたし。


これで本当に蓮丈那智シリーズは打ち止めとなる。
悲しいけれど、物事にはいつかは終わりがくる。
『こち亀』だって連載終了になったし(笑)。

北森鴻の後を書き継いだ浅野里沙子さん。
前巻でも感じたけど、驚くほど違和感なく
「連丈ワールド」を引き継いでいる。
そのためには、おそらく並々ならぬ努力があったのだろうと推察する。
そこには北森鴻氏への愛情があったのはもちろんだが
彼女自身もまたこのシリーズへの愛着があったのだろうと思う。

浅野さんは時代劇がメインの人らしいけど、
ミステリにも並々ならぬ才能があると思う。
上にも書いたけど、北森鴻云々は別にして、
彼女が書くオリジナルのミステリというのも
いつか読んでみたいものだ。


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コメント 3

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2016-09-16 01:56) 

mojo

みなさん、はじめまして(ですよね?)。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2016-09-16 01:57) 

mojo

コースケさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
そして、本書の情報をありがとうございました。
by mojo (2016-09-16 01:58) 

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