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ヒア・カムズ・ザ・サン [読書・その他]

ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)

ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

本書はいささか変わった成立過程があったらしい。

 真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
 彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
 強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
 ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
 カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
 父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
 しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた・・・

この「あらすじ」から、小説と演劇という
二つの物語をつくる試みが行われたという。
そのうち、小説版の担当をしたのが本書の著者・有川浩だ。

そして、本書にはもう一つ、
「Parallel」と副題のついた同名の小説も収められている。
これは、有川氏が演劇版を見て想を得た物語とのことで、
基本設定・登場人物を同じくしながら異なる内容を展開している。

主人公がサイコメトラー的な超能力を持つがゆえに
SF寄りな雰囲気になるかと思いきや、そこはやはり有川浩。
超常の要素は控えめに、
あくまで人間ドラマ主体のストーリーを紡いでみせた。


便宜的に「小説版」と「パラレル版」としよう。

展開としての大きな違いは2つ。

ひとつは、真也とカオルの関係。
小説版での二人は同期入社の友人関係。
(もっとも、ゆくゆくは恋仲になりそうな描写もある)
パラレル版では結婚まで秒読みに迫った恋人同士として登場する。

そしてもう一つはカオルの父の設定。
シナリオライターとしての成功を夢見て
妻子を捨ててアメリカに渡ったのは同じながら
小説版では大作映画の脚本家として華々しい凱旋を飾る。
パラレル版では・・・これは読んでのお楽しみだろう。


小説のタッチもかなり異なる。
どちらもカオルの父の秘密が明かされるのは同じながら
小説版の終盤では、真也が(超能力の助けもあるが)
カオルの父に迫り、意外な "事情" が明らかになる。
このあたりの真也くんは "名探偵" みたいである。
有川浩ってミステリもいけるんじゃね? なんて思ったよ(笑)
一方、パラレル版では、有川浩お得意の人情噺的な展開を見せる。

その名の通り、パラレルワールドのような二つの物語。
個人的にはパラレル版の方が、より有川らしくて好きだけど
小説版も捨てがたいなぁ・・・


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