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太陽の石 [読書・ファンタジー]

太陽の石 (創元推理文庫)

太陽の石 (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

デビュー作から続く《オーリエラントの魔道師》シリーズの第3作。
とは言っても、前2作とストーリー上の直接のつながりはないので
本作から読み始めても全くOK。

実際、私だって前2作の内容なんてほとんど忘れてるんだけど(^^;)
それでも支障なく読めたよ。


コンスル帝国の最北西部に住むデイスは、
村の外に捨てられていたのを拾われ、16歳になるまで
養父母の家族とともに育てられてきた。

ある日デイスは、<太陽の石>と呼ばれる
鮮緑色の宝石のついた "肩留め" を拾う。
時を同じくして、山に眠る魔道師・リンターが目覚めた。

300年前、宮廷魔道師の座を巡って
骨肉相食む戦いを繰り広げたイザーカト九兄妹。
勝利したのは、兄弟姉妹の中で最強の魔力を誇る次女・ナハティ。
ある者はナハティに殺され、またある者はナハティに降った。
そして敗れた次男・リンターは遠い辺境の地に飛ばされ、
長い眠りについていた。

兄姉たちを粛正し、圧政を布くナハティへの激しい復讐心を滾らせ、
再戦を挑むために旅立つリンター。
自らの行く末に悩んでいたデイスは、幼なじみのビュリアン、
姉のネアリイと共にリンターと同行することになる。

しかし彼らの前にナハティ配下の4人の銀戦士が現れる。
そして、デイスが背負う秘密が次第に明らかになっていく・・・


文庫で280ページほどと決して長くはないのだが、読み応えは充分。
本編中の随所に300年前のエピソードが挿入されるのだが
9人の魔道師たちの能力・性格の描き分けも達者。
もちろん現在のキャラたちも。
特にイスリル帝国の魔導師・ザナザの "惚けた味" がいいなあ。

ただ、決戦場に着くまでの道中記の部分がいささか長く感じたかな。
その分、クライマックス・シーンのページ数は少なめ。
もっとも、内容はかなり高密度に描かれてるので
物足りなく感じることはなかったけど。

肝心の兄妹喧嘩の決着だけれど・・・
ちょっと個人的に残念なところがあって
★4つにしようかと思ったんだけど、半分減量してしまいました。

まあ、私の好みの問題なので、そう思わない人も多いでしょうけど。


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伊藤博文邸の怪事件 [読書・ミステリ]

伊藤博文邸の怪事件 (光文社文庫)

伊藤博文邸の怪事件 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/06/11
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

九州出身で大阪で英語を学んだ杉山潤之助。
明治17年、上京した彼は念願だった伊藤博文の屋敷に
新入りの書生として住み込むことになった。

しかし、新生活が始まって早々に、先輩書生の一人・桜井が
屋敷内で殺されるという事件が起こる。

潤之助は、相部屋となった書生仲間の月輪(がちりん)龍太郎と共に
犯人を求めて推理を巡らせるが、
やがて伊藤博文邸に秘められた、ある "仕掛け" が明らかになる・・・


明治~大正~昭和初期を舞台にした作品は好きで
書店で見かけたらかなりの確率で購入してる。
本書もその例に漏れず、ってやつですね。

標題にある伊藤博文はもちろん、伊藤の娘の家庭教師として
津田梅子が登場したりと、実在の人物もストーリーに絡んでくる。
そういうところは歴史小説の醍醐味でもある。


ただまあ、本書はミステリなので、ミステリとしての出来が問題。
残念ながら、それについてはいささか残念に思った。

だいたい裏表紙の惹句からして誇大広告気味。
「恐るべき密室殺人事件」なんて書いてあったら、
どんなにおどろおどろしいのかと期待してしまうじゃないか。

でもこれ、密室じゃないでしょ?(^^;)
屋敷内ではあるけど出入りが不可能な密閉空間じゃないし、
人間だって何人もいたんだもの・・・

「堂々たる本格ミステリの傑作」ってあるけど、それもどうかなあ。
本書の中核を占めるネタは、某大御所作家の超有名短編と同じもの。

別にトリックの再使用が悪いとは思わないけど、
最後にこのネタが明かされた時には、ちょっとガッカリしたし
何となく釈然としないものを感じたりもした。

短編だったら「やられたー」って素直に受け取れても
長編だとそう思えないのかなぁ・・・
やっぱ短編向きのネタなんだろうか。
それとも私のココロが狭いのでしょうかねぇ・・・(^^;)。


解説の千街晶之氏によると、
作者の岡田秀文氏は、ずっと時代小説を書いてきた人で、
本格ミステリ作品としては本書が第1作目とのこと。

本作は潤之助&龍太郎が登場するシリーズになっていて、
既に2作めの『黒龍荘の惨劇』が刊行されている。
千街氏によると「第2作の方が出来がいい」そうなので、
とりあえず『黒龍荘-』までは読んでみようかなあ。


★2つにしようかと思ったんだけど、
私の好きな時代なので★半分増量しました。


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『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』制作決定 [アニメーション]

そろそろ『ヤマト2199』の続編の情報が出る頃だなあと思って
ネットを漁っていたら出くわしました。

複数のサイトやブログで取り上げられてるので間違いなさそう。


『さらば』と『2』をベースに作るという情報は出ていたけど
『愛の戦士たち』とはまたストレートな副題をつけましたねぇ。

私が『さらば』に対してどんな思いを抱いているかは
4年くらい(もう4年か)前にこのブログに書き散らかしたので
改めてここには記さないけど、
このサブタイトルに一抹の不安を感じるのは私だけだろうか・・・


制作スタッフも一部発表になったようだ。


シリーズ構成・脚本は小説家の福井晴敏。

この人の参加はサプライズ。正直なところビックリした。

江戸川乱歩賞を受賞してデビュー、『亡国のイージス』で大ブレイク。
近年では『機動戦士ガンダムユニコーン』の作者として有名かな。
骨太な戦闘シーンには定評があるし、
濃厚な心情描写は "福井節" と呼ばれてファンにはお馴染み。

『終戦のローレライ』では、潜水艦・伊507がたった1隻で
総計40隻の米国大艦隊と死闘を繰り広げるさまを堂々と描ききった。
最終決戦場であるアシーガ湾に突入する伊507に、
『2』終盤でのヤマトが重なって見えたよ。

 ちなみに映画『ローレライ』は原作小説とは似て非なる "別もの"。
 原稿用紙で2800枚、文庫で全4巻もある原作を
 2時間の映画に収めようってのがそもそも無理な話だった。
 未読の人、あるいは映画を観てがっかりした人は
 ぜひ原作を読んでほしいなあ。絶対に損はないと思うよ。

まあ、オールCG映画『キャプテンハーロック』(2013)みたいに
大コケした作品にも関わっていたけどね(笑)。

この人はガンダム世代で(いま40代後半のはず)、
ヤマト世代ではないけれど、個人的には楽しみではある。


監督は羽原信義。

『2199』には、第9話「時計仕掛けの虜囚」の
絵コンテ・演出で参加してた人。

 第9話の評価は人それぞれかも知れないけど(私は好きだが)。

この人がセカンドシーズンの監督になるって噂は
かなり前からちらほらネットに流れてはいたけどね。

この人の代表作は何と言っても『蒼穹のファフナー』シリーズだろう。
昨年放映された『蒼穹のファフナーEXODUS』では
冲方丁の高密度な脚本を見事にビジュアル化していたと思う。

きちんとしたストーリーがあれば、それを効果的に映像化する才能は
充分もっている人だと思うので、こちらも期待はもてそうである。

この二人以外のスタッフは不明。

3/31に公式サイトが開設されるらしいので、そこでもう少し
情報が公開されるのでしょう。

まあ、以前にも書いたけど、
過度の期待は抱かず、かといって悲観もせず、
淡々と公開を待ちたいものです。


このニュースをかみさんに伝えてみた。
「やったぁ、決まったのね」
「そのようだね」
「もう古代君は出ませんって書いてある?」
「えーっ、そんなことないよ」(また全国のファンを敵に回す発言を)
「古代君の代わりに真田さんが主役になるとか」
「ないない」(どんだけ真田さん好きなんだ)
「女子の制服デザインを見直すとか」
「ないよ」(あれはもう様式美でしょう)
「入浴シーンはカットするとか」
「ないってば」(需要があるうちはなくならないよねぇ)

・・・またまた夫婦でバカ話ができそうである(笑)。


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総閲覧数80万達成 [このブログについて]

本日、このブログの総閲覧数が80万に達しました。

「継続は力なり」なのか
「塵も積もれば山となる」なのか、よくわかりませんが(笑)
何とかここまでたどり着くことができました。
2006年1月2日の開設以来、約10年3ヶ月での達成です。

 もっとも、その1/3くらいの期間は
 放置してたような気がしますが(^_^;)。


毎回書いていることなんですけど、また書かせていただきます。

真夜中の酔っ払いおじさんのタワゴトを綴った、
まとまらない駄文ばかりのブログですが、
こんなに見に来て頂いて本当にありがとうございます。

いつまで続けられるか分かりませんが、
できる限り頑張っていこうと思ってます。

とは言っても、だんだんトシも取ってきて
体力的にもきついなあと思う時も正直あるので
無理しない範囲で更新していくつもりです。

そんなわけで(どんなわけだ)、
これからもよろしくお願いいたします。m(_ _)m


総閲覧数70万達成の時に書いたのが
「私が還暦を迎えるのと、アクセスが100万を超えるのと、
 どちらが早いか」

書いた時は、けっこう余裕を持って還暦より早く
100万アクセスが達成できると思ってたんだけど
ここ最近の様子を見てると、かなり微妙になってきたなぁ・・・(笑)


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私と踊って [読書・その他]

私と踊って (新潮文庫)

私と踊って (新潮文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/04/30
  • メディア: 文庫



評価:★★

文庫で300ページちょっとの中に19編収めてある。
ミステリ、SF、ホラーその他と多くのジャンルに渡る
ショート・ストーリー集なのだが、
この文章を書き始めてみて、はたと困った。

短編集の場合は、いちばん印象に残った作品とか
出来がよいと思える作品を挙げていくのだけど
本書に限っては何も思いつかないのだ。

記録によるとちょうど一月前の2/24に読み終わってるんだけど
その時既に星2つをつけてるので
内容を忘れたということでもないのだろう。

「恩田陸という作家は、私にとって当たり外れが激しい」
というのは、このブログでも前にも書いたことがあるんだけど、
本書は私にとって "外れ" だったのでしょう。

長い物語の1シーンだけ切り取ったようなものとか
オチがよく分からないものとかが多くて、
"これ" と言える作品に巡り会えなかったようです。

 唯一の例外は巻末に載った「交信」。
 東京創元社の年刊SF傑作選で既読だったんだけど
 探査機「はやぶさ」帰還を記念して書かれたもの。
 初読の時は感動で眼がウルウルしてしまった。
 文庫でわずか1ページの作品なんだけどね。

実は今、長編「夜の底はやわらかい幻」を読んでるんだけど
こちらはとても面白く読ませてもらってる。
こっちの方は "当たり" なんだろうね。


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ノエル - a story of stories - [読書・ミステリ]

ノエル: -a story of stories- (新潮文庫)

ノエル: -a story of stories- (新潮文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

文庫で100ページくらいの3つの中編と、
「四つのエピローグ」と題された終章からなる "連作中編" 集。

この3編は、ストーリー上の直接のつながりはないが、
同一世界の中で起こっており、それぞれに "あるつながり" をもって
ゆるやかに関連しており、「エピローグ」ではそれが一つに繋がる。


「光の箱」
 童話作家の圭介は、高校卒業以来14年ぶりの同窓会に参加する。
 会場に向かいながら、過去を回想する圭介。
 クラスメイトからの虐めに耐えてきた彼は中学1年のある日、
 同じクラスの弥生から絵本作りに誘われる。
 弥生が絵、圭介が文章を担当しながら、二人は心を近づけていく。
 やがて二人は同じ高校へ進学するが、
 そこで出会った弥生の友人・夏実が圭介に接近してくる。
 しかしある日突然、夏実は学校を去ってしまう・・・
 前半は圭介の視点で、後半は弥生の視点で綴られる。
 特に後半になり、弥生を取り巻く状況が明らかになってくると
 雰囲気が否が応でも重苦しくなる。
 しかし、そこは道尾秀介。ラストでは鮮やかな離れ業を見せてくれる。
 巻頭に置かれたこの切ないラブ・ストーリーで、
 私は本書にすっかり魅了されてしまった。

「暗がりの子供」
 小学生の莉子は、間もなく妹が誕生する。
 時を同じくして祖母が病気で入院し、
 父も母も莉子を顧みる余裕がなくなっていく。
 そして莉子の心の中に、
 次第に "ある思い" が育っていく・・・

「物語の夕暮れ」
 元教師・与沢は、図書館で子供相手の
 読み聞かせボランティアを務めている。
 しかし、幼馴染みでもあった妻を脳溢血で失ってから、
 彼は生きる意味を見失ってしまう。
 やがて彼は "ある決意" をするのだが・・・

「暗がり-」「物語-」の2編も「光の箱」と同じく、
そのまま進行していくとかなり "ブラック" な雰囲気に・・・
しかし、ラストの展開にご注目。
どうなるかは読んでのお楽しみだが、
私が本書につけた評価を見てもらえば察していただけるだろう。

うーん、ミステリの紹介ってのはムズカシイなぁ


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海から何かがやってくる 薬師寺涼子の怪奇事件簿 [読書・SF]

薬師寺涼子の怪奇事件簿 海から何かがやってくる (ノン・ノベル)

薬師寺涼子の怪奇事件簿 海から何かがやってくる (ノン・ノベル)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2015/09/01
  • メディア: 新書



評価:★★★☆

"警視庁の女王様"、刑事部参事官・薬師寺涼子27歳。
絶世の美女にして性格は傲岸不遜。
彼女が巻き込まれた(巻き起こした?)事件の顛末をつづる
人気シリーズ第10作。


今回、涼子とその部下一同がやってきたのは
東京から南へ800km、絶海の孤島に建設された
一大リゾート施設群。

派遣目的も不明なまま到着した彼らに続いて現れたのは
国家公安委員長・天神原アザミ女史の後援会の面々。
そしてそれに随行してきたのは涼子の宿命のライバル、
室町由紀子参事官だった。

しかし天神原女史一行を運んできた海上自衛隊の飛行艇が
海中からの何者家による攻撃で撃墜される。
さらに応援に駆けつけてきた海上保安庁の巡視艇、
海自のオスプレイまで襲撃される。

やがて彼らの前に、謎の巨大生物が現れる・・・・


異形の超生物と人間たちの攻防を描いているので
設定だけ見たら『ウルトラQ』なんだが、
そこに涼子サマが現れると、すべてはブラックな
ドタバタコメディになってしまう。

人類側の反撃(?)も、たんなる悪あがきにしか過ぎなくて
まあ端的に言えば無駄な抵抗なんだが、しかしそんな中でも
しっかり自分の欲望に忠実に生きる方々はいるわけで
結局人間がいちばん始末に悪い生き物だという、
ある意味お約束な展開でもある。

まあ、そんなちゃちな悪巧みが涼子サマのハイヒールのかかとで
ガリガリと踏みつぶされていく様子をニヤニヤしながら読むのが
本書の正しい楽しみ方だろう。


また余計な話を。

本文中にちりばめられた、現代日本に対する強烈な "風刺" については
前作『魔境の女王陛下』でも触れたし、本書でもそこは相変わらずだ。

正論を述べることは大事だが、
正論だけでは、ものごとは廻っていかないのもよくあること。
だから正論ばかり振りかざす人は嫌われやすい。
でも、嫌われるのを承知で、あえて正論を口にする人もいる。

どんな組織にもそんな人はいるだろう。
それはそれで勇気の要ることだ。

日本に田中芳樹という作家は必要だと思うけど
日本の作家がみんな田中芳樹みたいになったら
"小言おじさん" ばかりで、それはそれで息苦しいような(笑)。


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監獄島 上下 [読書・ミステリ]

監獄島〈上〉 (光文社文庫)

監獄島〈上〉 (光文社文庫)

  • 作者: 加賀美 雅之
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫




監獄島〈下〉 (光文社文庫)

監獄島〈下〉 (光文社文庫)

  • 作者: 加賀美 雅之
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

作者の後書きによると原稿用紙にして2400枚。
文庫にしても上下巻で合わせて1300ページを超えるという
まさに本格超大作ミステリだ。

1927年10月。
マルセイユの沖合20キロに浮かぶサン・タントワーヌ島。
中世より流刑地として知られ、現在も刑務所が設置されている。
この刑務所内で、「驚くべき陰謀が進行している」という
匿名の内部告発があり、パリ警察は調査のために
予審判事シャルル・ベルトランを向かわせる。

彼の甥にして作家のパトリックを含めた一行6人が
島に到着した日から、謎に包まれた連続殺人事件の幕が開く。

密室状態の館での撲殺、塔からつり下げられた火だるまの死体、
独房の死体は手足をバラバラに切断され、
地下室のギロチンで切断された上半身は持ち去られ、
海岸の岩に突き刺ささった状態で発見される・・・


全編これディクスン・カーの世界。
横溝正史もかくやというばかりの怪奇幻想の中で起こる不可能犯罪。
ミステリ好きなら必読の書と言い切ってしまおう。


これでもかこれでもかと不可思議な殺人事件のオンパレード。
こんなに死んでしまっては、犯人がいなくなってしまうんじゃないかと
心配になるくらい容赦なく死んでいく。

そしてまた、解決編がすごい。
全1300ぺーじのうち、最後の300ページが
まるまるベルトランの謎解きシーンになってるのだ。

 昔読んだ、世界最長の本格ミステリ(笑)である
 二階堂黎人の『人狼城の恐怖』全4巻では、最終巻が
 一冊まるごと解決編だったけど、それに次ぐボリュームだ。

トリックも機械的なものあり、心理の盲点を突くものあり、
錯誤を誘うものありとバラエティ豊か。
並みの長編6本分くらいのアイデアがつぎ込んである。

そして、伏線の回収も徹底的に行われる。
それはもうほんの些細なところまできっちりと。


上手く言えないのだが、"階層構造" とでも言うのかな。
伏線の回収と謎解きが進むたびに、
明らかになったかと思われた真相が根底から覆って、
新たな様相を示すようになる。
それが何度も繰り返されて全貌をつかむことは容易ではない。
それが300ページに渡って続くのだから凄まじい。

いやはや最後の最後まで気を抜けない作品である。


なにせ1300ページもあるんだから、1日や2日じゃ読み切れない。
記録を見ると、私はこの上下巻を10日ほどかけて読んでる。
10日もあると、読みながらいろいろ考える。

どんどん人が死んでいくので、容疑者も減ってくる中で
「どういうオチだったら、読者が一番驚くだろう?」

これはもう推理ではないね(笑)。単なる当てずっぽうの世界。
自分でも思うけど、嫌な読者だね(笑)。でもそれもまた楽しい。

本書を読むような人なら、どのように着地するのか
あーでもない こーでもないって、いろいろ思いを巡らすだろう。
10日間、これぞ本格ミステリ、って雰囲気にどっぷりと浸れる。
好きな人には堪らない、極上の体験が出来る作品だ。


さて、作者の加賀美雅之さんなんだけど、
思えば最近新作が出てないよなあ・・・
と思ってネットで検索したら、なんと!
2013年の5月にお亡くなりになってたんですね(;_;)

1959年生まれというから享年は54歳くらいでしょうか。
まだまだ若かったですね。
これから多くの作品を残せるはずだったのに・・・
ご冥福をお祈りします。


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ラインの虜囚 [読書・冒険/サスペンス]

ラインの虜囚 (講談社ノベルス)

ラインの虜囚 (講談社ノベルス)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/10/04
  • メディア: 新書



評価:★★★★

UNDER CONSTRUCTION.  m(_ _)m


この本は先月の19日に読み終わってるんだけど、
記事を書こうと思ったら肝心の『ラインの虜囚』が
見つからないんですねえ・・・

なにせ積ん読状態の本が大量に散乱しているもんで。

いちおう既読と未読は分けてあるはずなんだけど
既読の中にないんですねえ。

未読の方がはるかに多いので、その中に紛れ込むと
探し出すのが結構たいへんかも。

記憶に頼って書くといろいろ間違えそうなので
とりあえずこのままにしておきます。
見つかり次第、記事を書いて差し替えますのでご容赦下さい。

記事を読もうと思ってきていただいた人には
誠に申し訳ないのですけど、
2週間くらいしたらもう一度来てみて下さい。
スミマセン。


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魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 [読書・SF]

魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/06/07
  • メディア: 新書



評価:★★★☆

薬師寺涼子27歳。職業は警視庁刑事部参事官。
キャリア官僚にして階級は警視。
絶世の美女なのに性格は傲岸不遜。
彼女の行くところ怪奇現象のオンパレード。
しかし、群がる魑魅魍魎をちぎっては投げちぎっては投げ。
そんな無敵の女王様と部下一同が巻き込まれた事件の顛末。

シリーズ第1作『摩天楼』が96年の発表だから、
もう20年続くシリーズなんだねえ。時の経つのは早いものだ。
ちなみに本書は第9作。

大量殺人犯・日下公仁がシベリアに潜伏しているとの情報を受け、
警視庁は薬師寺警視を派遣する。
お伴をするのは語り手を務める泉田準一郎警部補、
加えて貝塚さとみ巡査、阿部真理夫巡査のレギュラーメンバー。

氷原に踏み入れた彼女らは、調達した装甲車を駆り、
日下を追ってソビエト時代の秘密都市へ向かうが、
有史以前に絶滅したはずのサーベルタイガーが現れる。

どうやら日下はこの極寒の地で、
何やらとんでもないことを企んでいるらしい・・・


いままでのシリーズと同じく、犯人一味が繰り出す "超常の存在" と
涼子一行とが繰り広げる対決が描かれる。
基本的には喜劇なので、肩の力を抜いて
涼子の "不屈の女王様ぶり" を楽しむのが正しい読み方(笑)。
特に彼女の歯に衣着せぬ毒舌ぶりは特筆もの。
本書の一番の読みどころと言っても過言ではないだろう。

それはそうなんだが・・・


以下は余談である。

本書の中のあちこちに、涼子の台詞や
語り手である準一郎のモノローグを通して、
現代日本の政治家たちへのキツイ一言とか
社会のありように対する強烈な風刺が綴られる。

まあ、作品に振りかけられたスパイスのようなものだし、
田中芳樹という作家の持ち味のひとつでもある。
私も若い頃は、小気味よく思いながら読んでいた。

 本人の思想信条がどうなのかはわからない。
 本書に書いてあるとおりに考えているのか、
 キャラの性格付けとして描いているのか。
 まあ、前者のような気はするんだが。


でもねぇ、還暦も近づいてきた今になってみると、
ところどころ引っかかるものを覚えるようになってきたんだよなぁ。

「御説ごもっとも。でもねぇ・・・そうは言ってもさあ・・・」

まあ、この人の作風は30年前と変わっていない。
いささかもスタンスが揺らぐことなく、一貫してる。
変わってしまったのは私のほうなんだね。

現在の日本を取り巻く風潮の中で、このスタンスを貫くことは
いろいろと風当たりも強いんじゃないかと想像する。

でも、田中芳樹はこれでいいんだと思う。
最後までこの路線で突っ走ってもらいたいものだ。

この人の作品を読むと、30年前の自分を思い出す。
そんな作家さんになりつつあるのでした。


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