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魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 [読書・SF]

魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/06/07
  • メディア: 新書



評価:★★★☆

薬師寺涼子27歳。職業は警視庁刑事部参事官。
キャリア官僚にして階級は警視。
絶世の美女なのに性格は傲岸不遜。
彼女の行くところ怪奇現象のオンパレード。
しかし、群がる魑魅魍魎をちぎっては投げちぎっては投げ。
そんな無敵の女王様と部下一同が巻き込まれた事件の顛末。

シリーズ第1作『摩天楼』が96年の発表だから、
もう20年続くシリーズなんだねえ。時の経つのは早いものだ。
ちなみに本書は第9作。

大量殺人犯・日下公仁がシベリアに潜伏しているとの情報を受け、
警視庁は薬師寺警視を派遣する。
お伴をするのは語り手を務める泉田準一郎警部補、
加えて貝塚さとみ巡査、阿部真理夫巡査のレギュラーメンバー。

氷原に踏み入れた彼女らは、調達した装甲車を駆り、
日下を追ってソビエト時代の秘密都市へ向かうが、
有史以前に絶滅したはずのサーベルタイガーが現れる。

どうやら日下はこの極寒の地で、
何やらとんでもないことを企んでいるらしい・・・


いままでのシリーズと同じく、犯人一味が繰り出す "超常の存在" と
涼子一行とが繰り広げる対決が描かれる。
基本的には喜劇なので、肩の力を抜いて
涼子の "不屈の女王様ぶり" を楽しむのが正しい読み方(笑)。
特に彼女の歯に衣着せぬ毒舌ぶりは特筆もの。
本書の一番の読みどころと言っても過言ではないだろう。

それはそうなんだが・・・


以下は余談である。

本書の中のあちこちに、涼子の台詞や
語り手である準一郎のモノローグを通して、
現代日本の政治家たちへのキツイ一言とか
社会のありように対する強烈な風刺が綴られる。

まあ、作品に振りかけられたスパイスのようなものだし、
田中芳樹という作家の持ち味のひとつでもある。
私も若い頃は、小気味よく思いながら読んでいた。

 本人の思想信条がどうなのかはわからない。
 本書に書いてあるとおりに考えているのか、
 キャラの性格付けとして描いているのか。
 まあ、前者のような気はするんだが。


でもねぇ、還暦も近づいてきた今になってみると、
ところどころ引っかかるものを覚えるようになってきたんだよなぁ。

「御説ごもっとも。でもねぇ・・・そうは言ってもさあ・・・」

まあ、この人の作風は30年前と変わっていない。
いささかもスタンスが揺らぐことなく、一貫してる。
変わってしまったのは私のほうなんだね。

現在の日本を取り巻く風潮の中で、このスタンスを貫くことは
いろいろと風当たりも強いんじゃないかと想像する。

でも、田中芳樹はこれでいいんだと思う。
最後までこの路線で突っ走ってもらいたいものだ。

この人の作品を読むと、30年前の自分を思い出す。
そんな作家さんになりつつあるのでした。


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