SSブログ

宇宙戦争1941 / 1943 / 1945 [読書・SF]

宇宙戦争1941 (朝日ノベルズ)

宇宙戦争1941 (朝日ノベルズ)

  • 作者: 横山信義
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2011/11/18
  • メディア: 単行本




宇宙戦争1943 (朝日ノベルズ)

宇宙戦争1943 (朝日ノベルズ)

  • 作者: 横山 信義
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/06/20
  • メディア: 新書




宇宙戦争1945 (朝日ノベルズ)

宇宙戦争1945 (朝日ノベルズ)

  • 作者: 横山 信義
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/04/19
  • メディア: 新書



評価:★★★★

20世紀の初頭、イギリスで緑色の流れ星が多数観測される。
その直後に現れた三本脚の戦闘機械(トライポッド)群は、
熱線を放って破壊の限りを尽くし、英国軍を壊滅させる。
それは火星人による地球侵略の始まりだった。
地球よりはるかに進んだ技術による武器に圧倒され、
人類の運命は風前の灯火かと思われたが・・・

皆さんご存じ、H・G・ウェルズ原作の古典SF小説『宇宙戦争』である。
2005年にスピルバーグ監督、トム・クルーズ主演で映画化されたので
知っている人も多いだろう。

私くらいの年代だと、子どもの頃によくTVで放映された
ジョージ・パル製作の映画『宇宙戦争』(1953)のほうが
お馴染みかも知れない。
エイのような円盤から発射される緑色の怪光線、
上部についた1本の触覚から放たれる熱線が印象的だった。


さて、『宇宙戦争1941/1943/1945』である。
このシリーズはウェルズの『宇宙戦争』と同一世界を舞台にしている。
要するに「後日談」であり「続編」というわけだ。

イギリス政府は、火星人による侵略自体を国家機密として隠蔽、
世界は "宇宙からの脅威" を知らぬままに歴史を積み重ねていく。


そして40年あまりの時は流れる。
欧州では第二次世界大戦が始まり、極東アジアでも
日米開戦は秒読みとなっていた1941年12月8日。

第1巻『宇宙戦争1941』はこの日に始まる。

密かに日本を出発した帝国海軍の機動部隊から飛び立った
零式艦上戦闘機43機、99式艦上爆撃機51機、
97式艦上攻撃機89機、総計183機に及ぶ大編隊は、
米国太平洋艦隊を撃滅せんと、ハワイ・オアフ島の真珠湾へ殺到する。
しかし今まさに奇襲を敢行しようとした彼らが見たのは、
緑色の怪光線を放つ三本脚の戦闘機械(トライポッド)によって、
甚大な被害を受け、壊滅に瀕した米国艦隊の姿だった・・・

のっけから一大インパクトを喰らってしまう。
この導入部は秀逸。まさにツカミはバッチリだ。

世界中に同時多発的に出現したトライポッド軍団によって
主要国はいずれも多大な被害を被る。
イギリスは本土のほとんどを失い、
ドイツ・ソ連は首都を放棄するに至る。
米国もまた西海岸一帯を占領されてしまう。

 日本には何故かトライポッドが上陸しないので
 帝国海軍の艦艇群は被害を免れる。
 (いささかご都合主義的だが)いちおう理屈づけはされている。
 あまり喜べる理由ではないんだが(笑)。

続く『宇宙戦争1943』では、
開戦直前だった日米とか、すでに戦火を交えていた英独仏伊露などの
ヨーロッパの国々が、対立を超えて共同戦線を構築しようとするのだが
昨日までの敵とそう簡単に手を組めるはずもなく、
各国軍は火星人の猛攻の前に甚大な損害を出し続けることになる。

しかし、戦闘によって得られたデータや、
蓄積された情報を分析することによって
人類は少しずつ敵の性能や弱点を知ることとなり、
次第に有効な攻撃法が明らかにされていく。

とは言っても、彼我の間にはおそらく数百年単位の技術力の差がある。
このあたり、どの程度ならば有効な攻撃になるかの
"さじ加減" は難しそうだ。簡単に倒せたら緊迫感を欠くし、
強くしすぎると人類は全く勝てなくなってしまう。
しかも、20世紀半ばあたりの技術力で作れる武器でなくてはならない。
そのあたりは架空戦記のベテランらしく、上手く案配してあると思う。

そして完結編の『宇宙戦争1945』では、
紆余曲折を経た人類が、ついに史上最大の共同作戦を展開する。
自国の防衛すら放棄して戦力を供出、「人類統合軍」が結成される。
火星人が赤道直下のボルネオ島に築いた巨大要塞に対して、
人類は残された全戦力による最終決戦を挑む、
"地球の一番長い日(The Longest Day)" が、始まる・・・


私は架空戦記はあまり読まないので、日本はともかく
外国の第二次大戦時の戦力には明るくない。
例えば戦艦や空母や戦闘機や爆撃機の名称や、
有名な指揮官やエースパイロットの名前なんかもよく知らないのだが、
それでも充分楽しめたし、詳しい人ならなおさらだろう。

正史では死闘を演じた戦艦同士が轡を並べて主砲を斉射したり、
零戦とP39が翼を連ねて火星人の飛行兵器に銃撃を浴びせたり、
米国製の高出力エンジンを搭載した「烈風」が登場したり、
"決戦機"「B29」に日本軍の爆撃隊員が搭乗したりするのも、
本書ならではの演出だろう。

個人的には、『宇宙戦争1943』の巻末に載っている図版が気に入った。
日本海軍の戦艦「大和」が載っているのだけど、
標題が『戦艦「大和」/対火星人戦用改装後』ってあるのがいいよねぇ。
オトコノコはこういうところに燃えるんだよ。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

追想五断章 [読書・ミステリ]

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

バブルがはじけ、家業が立ちゆかなくなった大学生・菅生芳光は
休学して伯父の経営する古書店で働き出す。

ある日、北里可南子という女性が現れ、ある依頼をする。
死んだ父親・北里参吾が生前書いていた小説を探して欲しい。
小説は全部で5編あり、すべて "リドル・ストーリー" だという。

 ちなみに "リドル・ストーリー" とは、
 結末を明示せず読者の想像に任せる物語のこと。
 巻末の解説にいくつかの代表的な作品が挙げてあるけど、
 私が読んだことがあるのは「女か虎か」くらいかなぁ。

しかし死の直前に、なぜか参吾はそれぞれの物語に
付け加える "結末の一行" を残していた・・・

参吾と交流のあった人物と会い、調査を続けるうちに
芳光は、彼が20年以上前に起こった「アントワープの銃声」の
重要容疑者であったことを知る。

それは、参吾の妻・斗満子が自殺した事件。
現場と遺体の不可解さから参吾に殺害の容疑がかけられたが
証拠不十分で釈放され、事件は未解決となっていた。

帰国した参吾が書き残した5つの物語。
それに秘められたものは何か・・・


ストーリー自体は、埋もれた小説を探し出す話で
派手なイベントが起こるわけでもなく淡々と進む。

変化があるのは、芳光の探索によって発見された物語が
その都度挿入されることくらいか。

巻末の解説によると、ミステリとしての評価は高いらしい。

でも、明るい話ではない。読んでいて気が晴れる話でもない。
芳光と可南子の間にロマンスが芽生えるわけでもない。

ややネタバレを覚悟で書いてしまえば、
真相が分かったからと言って誰かが幸せになるわけでもなく
明かされる真実も、むしろ「知らないほうがいい話」。

しかし、この「5つの断章集め」が終わった時から,
芳光と可南子は新しい日々を生き始める。
目を背けてきた "現実" と向き合う決心をして。
そのために、この "物語" は必要だったのだろう。

主役二人の心のありよう、そしてその移り変わりが
いちばん印象に残った作品。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ウルトラマンデュアル [読書・SF]

ウルトラマンデュアル (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

ウルトラマンデュアル (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

  • 作者: 三島 浩司
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/01/23
  • メディア: 単行本



評価:★★★☆

以前このブログで紹介した「多々良島ふたたび」という
怪獣小説アンソロジーにつづく、円谷プロとのコラボ企画第2弾。

「TSUBURAYA ✕ HAYAKAWA UNIVERS 02」は
まさに "ウルトラの戦士" を題材にしたハード・アクション長編だ。

これから紹介の文章を書くけれど、
あなたがウルトラ・シリーズのファンで、
この本を読むつもりでいるのなら、以下の駄文なんぞ無視して
本屋へ走るなりネットでポチるなりしましょう。
余計な予備知識はない方が楽しめると思うので。

もう少し内容を知ってから判断しよう、という人は
私の下手な文章にいましばらくお付き合いいただこう。


ある夜、夜空に謎の文字が現れる。
全世界で同時に観測されたその正体は "ウルトラサイン"。
すなわち、銀河の秩序を司る "光の国" から
地球人にもたらされたメッセージだった。

そして1週間後、世界中の人口密集地帯で謎の大爆発が起こる。
被害は地球全体で25カ所に及び、日本では東京都練馬区を中心に
22万の人命が失われ、全世界では500万人以上が犠牲となった。

それは地球征服を目論むヴェンダリスタ星人による最初の攻撃だった。
"ウルトラサイン" は、迫りくる侵略者の存在を
地球人に知らせるための警告だったのだ。

そして抵抗する術を持たない地球人に対して
侵略者が示した降伏期限が迫る中、"ウルトラサイン" は再び現れた。

同時に、地球各地で侵略者と戦う銀色の "光の国の巨人" が目撃され、
さらには地球近傍の宇宙空間においても、
侵略者と "光の国" のスペースシップ同士の戦闘が行われた。

戦力的に拮抗する両者は激しい消耗戦を展開し、
最終的に艦艇と人員のほとんどを失うに至る。

"光の国" の最後の1隻は航行能力を失い、
わずか1人(と "1体" )の生存者とともに東京近郊に不時着した。

ヴェンダリスタ星人側も、数名の生存者を残すのみとなった。

侵略者は援軍を呼び寄せたことを明らかにし、
それをたてに地球人に服従を迫るが、
"光の国" 側もまた、母星に救援を求めたことにより、
三者の関係は膠着状態に陥る。

"光の国" とヴェンダリスタ星人。
どちらの援軍が先に到着するかで地球の運命は決まる。

"光の国" の援軍の到着までの間、表向きは
ヴェンダリスタ星人への服従を示さなければならない地球人は
苦渋の選択として、"光の国" の最後の生存者である
"ウルトラの聖女" を、建前上はヴェンダリスタ星人と同格の
「侵略者」と位置づけた。

"聖女" もまた地球側の意を汲み、不時着地の周辺を
"光の国の飛び地" として侵略支配することを宣言する。
彼女は人々から "ティア" (涙)と呼ばれ、
不時着した "光の国" の宇宙船は地球上で唯一
ヴェンダリスタ星人に対して抵抗を続ける砦、
"ティアズ・スタンド" となった。

戦力のほとんどを失っていたヴェンダリスタ星人は、
静止衛星軌道上に廃棄されていた "光の国" の輸送船を拿捕し、
積載されていた宇宙生物を「兵器」として調整したのち、
次々と "飛び地" へと転送させ、"ウルトラの聖女" の抹殺を図る。

"聖女" の存在に心を打たれ、共闘を誓った少数の者たちは
国籍を捨て、地球人であることを捨てて、
"飛び地" へ入り、"ティアズ・スタンド" へと加わった。
"光の国" の超技術である "ウルトラ・オペレーション" を
受けることによって、自らが "ウルトラの戦士" となり、
ヴェンエダリスタ星人と、そして
彼らが送り込む "怪獣" たちと戦うために・・・

 ちなみに、"ウルトラ・オペレーション" を受けて
 "ウルトラマン化" しても、全員が "戦士" になれるわけではない。
 資質を持った一握りの者だけが、
 銀と赤のボディをもつ "光の戦士" になれるのだ。


長々と書いてきたがこれはあらすじではない。
作中で断片的に語られる、物語の開始時点までの世界状況を
まとめたものである。

主人公・二柳日々輝(フタヤナギ・ヒビキ)が "飛び地" へ入り、
"ティアズ・スタンド" の戦列に加わるところから本書は始まる。

折しも、"ティアズ・スタンド" 最強の戦士・デュアルが
怪獣との戦いに斃れた直後であった。
"ウルトラ・オペレーション" によって、"戦士" としての能力に目覚め、
"デュアルII" となった日々輝の戦いが始まる・・・


侵略者の圧政に苦しむ人々の生活とか、
"ティアズ・スタンド" を密かに支援する地下組織とか、
同級生を侵略者に乗っ取られた高校生・三矢(みつや)と
"ティアズ・スタンド" 司令官の娘・滴(しずく)との淡い慕情とか、
敢えて "飛び地" の中と外に分かれる道を選んだ恋人たちとか、
書かなければならないことはまだまだたくさんあるんだけど
既にけっこうな字数を費やしているのでそろそろ締めよう。


ここまで読んでいただければおわかりのように、
世界設定がとにかく凝ってる。

お馴染みのウルトラ・シリーズとはちょっと変わって
かなりハードでシリアスな雰囲気なのだけど、
オリジナルへのリスペクトも充分に感じるし、
暴虐な侵略者に敢然と立ち向かう人々を描いたこの物語は
紛れもなく「ウルトラマン」である。


難を言えば、ラストがややあっけないかなぁ。
とにかく物語がどう着地するのか皆目分からないまま、
残りページだけがどんどん減っていく。
「ウルトラマン」なのだから、最後は侵略者に勝利するはずだと
堅く信じて読み続けたのだけど、いささか心配になるくらい。
もうちょっと最終決戦の描写が厚ければ、
文句なしで星4つだったんだけど。

とはいっても、エピローグの爽快さは格別。
最後まで頑張って読んだ甲斐があったというものだ。

最後に、本書の裏表紙の惹句、その最後の一文を紹介しよう。
そこにはこう記してある。
「君には今でも、ウルトラの星が見えているか?」

この本を作った人は「よく分かってる」なぁって思った(笑)。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

パラダイス・ロスト [読書・ミステリ]

パラダイス・ロスト (角川文庫)

パラダイス・ロスト (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★

昭和12年、帝国陸軍に密かに設立されたスパイ養成所・"D機関"。
頭脳明晰な学生が集められ、あらゆるスパイ技術を叩き込まれた。

"D機関" の "卒業生" たちと、その総帥にして
"魔王" の異名を持つ結城中佐の活躍を描く作品集、第3弾。


「誤算」
 1940年6月。ドイツ軍はパリに侵攻、市街地は占領されていた、
 ドイツ兵との乱闘に巻き込まれ、頭を殴られた留学生・島野は
 記憶を失った状態でレジスタンスの青年たちに保護される。
 しかし、彼らを追うドイツ軍部隊が迫ってきていた・・・
 自分が何者なのかさえ思い出せない状態でも、
 身体に染みこんだ "スパイの習性" で
 危機を乗り越えていく島野のキャラが秀逸。
 ラストの切れ味も抜群で、個人的には本書中No.1。

「失楽園」
 "東洋の真珠" と謳われたイギリス領シンガポール。
 ラッフルズ・ホテルにて、米国海軍士官キャンベルは恋に落ちた。
 相手はデンマーク人とシャム人の間に生まれた美少女・ジュリア。
 しかしホテルの滞在客である英国人実業家・ブラントが死体で発見され、
 ジュリアが彼の殺害を認めたのだ・・・
 いやあ、でも殺人事件の真相を追うキャンベルの行動を巡る
 このオチはできすぎでしょう。

「追跡」
 英国紙タイムズの極東特派員アーロン・プライスは、
 日本国内に密かに設立されたスパイ養成機関の噂を耳にする。
 設立者である "結城中佐" にターゲットを絞って調査を開始するが
 帝国陸軍の中に該当する人物は存在せず、難航する。
 しかし、かつては軍の高官を務めていたが、
 今は断絶している子爵家に糸口を見いだす・・・
 読んでいて連想したのは『ゴルゴ13』で、
 たまに出てくる "デューク東郷" の正体を巡るエピソード。
 毎回分かりそうで、でも結局分からないのがお約束で、
 この作品もそのパターンなんだろうと思ったけど、
 さすがはスパイの "魔王" サマ。ひと味違う決着を見せてくれる。

「暗号名ケルベロス」
 欧州で第二次大戦が勃発、ドイツとイギリスは交戦状態にあった。
 1940年6月、豪華客船《朱鷺丸》はサンフランシスコを出航した。
 乗客の中には、技術者を装った "D機関" のスパイ・内海、
 そして米国へ出稼ぎに来ていたドイツ人労働者50名もいた。
 しかし寄港地であるハワイに到着する直前、イギリスの軍艦が現れ、
 《朱鷺丸》に対して停船命令を発してきた・・・
 前後編仕立てで通常の2倍のボリュームで、
 交戦国同士がしのぎを削る、非情なまでの諜報戦が描かれる。
 人としての "情" を捨て去ったはずの内海が、
 ラストにふっと見せる "人情" が心地よい。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

かがみのもり [読書・ミステリ]

かがみのもり (光文社文庫)

かがみのもり (光文社文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/09/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

主人公の片野厚介は、新米国語教師。
豊かな田園の広がる白友町の中学校に赴任して2ヶ月。
二年二組を担任している。

ある日、厚介は笹井と勝又という二人の生徒から相談を受ける。
彼らは立ち入り禁止の聖域となっている山宝神社の裏山に入り、
洞窟の中で金色に輝くお宮を見つけたという。

裏山は正式には香我美山といい、昔から不思議な噂があった。
迷い込んだら出られない、気味の悪い歌が聞こえる、
子どもの泣き声がする、妖しい光の列が見える・・・

二人とともに香我美山へ入った厚介は、
うち捨てられて廃墟となった建物の中で
精巧なお宮のレプリカを発見する。
さらに、白装束の謎の一団が三人を襲ってきた。

からくも逃げ出した三人だったが、
笹井たちが撮ったお宮の写真をブログにアップしたところ、
「中学生女子・レオナ」と名乗るメールが届き、
会って相談したいことがある、と伝えてきた。

待ち合わせ場所に向かった厚介の前に現れたのは、
ポニーテールの可愛い美少女だった。
そして彼女は両親についての意外な事情を語り始めた・・・


ジャンルとしては「片耳うさぎ」「ねずみ石」に続く
ジュブナイル・ミステリなのだけど、
前2作と異なって殺人などの凶悪事件は起こらず、
その代わり主人公の厚介と少年二人が巻き込まれた
"裏山のお宮" を巡る冒険の顛末が綴られる。

 とは言っても、次第に明らかになってくる
 背後の事情には充分に凶悪な要素が潜んでいたりするが。

タイトルがすべて平仮名なんだけど、
ラストに至るとその意味も明らかになる。


厚介のクラスの副学級委員の静内ひろ香は才色兼備のしっかり者。
しかし、山宝神社の宮司である彼女の父もまた
"お宮" をめぐる事情に関わりを持っているらしいし、
興信所の調査員・与木と名乗る男もまた
独自に "お宮" のことを探っているらしいし、
厚介の同僚の学年主任・古池や美術教師・米子も
何らかの事情を知っていそうだ。

文庫で240ページほどと、長編としては短めなんだけど
脇役陣も多彩で個性的なキャラが揃ってる。


「少年探偵団」とひとまとめに括ってしまうには
少々薹がたってる厚介だが、
精神年齢的には子どもらの "兄貴分" くらいなので、
「小林少年」以上「明智小五郎」未満くらいの立ち位置か。
(書いてて思ったが、例えが古いねぇ・・・)

でも、ラストではきちんとそれらしい謎解きも披露してるので、
実は "探偵役" も充分に務まる器だったりする。

いままでのこのシリーズはすべて単発作品なのだけど
今作については、続編が読みたいなあ。
ひろ香ちゃんに "レオナ" ちゃんと、美少女が二人もいるのに
活躍シーンがあんまり多くないのが何とももったいない(おいおい)。

短編でもいいので、シリーズ化希望。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

戦力外捜査官 姫デカ・海月千波 [読書・ミステリ]

戦力外捜査官 姫デカ・海月千波 (河出文庫)

戦力外捜査官 姫デカ・海月千波 (河出文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/10/08
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

その日、警視庁本部庁舎に現れたのは
身長150cm弱、小柄でベージュのコートと黒のスカート、
年の頃は15~16歳ほどで真面目そうなメガネの美少女・・・
かと思われたが、彼女は何と刑事部長・越前警視監の秘蔵っ子にして
キャリア警察官、海月千波 "警部" サマだった。

ちなみに「海月」と書いて「うみづき」と読む。
「くらげ」ではありませんので念のタメ。

"お守り役" を言いつかった設楽恭介巡査とともに
千波は連続放火事件の捜査会議に臨むが、
素っ頓狂な言動を繰り返して会議は混乱、
現場に出れば火元を覗きたくて木に登ったはいいが、
今度は降りられなくなってしまってひと騒ぎ。

ついに捜査会議でも無視されるようになり、
千波は恭介と二人だけの独自行動を許される。とは言っても
タイトルにもあるように、要するに体のいい "戦力外通告" だ。

もちろん千波はこれ幸いとハッスルするのだが・・・
やがて二人の捜査は、7年前に起こった幼女殺害事件にいきつく。
その事件では、重要参考人の青年が自殺していた・・・


"萌え" を狙ったような千波のキャラ、
コメディタッチのストーリー、
オタク少年・江藤をはじめ、脇を固める人物も個性派揃いで、
親しみやすさは抜群だが、それだけでは終わらない。

作者の別の作品「パティシエの秘密推理」でも描かれていたけど
警察と言っても人間の集まりで、
出世欲やら縄張り意識やらに凝り固まった人もいる。
本書でも、幼女殺害事件を追う刑事たちを描いたパートや、
メンツに囚われる警察上層部の習性を描いているパートでは
意外なほど(失礼!)硬派な警察小説の雰囲気もあって、
今までにない新境地を切り開いてるなあって思う。

とは言っても、犯人あてミステリとしてよりは
サスペンスとしての風味が強いかな。

そもそも最大の謎は、千波の存在そのものだったりするが(笑)。


本書はTVドラマ化された。読み終わった後、
ちょっとネットで配役を見てみたら、千波役は武井咲さん。
うーん、全然小柄じゃないじゃん。
私の脳内映像では志田未来さんでした。


nice!(3)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ: