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追想五断章 [読書・ミステリ]

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

バブルがはじけ、家業が立ちゆかなくなった大学生・菅生芳光は
休学して伯父の経営する古書店で働き出す。

ある日、北里可南子という女性が現れ、ある依頼をする。
死んだ父親・北里参吾が生前書いていた小説を探して欲しい。
小説は全部で5編あり、すべて "リドル・ストーリー" だという。

 ちなみに "リドル・ストーリー" とは、
 結末を明示せず読者の想像に任せる物語のこと。
 巻末の解説にいくつかの代表的な作品が挙げてあるけど、
 私が読んだことがあるのは「女か虎か」くらいかなぁ。

しかし死の直前に、なぜか参吾はそれぞれの物語に
付け加える "結末の一行" を残していた・・・

参吾と交流のあった人物と会い、調査を続けるうちに
芳光は、彼が20年以上前に起こった「アントワープの銃声」の
重要容疑者であったことを知る。

それは、参吾の妻・斗満子が自殺した事件。
現場と遺体の不可解さから参吾に殺害の容疑がかけられたが
証拠不十分で釈放され、事件は未解決となっていた。

帰国した参吾が書き残した5つの物語。
それに秘められたものは何か・・・


ストーリー自体は、埋もれた小説を探し出す話で
派手なイベントが起こるわけでもなく淡々と進む。

変化があるのは、芳光の探索によって発見された物語が
その都度挿入されることくらいか。

巻末の解説によると、ミステリとしての評価は高いらしい。

でも、明るい話ではない。読んでいて気が晴れる話でもない。
芳光と可南子の間にロマンスが芽生えるわけでもない。

ややネタバレを覚悟で書いてしまえば、
真相が分かったからと言って誰かが幸せになるわけでもなく
明かされる真実も、むしろ「知らないほうがいい話」。

しかし、この「5つの断章集め」が終わった時から,
芳光と可南子は新しい日々を生き始める。
目を背けてきた "現実" と向き合う決心をして。
そのために、この "物語" は必要だったのだろう。

主役二人の心のありよう、そしてその移り変わりが
いちばん印象に残った作品。


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