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パラダイス・ロスト [読書・ミステリ]

パラダイス・ロスト (角川文庫)

パラダイス・ロスト (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★

昭和12年、帝国陸軍に密かに設立されたスパイ養成所・"D機関"。
頭脳明晰な学生が集められ、あらゆるスパイ技術を叩き込まれた。

"D機関" の "卒業生" たちと、その総帥にして
"魔王" の異名を持つ結城中佐の活躍を描く作品集、第3弾。


「誤算」
 1940年6月。ドイツ軍はパリに侵攻、市街地は占領されていた、
 ドイツ兵との乱闘に巻き込まれ、頭を殴られた留学生・島野は
 記憶を失った状態でレジスタンスの青年たちに保護される。
 しかし、彼らを追うドイツ軍部隊が迫ってきていた・・・
 自分が何者なのかさえ思い出せない状態でも、
 身体に染みこんだ "スパイの習性" で
 危機を乗り越えていく島野のキャラが秀逸。
 ラストの切れ味も抜群で、個人的には本書中No.1。

「失楽園」
 "東洋の真珠" と謳われたイギリス領シンガポール。
 ラッフルズ・ホテルにて、米国海軍士官キャンベルは恋に落ちた。
 相手はデンマーク人とシャム人の間に生まれた美少女・ジュリア。
 しかしホテルの滞在客である英国人実業家・ブラントが死体で発見され、
 ジュリアが彼の殺害を認めたのだ・・・
 いやあ、でも殺人事件の真相を追うキャンベルの行動を巡る
 このオチはできすぎでしょう。

「追跡」
 英国紙タイムズの極東特派員アーロン・プライスは、
 日本国内に密かに設立されたスパイ養成機関の噂を耳にする。
 設立者である "結城中佐" にターゲットを絞って調査を開始するが
 帝国陸軍の中に該当する人物は存在せず、難航する。
 しかし、かつては軍の高官を務めていたが、
 今は断絶している子爵家に糸口を見いだす・・・
 読んでいて連想したのは『ゴルゴ13』で、
 たまに出てくる "デューク東郷" の正体を巡るエピソード。
 毎回分かりそうで、でも結局分からないのがお約束で、
 この作品もそのパターンなんだろうと思ったけど、
 さすがはスパイの "魔王" サマ。ひと味違う決着を見せてくれる。

「暗号名ケルベロス」
 欧州で第二次大戦が勃発、ドイツとイギリスは交戦状態にあった。
 1940年6月、豪華客船《朱鷺丸》はサンフランシスコを出航した。
 乗客の中には、技術者を装った "D機関" のスパイ・内海、
 そして米国へ出稼ぎに来ていたドイツ人労働者50名もいた。
 しかし寄港地であるハワイに到着する直前、イギリスの軍艦が現れ、
 《朱鷺丸》に対して停船命令を発してきた・・・
 前後編仕立てで通常の2倍のボリュームで、
 交戦国同士がしのぎを削る、非情なまでの諜報戦が描かれる。
 人としての "情" を捨て去ったはずの内海が、
 ラストにふっと見せる "人情" が心地よい。


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