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結婚って何さ 有栖川有栖選 必読! Selection 8 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読!Selection8 結婚って何さ (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読!Selection8 結婚って何さ (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/12/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 臨時雇いの事務員・遠井真弓(とおい・まゆみ)は、上司からの不合理なイチャモンにブチ切れし、同僚の疋田三枝子(ひきた・みえこ)と一緒にその場で退職してしまう。
 憂さ晴らしで飲み歩いていた二人は森川という男と意気投合、泥酔した三人は旅館でひと部屋にまとめて泊まるが、翌朝、森川は絞殺死体となっていた。しかも部屋は内側から施錠された密室状態。
 このままでは殺人犯にされてしまう。真弓は真相解明に立ち上がるが・・・


 遠井真弓は20歳。東京の石油会社で臨時雇いの事務員として働いている。ある日、上司から服装とか普段の品行とかを注意されているうちに頭に血が上り、衝動的に辞めてしまう。

 思いを同じくしていた同僚の疋田三枝子も一緒に辞め、二人は憂さ晴らしに夜の街へと繰り出す。酒場をハシゴしているうちに森川という郵便局員と知り合い、意気投合した三人は泥酔した勢いで旅館の離れに転げ込む。

 しかし翌朝になって酔いが覚めた真弓と三枝子は、森川が絞殺死体となっていることを発見する。しかも離れは内側から施錠された密室状態。

 旅館からは運良く逃げ出せた二人だったが、"あるアクシデント" に遭遇してしまい、真弓は単独行動をせざるを得なくなる。

 警察に追われる真弓は森川のことを調べようとするが、手がかりは彼が所持していた一枚の切符と一枚の名刺のみ。
 切符は「河口湖 → 東京都区内」、名刺は「弁護士・伴幸太郎」(ばん・こうたろう)のものだった。

 真弓は中央本線で河口湖に向かうことに。しかしその車中、彼女に鋭い視線を向けてくる黒いトレンチコートの男の存在に気づく。途中で乗り換えてもついてくるので尾行者だと確信した真弓は、車中にいた若い女性に声を掛け、むりやり同行者になってもらう。

 その女性も河口湖までいくという。彼女の宿泊する旅館までついていった真弓は、徐々にその女性のことを知っていく。
 彼女の夫は10日前に西湖で亡くなっていること、夫は弁護士であったこと、そして彼女が宿泊者名簿に「伴早苗」(ばん・さなえ)と記入したこと・・・


 真弓は警察に追われていることもあり、ほぼ全編にわたって移動し続ける。そのサスペンスと同時進行で、彼女は手がかりを集め、推理していくことになる。まさに "走りながら考える" 状況だ。

 新たな殺人疑惑を知り、容疑者も浮上してくるが、強固なアリバイに守られている。真相につながるピースはたくさん集まってくるのだが、どうにも組み合わせが悪く、完成させることができない。

 しかし、難解な図形問題が一本の補助線を引くことでするする解けていくように、ある "一点" から事件を見直すと全体像が浮かび上がってくる。 
 ミステリを読み慣れた人なら、事件のカラクリにある程度の見当がつくかも知れないが、それでもミステリとしての興味を失わせずに最後まで読ませるのはたいしたものだ。

 ただ、この真相を実現するにはハードルがけっこう高い。にも拘わらず作者の文章はそれを困難なことと感じさせない。これはもう巧いとしか言い様がない。
 密室トリックも、そこだけ取り出せば単純なものなのだが、単純であるが故に盲点だろう。しかも、その背後に犯人の綿密な犯行計画があったればこそ成立するもの。

 タイトルだけみると、軽めの風俗小説のように感じられるかも知れないが、なかなか思い切ったトリックが投入された骨太な本格ミステリになってる。
 ちなみに「結婚って何さ」とは、作中で真弓が口にする台詞なのだが、この言葉がどこで出てくるのかは読んでのお楽しみだろう。



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