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全能兵器AiCO [読書・冒険/サスペンス]


全能兵器AiCO (講談社文庫)

全能兵器AiCO (講談社文庫)

  • 作者: 鳴海章
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/12

評価:★★★


 郷谷良平(ごうたに・りょうへい)は航空自衛隊のベテラン・パイロットだ。彼は次世代機開発計画への参加を命じられる。それはAIを搭載した無人ステルス戦闘機で、メインとなる開発者は、かつて空自パイロットだった佐藤理(さとう・おさむ)だった。
 一方、尖閣諸島上空で民間のセスナ機が墜落、現場から回収されたカメラのデータには中国人民解放軍の戦闘機が映っていた・・・


 2014年10月。航空自衛隊パイロット・郷谷良平は2佐に昇進、同時にATD-X(先進技術実証機:Advanced Technological Demonstrator - X)開発計画への参加を命じられる。

 その目標はステルス戦闘機にAIを搭載して無人化しようというもの。AiCO(Artificial intelligence of air COmbat:アイコ)と呼ばれる搭載AIの開発者は佐藤理。彼は東京大学工学部航空宇宙工学科出身という異色の経歴で空自パイロットとなったが、訓練の過程で先輩たちの凄腕ぶりを目の当たりにし、自分の才能に見切りをつけて退職したという過去があった。

 郷谷の役目は彼の操縦技術をAiCOに学習させること。フライト・シミュレーターでの操縦、そして実機での操縦から得られた、彼のあらゆる "操縦/空戦テクニック" のデータをAiCOは学習し、"成長" していく。

 機体の性能が極限まで進歩していったとき、パイロットが人間であることが最大の ”弱点” となるというのが佐藤の主張だ。AIが操縦すれば、人間では耐えられないような高Gでの空戦機動も可能となり、判断ミスもゼロとなる。佐藤の目的は、戦闘機から人間を "引きずり下ろす" ことだった。

 一方、尖閣諸島上空で民間のセスナ機が墜落、現場から回収されたカメラのデータから、中国人民解放軍の戦闘機の関与が推測された。
 セスナ機のパイロットは元自衛官、乗員はカメラマン。警視庁公安部外事二課の世良融(せら・とおる)は、二人の経歴から自衛隊OBの国会議員へと辿り着く。二人は、戦闘機の飛来時刻を事前に知っていて、何らかの映像を撮ろうとしていたのではないか?

 さらに、人民解放軍が所属不明のステルス機の攻撃を受け、撃墜されるという事態が発生する。被弾した機体の調査から、使用された武器はレールガン(電磁誘導で弾体を撃ち出す武器)であることが判明する。
 ちなみにレールガンの初速は通常の機銃の初速の2倍くらい速いらしい。

 物語の進行と共に、台湾・東南アジア・日本の一部に、ある "陰謀" が進行していること、佐藤もまたそれに加わっていたことが明らかになっていく。放置すれば日本と中国の武力衝突へつながるという最悪の事態になりかねない。

 クライマックスの舞台は、尖閣諸島上空。佐藤の開発したAiCO搭載のステルス戦闘機と、郷谷の駆るF-15の一騎打ちが描かれる。
 相手は「無人」というアドバンテージを持ち、郷谷の空戦テクニックを学習/熟知し、レールガンを搭載した無敵の戦闘機。郷谷は、この圧倒的に不利な状況を覆すことができるのか・・・


 本書の初刊は2016年だが、この7年間でのAIの進歩は著しい。現在はChatGPTに代表される生成AIの扱いが議論されているが、本書のように戦争にAIを投入するという研究も密かに進んでいるだろう。AI搭載のドローン兵器なんかも報道されているし。
 ウクライナに続いてパレスチナと、世界から戦争がなくなりそうにない。そのうちAIが人間を殺しまくる未来が来そうではある。『ターミネーター』の世界だな。


 作者の鳴海章氏は、1991年に第37回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。受賞作『ナイト・ダンサー』は、サスペンス溢れる航空アクション小説の傑作で、大興奮しながら読んだのを覚えてる。
 初期は航空サスペンスが多かったけど、そのうち他のジャンルに移っていった。でもたまに、こんな小説も書いてくれる。これは嬉しいことだ。



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