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狂った機関車 鮎川哲也の選んだベスト鉄道ミステリ [読書・ミステリ]


狂った機関車-鮎川哲也の選んだベスト鉄道ミステリ (中公文庫 あ 94-1)

狂った機関車-鮎川哲也の選んだベスト鉄道ミステリ (中公文庫 あ 94-1)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 鮎川哲也が1976~77年にかけて刊行した「鉄道推理ベスト集成」という全4巻のアンソロジーから、さらに7編を選抜したもの。[ ]内は初出年。


「狂った機関車」(大阪圭吉)[1934]
 吹雪が止んだ未明のW駅の西、給水塔と下り一番線の線路の間で死体が発見される。死因は後頭部への打撲傷。
 現場の状況から、被害者は1時間前に通過した機関車の車内で殺され、現場で投げ捨てられたものと思われたが・・・
 トリックはけっこう意外で、見破るのはほぼ無理かなぁ。蒸気機関車についても、ちょっと知識が必要かも。


「省線電車の狙撃手」(海野十三)[1931]
 "省線" とは、国鉄(現・JR)の旧名。
 品川行き省線電車(山の手線?)がエビス駅と目黒駅の間を走っていたとき、乗客の少女が座席から床に崩れ落ちる。胸に弾痕があり、肋骨の背部から弾丸が見つかる。線路周辺の住民から爆発音を聞いたという証言が得られ、弾丸は外部から撃ち込まれたものと推定されるのだが・・・
 作者は早稲田大学卒の理学士で、無線の研究をしていた科学者だった。作中には電車の速度と弾丸の速度と、被害者の体内への弾丸の進入角度の関係を示す、物理の力学問題みたいな図が載っているんだが、ゴルゴ13じゃあるまいし、そんな走行中の電車内の客を外から狙撃するなんて可能なのかい?って思ってしまった。
 じゃあ、真相は・・・って、この解決は後出しジャンケンだろう・・・?


「轢死経験者」(永瀬三吾)[1952]
 "私"は、飲み屋で30歳くらいの男と出会う。男は「線路の枕木の上に寝ていれば、上を列車が通っても死なない」という。枕木は線路より一段低いし、車体もレールすれすれほど低く造られていないからだ、と。
 男は "私" と賭けをすることになり、彼は近くの線路で寝そべった。列車が近づき、ついに男の上を通過した。怖くなった "私" は見ていられなくなり、酒場へ逃げ帰った。
 すると客の一人が「あいつは今までこの手を使って何人かからカネを巻き上げていたんだ」といい、あの男の弄した "トリック" を話してくれたのだが・・・
 安心したのも束の間、さらにもうひとひねり。


「観光列車V12号」(香山滋)[1951]
 中央アフリカ、ウガンダの首都を発した観光列車V12号は、ヴィクトリア湖横断橋を驀進している。公爵夫人サンドーラは、宝石商の使用人・田辺龍治(たなべ・りゅうじ)から、彼が使っている宝石集荷所の場所を聞き出した。その直後、田辺は夫人の放った銃弾を受けて、湖へ転落してしまう・・・
 ミステリと云うよりは冒険サスペンスかな。『ゴジラ』(1954:ゴジラ映画第一作)の原作者としか知らなかったけど、こんな作品も書いてたんだね。


「殺意の証言」(二条節夫)[1969]
 前半と後半の二部構成の作品。
 前半は、『終列車』という名の小説。大阪発東京行きの終列車に乗った "私" は、親指の無い謎の男と出会う。彼が語った、親指を失うに至った経緯は "私" の心の暗い部分に火をつけ、"私" を "ある犯罪" に向かわせる・・・
 後半は、その作者である高校教師・小沢の物語。彼の妻が死んだ件で警察の事情聴取を受けている。容疑を否定する小沢に対し、相手の警部は・・・
 『終列車』という小説の扱いがキモになるのだが、○○○○があったというのはちょっと肩透かしの感も。いくらなんでも、犯人はこれに気がつくんじゃないかなぁ・・・


「寝台急行《月光》」(天城一)[1976]
 22:30大阪発東京行き寝台急行《月光》の車内で、大阪の貿易商・宇津見の刺殺死体が発見される。やがて容疑者・桐原が浮上するが、彼は21:45大阪発東京行き《第2なにわ》に乗っていたと主張する。時刻表の上では、途中で《第2なにわ》を降りて《月光》に乗り込むことはできたが、そうすると到着後の東京での行動が説明できない、というアリバイがあった・・・
 もっとも、アリバイトリックはちょっと拍子抜けで「これはないだろう」と思った。それよりは、事件の周辺の描写の方が主のような気も。


「碑文谷事件」(鮎川哲也)[1955]
 東京・碑文谷で新進ソプラノ歌手・山下小夜子の刺殺死体が発見された。夫で音楽評論家の山下一郎は九州へ旅行中で、犯行時刻には22:45門司発東京行き準急 "2022列車" の車内にいたという。しかも、そのとき即興で思いついた狂歌(五七五七七の句。俳句に対する川柳のようなもの)を書き込んだ書物を、車中で知り合った相手に渡したと語る。捜査の結果それは証明され、アリバイが成立したのだが・・・
 メインとなるトリックは、単純すぎてかえって盲点か。むしろ "一発芸" に近いようにも思う(笑)。よく考えたら、バカミスに近いような気もしてきた(おいおい)。文庫で100ページ足らずの中編なのだけど、大長編でこのネタを使われたら怒る人もいるかも。
 もちろん、それ以外にもいくつかのトリックが組み合わされ、犯人の計画は鉄壁だ。そのひとつは鉄道路線を熟知していないと思いつかないもので、こういうマニア的なところに気づくのが巨匠たる所以なのだろう。



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