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悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選 〈昭和国鉄篇II〉 [読書・ミステリ]


悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編II〉 (双葉文庫)

悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編II〉 (双葉文庫)

  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 昭和の国鉄時代を舞台にした鉄道ミステリの傑作選、第二弾。


「探偵小説」(横溝正史)
 東北本線沿いのN温泉。そこに逗留していたミステリ作家の里見が東京に帰ることになった。N駅で列車を待つ間、同行者二人と最近地元で発生した女学生殺しについて話が弾むことに。
 警察は被害者と交際していた素封家の次男坊を取り調べていたが、里見は鉄壁のアリバイを持っていた女学校の教頭・古谷に疑惑を向ける。
 ミステリ作家として「もし古谷が犯人なら・・・」という仮定の下、推論を進めていく里見は、アリバイ工作を含む彼の犯行を明らかにしていく・・・という流れが面白い。
 同行者からツッコミが入っても、その都度柔軟に対処策を出していき、最後には "一編の探偵小説" とも云うべきストーリーが完成してしまう。しかもそれだけに終わらず、そのあとにもうひと捻りあるのが秀逸。
 本作は昔読んだこともあるし、アリバイトリックは単純だけど有名なもので、記憶にも残っている。でも今回の再読で、アリバイ以外の細かいところまで技巧が施された秀作だったことに改めて気づかされた。
 ミステリ作家は、こんなふうに作品を創り上げていくのかも知れない(実際はわからないが)って読者に思わせるところが巨匠たる所以か。


「鉄道公安官」(島田一男)
 "鉄道公安官" とは、国鉄時代に存在した役職。身分は国鉄職員だが、列車内や国鉄の敷地内で起こった犯罪に対処する司法業務を行う、"施設内警察官" とも呼べる存在だった。そのものずばり『鉄道公安官』というTVドラマもあったことも記憶してる(1979~80年。全42回)。ほとんど観てなかったが(笑)。
 主人公の鉄道公安官・海堂(かいどう)は、上り急行「出雲」に乗っていた。急行内で多発しやすい窃盗事件に対処するためだ。
 早朝に小田原駅を過ぎたとき、車掌から「乗客が一人いなくなった」との通報が。行方不明になったのは大学の助教授・大久保だった。東京の自宅を訪ねた海堂は、夫人のかつ子もまた失踪していたことを知る・・・
 大久保は石油の消費量を削減する画期的な研究をしていたらしいが、それに絡む石油会社などの思惑など、意外と深い陰謀が底流にあったことが明らかになっていく。
 ちなみに、国鉄が民営化されてJRになったとき、鉄道公安官の職は廃止され、公安官たちは改めて採用試験を受けて警察官になった者と、JRに残って一般職員になる道を選んだ者と二つに分かれたという。


「不運な乗客たち」(井沢元彦)
 東西鉄道は、神奈川県大船を起点に都心まで路線を持っている。ある日の朝、通勤通学客を満載した車両が都県境の麻生川を渡っていたとき、突然全部の車両の左側のドアが開いて乗客が川や線路際に転落、死者行方不明8名を含む数十人の死傷者が発生する大事故が起こってしまう。警察は車掌・上原を業務上過失致死の疑いで取り調べを始める。
 しかし事件に不審なものを感じた美術評論家・南条は、新聞記者・久保田と共に調査を始めるが・・・
 ミステリ通なら「木の葉を隠すなら森の中」的なカラクリを思いつくだろうが、作者の用意した真相はそれを超えたものだろう。


「ある騎士の物語」(島田荘司)
 1960年代、恋ヶ窪のアパートに住んでいた5人の若者がオートバイによる配達業務を行う会社「クイックサーヴィス」を設立した。リーダーの藤堂次郎のもと、会社は順調に発展していく。やがて藤堂は恋人の秋元静香とマンションで同棲を始めた。会社は業務を拡大し、カレーショップのチェーンまで始めた。
 しかし1974年の1月、藤堂が失踪してしまう。会社の資産をすべて現金に換えて持ち逃げし、カレーショップの権利も既に人手に渡っていた。新たな恋人と生活を始めるためらしい。捨てられた静香は復讐を誓う。
 そして2月1日の晩。残された4人の前に現れた静香は、銃を手にしていた。藤堂が今晩の午前1時に埼玉県東所沢の、ある場所に現れることまで突き止めたという。
 しかしその晩、東京は大雪に見舞われており、道路は通行不能になっていた。時刻は既に12時40分、武蔵野線も既に終電が出ており、午前1時までに恋ヶ窪から東所沢まで移動することは不可能だった。
 だが、藤堂は東所沢で射殺死体となって発見される。そして死亡時刻は午前1時だった・・・
 初読は1990年代に刊行された文庫版の短編集だったと記憶してる。ストーリーはすっかり忘れていたけど、トリックはすぐ思い出した。それくらい印象的だったのだろう。



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