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びっくり箱殺人事件 [読書・ミステリ]


びっくり箱殺人事件 (角川文庫)

びっくり箱殺人事件 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 横溝正史復刊シリーズの一冊。
 表題作の長編に加え、短編を1作収録。


「びっくり箱殺人事件」

 時代は終戦後間もない頃。レビュー劇団・梟(ふくろう)座の公演「パンドーラの匣(はこ)」で起こった事件を描いている。ちなみに金田一耕助は登場しない。

 「レビュー」を検索すると、語源はフランス語の「revue」で意味は ”批評” だとのこと。言葉通り、本来は歌と踊りに時事風刺劇を組み合わせた舞台芸能を指すらしいのだけど、本書に登場する「レビュー」はかなり ”お色気” の方に重点を置いたもの。

 元俳優で、人気作家でもある深山幽谷先生書き下ろし台本による「パンドーラの匣」。神話では、匣の中からはあらゆる災いが飛び出したとされるが、今回の舞台では、匣の中からは5人の怪人が飛び出すという趣向に。
 『フランケンシュタイン』の人造人間、『ジキルとハイド』のハイド氏、『ノートルダムのせむし男』のカジモド、『カリガリ博士』の夢遊病患者、そしてなぜかキング・コングが(笑)。

 しかし公演の7日目、怪人役の俳優が次々と何者かに殴られるという謎の事態が勃発する。

 さらに、公演の最中に舞台上で殺人が実行されてしまう。匣を開くのは本来、パンドーラ役の女優・紅花子(くれない・はなこ)なのだが、その日の演出ではパンドーラの夫役が開くことになっていた。そして彼が匣を開けた瞬間、中から飛び出した短剣が彼の胸を貫いたのだ・・・

 横溝正史と言えば伝奇・怪奇趣味な作風で有名だけど、本作はその辺は影を潜めていて、専ら喜劇調で進行する。
 出てくるキャラクターの名も、作家兼俳優の深山幽谷をはじめ ”ショーグン” こと葦原小群(あしはら・しょうぐん)とか、”しばらく” こと柴田楽亭(しばた・らくてい)とか、半紙晩鐘(はんし・ばんしょう)とか、灰屋銅堂(はいや・どうどう)とか、顎十郎(あご・じゅうろう)とかふざけたものばかり。

 殺人事件が起こったので当然ながら警察が登場する。やってきたのは皆さんおなじみの等々力警部。しかし金田一ものに登場する彼とは同一人物に見えないくらい、いささかエキセントリック。まあそのへんも楽しいといえば楽しいが。

 コミカルな展開ながら、匣の中に短剣の仕掛けを取り付ける時間の各容疑者のアリバイとか、役者たちが次から次へと殴られまくった謎も合理的に説明されるなど、ミステリとしての構成はきっちりしている。


「蜃気楼島の情熱」

 ひさびさにパトロンである久保銀造に会いにきた金田一耕助は、久保の知人・志賀泰三の住む瀬戸内の島に案内される。
 志賀は久保とともにアメリカにいた頃、妻を殺されるという哀しい過去があった。帰国した彼は、本土から一里(約4キロ)ほど沖にある小島に、国籍不明で摩訶不思議な仕様の家を建て、新婚の若妻・静子とともに住んでいた。しかし金田一たちが志賀の家に宿泊した夜、静子の絞殺死体が発見される・・・

 文庫で70ページほどなのだけど、ミステリ的に密度が高い作品。
 メイントリックは海外の某有名作品でも似たものが使われてるけど、それよりも事件の全容に驚かされる。犯人の構築した計画の綿密さ、周到さ、そして凶悪さは異様だ。そしてそれを見抜く金田一耕助の推理も素晴らしい。



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短編ミステリの二百年4 [読書・ミステリ]


短編ミステリの二百年4 (創元推理文庫)

短編ミステリの二百年4 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

 短編ミステリの歴史を俯瞰するアンソロジー、全6巻の4巻目。

 本書には13編を収録。

「争いの夜」(ロバート・ターナー)[1956]
 酒場で飲んでいた ”おれ” と友人のマックス。そこに見知らぬ男が絡んできて、マックスと壮絶な殴り合いに。その行き着く先まで描いて、それだけで終わる。

「獲物(ルート)のL」(ローレンス・トリート)[1964]
 廃車置き場で弾痕のあるホイールキャップを見つけたミッチ刑事。そこで出会った子どもが、強盗事件の犯人にそっくり。子どもを警察署に連れてくるが、廃車置き場の支配人が「うちの子だ」と言い出す・・・

「高速道路の殺人者」(ウィリアム・P・マッギヴァーン)[1961]
 高速道路パトロールの警官オリアリー。ハイウェイ沿いのレストランのウエイトレスと恋仲だ。そこへ殺人者が現れ、警察隊と追いつ追われつが始まる。こいつがけっこう賢くて、オリアリー(警察)との知恵比べの様相も。

「正義の人」(ヘンリィ・スレッサー)[1962]
 マッケルヴィは退職警官だが、かつて担当した強盗事件に未だこだわっていた。犯人とにらんだ男がいたのだが、被害者の女性は苛性ソーダを顔にかけられ視力を失っていた。しかし、名医の治療で視力を取り戻す可能性が出てきた・・・

「トニーのために歌おう」(ジャック・リッチー)[1965]
 兄・トニーが人を殺した。弟の ”ぼく” は、兄を死刑から救うために、州知事の息子を殺人の共犯者に仕立てて逮捕させる。州知事が ”政治力” を発揮して減刑させることを期待したのだが・・・

「戦争ごっこ」(レイ・ブラッドベリ)[1943]
 子どもの頃、戦争ごっこに夢中だったジョニー。成長し、現実の戦場に放り込まれても、彼の心は ”ごっこ遊び” の世界の中にあった。そして彼は、なぜか幾多の戦場から生還し続ける・・・

「淋しい場所」(オーガスト・ダーレス)[1948]
 子どもの頃、”わたし” は町へのお使いが恐ろしかった。帰り道に途中に、暗くて ”淋しい場所” があったから。そこには ”何か” がいるのだ・・・

「獲物」(リチャード・マシスン)[1969]
 母親の束縛から逃れたいアメリア。電話で母親に辛く当たった夜、異変が起こる。恋人の誕生日のために買った人形が動き出し、アメリアに襲いかかってきたのだ・・・。こんな映画があったような気が。

「家じゅうが流感にかかった夜」(シャーリィ・ジャクスン)[1952]
 夫婦と3人の子ども(うち一人は赤ん坊)、そして犬一匹の家族。彼らみんなが流感にかかり、寝苦しい一夜を過ごす。寝付けないままに布団や枕を持ってふらふらと家中を彷徨う様子を描く、それだけ。とにかく広い家で羨ましい(笑)。

「五時四十八分発」(ジョン・チーヴァー)[1954]
 秘書を一夜の情事の後に解雇したブレイク。クビになっても彼女は手紙や電話でブレイクに接触しようとしていたが、彼は全て無視。ある日、列車に乗ろうとしたブレイクは彼女に出くわす。どうやら直接会いに来たようだ・・・

「その向こうは――闇」(ウィリアム・オファレル)[1958]
 高級アパートに暮らす資産家の老婦人ミス・フォックス。ある日彼女は強盗に遭いダイヤの指輪を奪われてしまう。アパートのエレベーターボーイのエディを疑う彼女は、警察に彼が犯人だと告げてしまう・・・

「服従」(レスリー・アン・ブラウンリック)[1963]
 第二次大戦中、フランス人の娘の ”わたし” が暮らすアルジェリアの村に、ドイツ軍人フォルクマルが現れ、村は占領されてしまう。フォルクマルに協力する ”わたし” は、次第に彼に惹かれていくのだが・・・

「リガの森では、けものはひときわ荒々しい」
   (マージェリー・フィン・ブラウン)[1970]
 ごめんなさい。私にはこの作品を理解できるだけの知性がありません。


 うーん。前巻でミステリ度が上がったって書いたけど、この巻では下がってしまったと思う。

 ミステリとして面白いと思ったのは「獲物(ルート)のL」「高速道路の殺人者」の2編。「高速-」はサスペンスとしても秀逸。

「争いの夜」はバイオレンス小説。
「トニーのために歌おう」「五時四十八分発」「その向こうは――闇」「服従」はサスペンス。「五時-」はホラーに入れてもいいな。
「正義の人」はサスペンスというよりは警察(警官)小説。
「戦争ごっこ」はファンタジーだね。さすがはブラッドベリ。
「淋しい場所」「獲物」はホラー。
「家じゅうが流感にかかった夜」はユーモア小説として読んだ。

「リガの森では、けものはひときわ荒々しい」
これ、ホントに分かりません。ていうか、分かる人いるのかなぁ。

 このシリーズ、あと2巻なんだけど、一体どうなるのでしょうか。
 ミステリ以外(と私が感じる)の作品でも、だいたいは面白く読めてきたのだけど、今回の「リガ-」を読んだら、私と編者の方とでは根本的に基準が違う気がしてきて、ちょっと心配です。



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狐火の辻 [読書・ミステリ]


狐火の辻 (角川文庫)

狐火の辻 (角川文庫)

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
評価:★★★☆

 IQ208の天才少年棋士・牧場智久が登場するシリーズの一編。

 序章では、3つのエピソードが語られる。

 一つ目は、小学生の男の子が森の奥の洋館跡へ探検に出かける話。
 そこではかつて子どもの死体が見つかり、しかもその右手首は切り落とされていたという。みなが怖がる中、反発した彼は勇気を奮って森に分け入っていくのだが、そこで全身黒詰めで鎌を持った ”何者か” に遭遇し、逃げ帰る。

 二つ目は、土砂降りの雨の中での出来事。
 激しい雨の中、徒歩で家路を急ぐ男の目前で、ひき逃げ事故が起こる。被害者は病院へ搬送されたが死亡してしまう。目撃者となった ”彼” は警察から執拗に事情を聴かれることに。しかし犯人は捕まらず、”彼” の心の中には、”あいつ” への怒りが渦巻き始める。

 三つ目は、大学サークルのOB会での出来事。
 会場となる温泉宿へ着いた彼女は、”元カレ” であるタカトを探し始める。しかし、探し当てたタカトは彼女の目の前で自動車にはねられてしまう。タカトを搬送する救急車に同乗して病院へ向かうが、タカトは幸い軽傷で済む。そこへ幹事の先輩が様子を見にくるが、一緒に来た旅館の仲居さんが病院の玄関でひどく驚いたような表情をみせる。何かを目にしたらしいのだが・・・

 そしてこのような不思議な、あるいは意味がよく分からないエピソードはこれで終わらないのだ。本編が始まっても、同様なことがどんどん列挙されていく。
 老齢の女性が運転する車が人をはねるが、その被害者が現場から消えてしまった話とか、タクシーが客を乗せるが、途中でその客が消えてしまうとかの怪談(都市伝説?)とか、ビルの屋上から何かを下に向けて投げる男の話とか・・・

 一般的なミステリの定型なら、大きな事件がどーんと真ん中にあって、謎もそれを中心に散りばめられているのだけど、本書の場合は、細かい事件はたくさん起こっているが、中心になる事件が見当たらない。
 だからといってそのままでは話が進まないので(笑)、それに首を突っ込んでいく者が登場する。小田原署の刑事・楢津木と、交通課の2人の警官だ。

 この3人、集まった雑多な情報をもとに居酒屋でだべるのだけど、もちろんそれで真相に行き着くはずもない。そこで楢津木刑事の伝手を辿って牧場くんの出馬を乞う・・・という流れ。

 とは言っても牧場くんも本職は囲碁の棋士で、対局が立て込んでたりして暇ではない。なので本書の中の登場シーンは少ない。電話を通しての ”出演” シーンも多い。売れっ子のタレントみたいである(笑)。

 ミステリはよくジグソーパズルに例えられるが、本書の場合、巻末の解説でも触れられてるけど、ピースばっかり集まって一向に全体の絵が見えてこない。
 読者は本書がミステリであることを知ってるから、これらのピースをつなぐ、一連のストーリーがあることを予想しながら読むのだけど、これがまあ見当がつかないのだなぁ。まさに「五里霧中」という言葉通りの心境を味わうことに。

 もちろん終盤では、牧場君の推理でこれらがきれいに整理整頓され、並べ変えられていく。そうすると、一見何の関係もなさそうな断片が意外なところでつながって、見事な ”絵” が浮かび上がってくるのだからたいしたものだ。

 あえて文句を言うなら、上にも書いたが牧場くんの出番が少ないこと。そして、そのガールフレンドの武藤類子嬢の出番が全くないこと。台詞の中での言及はあるけど、本人登場シーンはゼロだ。
 まあ本書の構成上、彼女の役割が設定しにくい、というか、登場させないほうがまとまりがいいかな、というのはわかるんだけど、シリーズのファンとしてはちょっと寂しいなぁとも思う。次回はぜひガッツリ登場させてください。



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まほり [読書・ミステリ]


まほり 上 (角川文庫)

まほり 上 (角川文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
まほり 下 (角川文庫)

まほり 下 (角川文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
評価:★★★★☆

 舞台は上州(群馬県)の某町。作中の記述では、長野県との県境に近い山中にあるようだ。


 物語は、二つのパートが平行して進行していく。

 一人目の視点人物は、中学生・長谷川淳(はせがわ・じゅん)。

 彼の一家は、喘息を患う小学生の妹・依子(よりこ)の転地療養のため、祖母の家のあるこの地に引っ越してきた。
 その日、渓流釣りをしようと沢を登っていた淳は、意外なものに出くわした。それは、深緑の谷川の瀬に佇む、真紅の和服姿の美少女だった。少女は淳の姿に気づくが、その直後に現れた男たちによって連れ去られてしまう。少女は彼らの保護下にあるようだが、その様子に不審なものを感じる淳。

 その後、何度かその場所に来てみたものの、少女と会うことは叶わなかった。しかしその一年後の夏祭り、神楽の行われる神社の境内で、淳は再び少女を目撃することに。


 二人目の視点人物は、大学院進学を目指す、社会学専攻の大学4年生・勝山裕(かつやま・ゆう)。彼が本書の主役である。

 卒業研究のテーマに悩む同期生たちの相談を受けていた裕は、学生の一人から気になる話を耳にする。

 上州の某町では、二重丸(「蛇の目紋」ともいう。「◎」のような紋様)を描いた紙が至る所に貼られているのだという。そして、それを不思議に思って調べ始めた小学生たちは、やがて山奥のお堂に辿り着き、そこで恐ろしいものを見たらしい・・・

 その町は、裕の出身地に近い場所にあった。さらにその話の中に、幼い頃に亡くなった母につながる ”糸口” を感じる裕。彼の父は、母の生い立ちを黙して語らず、それが原因で父子の間が疎遠になっていたのだ。

 夏休みを利用して帰郷した裕は、地元の図書館にこもって調査を開始する。小学生たちが辿り着いたお堂の位置の確定し、さらにその由来を調べるためだ。

 その彼の前に強力な助っ人が現れる。幼なじみの飯山香織(いいやま・かおり)だ。図書館のアルバイト司書として働く彼女の伝手で、博物館の学芸員、郷土資料館員などの専門家からアドバイスを受けつつ、史料を読み込んでいく裕だが、その量の膨大さに頭を抱えてしまう。

 しかし香織とともに行ったフィールドワークの中で、お堂の位置を突き止めることに成功し、さらにその途中、中学生・長谷川淳と出くわすことに。
 そして淳は二人に告げる。山奥の集落に、少女が監禁されているのだと・・・


 物語の後半は、その集落にまつわる様々な謎に裕と香織が迫っていくことになる。そこでは何が起こっているのか、そこの人々の行動の目的は何なのか、その少女の役割は何なのか、そして、それはいつから始まったのか、なぜ始まったのか、それは時代ともにどう変容していったのか、そして、なぜ ”この地” でなければならなかったのか・・・。
 そしてタイトルの「まほり」。これは後半に入ってから出てくるのだが、すべての謎がこの言葉の意味に集約されていく、本書のキーワードになっている


 文庫の惹句には「民俗学ミステリー」ってあるんだけど、いわゆる ”伝奇ミステリ” とどこが異なるのか。それは史料の扱いだろう。

 私見だが、たいていの歴史がらみの伝奇ものは、史料(実在するものも作者が創作したものも含めて)から、物語に沿って取捨選択したものを組み立てて背景を構築していくものが多いように思う。そこでは史料の信頼性よりも、内容の奇抜さの方が重視される。しかし本書では、史料の扱いが非常に厳密なのだ。

 まず、実在する史料が随所に出てくるし、その史料の信頼性についても深く考察が行われる。このあたりは本書の重要な要素で、かなりページ数を割いて描かれる。それによって荒唐無稽さを極力そぎ落とそうとしているようにも思える。それだけに、終盤に現れてくる ”真実” に凄みが出てくるのだが・・・

 とは言っても、このあたりはいささか読むのが大変だ。返り点のない漢文(いわゆる白文)がたくさん出てきたりする。私自身、高校時代の古典の授業は苦痛でしかなかった(おいおい)ので、見るのも辛いページも少なくない(笑)。
 まあ、たいていその後には現代語訳が出てくるので、ストーリーの理解には困らないのだが。

 それを埋め合わせるわけではないだろうが、ラブストーリー成分がけっこう豊富だ。

 メインヒロイン(?)となる飯山香織嬢がとにかく素晴らしい。

 裕とは中学校時代の塾からの知り合いで、ともに成績上位クラスにいた仲だった。大学では図書館情報学を専攻し、来年には、狭き門を突破して正採用の司書となることが決まっている才媛でもある。
 その香織嬢、裕に再会した瞬間から、「懐かしさ」を超えた感情を発散させまくる。まあ有り体に言えば、裕に対する好意を隠さないのだけど、それが少しもあざとく感じられないのは、明朗快活に加えて素朴でサバサバした性格にあるのだろう。いささか粗忽なところもご愛敬だ。

 裕のほうも、数年ぶりに再会した香織が意外と美人になっていて戸惑う場面があったりと、お約束の展開である(笑)。二人のやりとりはまさにラブコメ全開で、彼女の登場するシーンは読んでいて自然と頬が緩んできてしまう。

 史料が連続する場面では、なかなか先へ読み進められないのだけど、香織さんが出てくると俄然ページをめくるスピードが上がるのだからたいしたもの。堅苦しい部分が少なくない本書を楽しく読めたのは、彼女の貢献が大きい。

 そしてもう一人、長谷川淳くん。裕&香織の雰囲気とは一転して、こちらはシリアスだ。
 本書の冒頭はまさにボーイ・ミーツ・ガール。レイア姫のホロ映像を見たルーク・スカイウォーカーの如く、淳は ”囚われの美少女” 救い出すべく、奔走(暴走)することになる。そのためにさまざまな困難や危機にぶち当たっていくのだが、そのあたりもページをめくらせる原動力になっている。


 作者は「図書館の魔女」シリーズで有名な人。巻末の解説では、このシリーズの新刊が予定されているとの情報も。
 そちらのほうも楽しみだけど、裕&香織のカップルにもまた会いたいなぁ。短編でもいいから、登場人物たちの後日談が読みたくなる。そんな作品でした。



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彼女は弊社の泥酔ヒロイン 三友商事怪魔企画室 [読書・SF]


彼女は弊社の泥酔ヒロイン―三友商事怪魔企画室―(新潮文庫nex)

彼女は弊社の泥酔ヒロイン―三友商事怪魔企画室―(新潮文庫nex)

  • 作者: 梶尾真治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/03/06
評価:★★☆

 主人公・中田栄子は短大を卒業し、三友商事に入社した。それに伴い、実家を離れて従姉妹の飯塚美宇(みう)の家で暮らすことになった。

 飯塚家は一家でコンビニエンスストアを営んでいる。
 栄子の入社式の日、コンビニで働いていた美宇の前に現れたのは栄子の母・乙子(おつこ)だった。
 彼女は言う。働き出す前に、今一度栄子に念を押しておくべきことがあると。それは「絶対に酒を飲んではいけない」ということ。
 携帯電話恐怖症の乙子のために、栄子も携帯電話を持っていない。じかに会って伝えるしかない。

 その日は入社式に加え、夜には新入社員歓迎親睦会が開かれることになっていた。美宇は慌てて親睦会の会場に向かうが時遅し、すでに栄子は大きなコップに注がれたビールを一息に飲み干した後だった。

 栄子の体には、アルコールを摂取すると超人的な能力を発揮する特異体質が潜んでいたのだ。空こそ飛べないものの(笑)、プリキュアか戦隊ヒーロー並みの身体能力と、強大なパワーを発揮することができるようになるのだ。

 しかしそれは諸刃の剣でもあった。この世界の隣には、”異界” と呼ばれる世界がある。彼女の ”能力” の発動によって、”異界” から「怪魔」と呼ばれる化け物がこちらの世界へとやってくる ”扉” が開かれてしまったのだ。

 栄子の ”能力” は、彼女の一族が先祖代々受け継いできたものだった。
 さっそく出現した「怪魔」を超絶パワーで撃退したものの、「怪魔」はこれからも続々とやってくる。それも、彼女が開いた ”扉” の周辺、つまり三友商事や美羽のコンビニがある近隣の地区を中心に出没することに。

 会社を辞めようかと悩む栄子だったが、それを知った社長の御曹司・友田は、これを利用した新規ビジネスを立ち上げる。それは「怪魔」の襲撃から近隣地域の人々を護衛する、会員制の事業だった・・・


 魔法少女/スーパーヒロインオタクの美宇、浮世離れした友田、惚けたようですべてを知ってる祖父・山太郎。コメディタッチのキャラが多い一方、ずっと「怪魔」と戦い続けてきた母・乙子、そして、栄子の父の秘密など、シリアス要素もある。

 読んでいてどうにもノレないのは、このバランスの悪さなのかもしれない。もうちょっとどちらかに振り切った方が私の好みには合致するような気がする。
 つまらないわけではないのだけど、今ひとつ波長が合わない作品でした。



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コロナウイルスワクチン 4回目接種 [日々の生活と雑感]


 一昨日(8/1)、4回目の接種を済ませてきました。
 今回のワクチンはモデルナ製。なので、今までの経過は
 ファイザー → ファイザー → モデルナ → モデルナ となります。

 1回目は公立の体育館で、2回目はショッピングモール内の多目的ホール、3回目は合同地方庁舎と、すべて集団接種会場だったんですが、今回は街なかの個人医院でした。

 今までの3回とも、重い副反応は全くと言っていいほど出なかったので、あまり心配はしていなかったんですが、4回目接種からおよそ50時間ほど経った現在も、目立って大きな症状は出ていません。

 腕に射ったところが痛むのは毎度のことで、昨日は腕を上に伸ばすとちょっと痛かったんですが、今日はほとんど気になりません。
 射った部分を触ってみると、少し熱を持ってるのがわかるので、たぶん内部では腫れてるんでしょうねぇ・・・。
 あと昨日の夕方に軽い頭痛を感じたのですが、これも市販の鎮痛剤を飲んだら治りました。

 コロナウイルスもなかなか収まらず、現在第7波の真っ最中のようでTVでは感染者数の増加を報道してます。
 不安を感じないわけではないのですが、個人レベルでできる対策をとって、あとは「なるようになるだろう」という気分で生活してます。

 かみさんも7月末には4回目を済ませてますので、まあ「やるだけのことはやった」ということで。


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血染めの旅籠 月影兵庫 ミステリ傑作選 [読書・ミステリ]


血染めの旅籠 月影兵庫ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

血染めの旅籠 月影兵庫ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/08/22
評価:★★★

 私と同世代かちょっと上の人ならば、”月影兵庫” と言えば1965~68年にかけて放映されたTVドラマ「素浪人 月影兵庫」を思い出すだろう。
 主演は近衛十四郎(このえ・じゅうしろう)。40代以下の人には馴染みがないと思うが、俳優の松方弘樹・目黒祐樹の兄弟の父親だった人です。

 それよりは、同じ近衛十四郎が主演した後継番組「素浪人 花山大吉」(1969~70年)のほうを覚えている人のほうが多いかもしれない。私もどちらかというとこっちのほうがなじみがある。「月影-」は白黒だったけど「花山-」はカラーだったし(笑)。
 本書の解説では、この2つのドラマの関係についても言及している。


 本書には、原作となった小説版から17編を収めている。

「上段霞(かすみ)切り」「通り魔嫌疑」「血染めの旅籠(はたご)」「首のない死体」「大名の失踪」「二百両嫌疑」「森の中の男」「偉いお奉行さま」「帰ってきた小町娘」「掏摸にもすれないものがある」「私は誰の子でしょう」「鬼の眼に涙があった」「乱れた家の乱れた話」「ただ程高いものはない」「理屈っぽい辻斬り」「殺したのは私じゃない」「殺しの方法は色々ある」

 だけど、近衛十四郎のイメージで読むといささか戸惑うだろう。1965年にTVに登場したとき、近衛は51歳。しかし本書に登場する兵庫は青年期(20代~30代はじめくらいと思われる)なのだ。

 11代将軍徳川家斉の時代。老中松平伊豆守の甥として生まれた兵庫。
 次男坊なので家督は継げないものの、そのぶん気楽な身分。明朗快活で人懐こく、それに加えて十剣無統流の達人で、必殺技・上段霞切りの前にはどんな敵もかなわない。そんな快男児・兵庫が旅のまにまに出くわす事件を描いていく。

 好色な将軍・家斉の側室になるのを嫌がり、江戸を逃げ出した綾姫を追うことを松平伊豆守から命じられ、追跡していく道中を描いたのが「上段-」から「首の-」までの4作。
 江戸に帰った兵庫は、綾姫追跡メンバーの1人で奥女中だった桔梗を娶り、道場を開く。「大名の-」はこの時期の作品。
 しかし桔梗は妊娠するも流産、そして帰らぬ人となってしまう。妻子を喪った兵庫は道場をたたみ、流浪の旅に出ることに。「二百両-」以後は、その旅の道中での事件を描いている。

 週刊誌連載だったためだろうが、1作あたり文庫で約20ページ。であるからミステリとしても凝った構成には出来ないわけで、読んでいるとたいてい見当がついてしまう。どの程度の「ミステリ」を期待するかにもよるが、「本格もの」を期待すると当てが外れるかな。

 じゃあつまらないか、と言えばそんなことはない。なんと言っても兵庫のキャラがいい。上にも書いたが、「快男児」という言葉にふさわしい活躍ぶり。弱きを助け強きを挫く、庶民を苦しめる悪党どもをバッタバッタと切り捨てていくのが痛快だ。剣豪小説としてはとても面白いシリーズだと思う。

 唯一「大名の失踪」だけは例外的に70ページほどある。週刊誌で5回にわたって連載されたもので、真相もけっこう意外。兵庫と桔梗がしょっちゅう痴話喧嘩を繰り広げるのも楽しく、これはなかなか読みであった。

 そして作者の文章がいいのだろう。時代小説には「ちょっと読みにくいかな」って思う作品もけっこうあるのだけど、本書はそんなことは全くなく、サクサク読める。
 通勤の行き帰りに、サラリーマンのおじさんたちが読むにはまさにぴったりの作品群だったのだろうと思う。



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