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PIT 特殊心理捜査班・水無月玲 [読書・ミステリ]


PIT 特殊心理捜査班・水無月玲 (光文社文庫)

PIT 特殊心理捜査班・水無月玲 (光文社文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/10/13
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

 PIT とは Psychology Investigation Team の略。警視庁捜査一課直属の捜査支援部署で、心理学の手法を用いて犯人像を分析するのが主な仕事。要するにプロファイリング(犯罪捜査において犯罪の性質や特徴から行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論すること。by wikipedia)を行っているわけだ。

 この部署の班長が水無月玲(みなづき・れい)という女性。そしてこの部署に異動してきた新メンバー・蒼井俊(あおい・しゅん)が主人公である。

 とはいっても俊はコンピュータ、それもAIが専門。階級は巡査部長だが、肩書きは「コンピューター犯罪特殊捜査官」、それも技術職(エンジニア)だった。だから現場にもほとんど出ずに、専ら機械を相手にしている。もっとも、彼が現場に出たがらないのにはもう一つ理由があるのだが・・・
 そんな彼は、プロファイリングに対して「ちょっと性能のいい占いに過ぎない」なんて言い放つくらい信用していない。

 しかし彼の異動は水無月班長の肝いりで、その目的は近頃東京で起こっている連続猟奇殺人の解決のためだった。
 若い女性ばかり狙い、遺体はバラバラに切断する。犯人は自らを ”V” と名乗って犯行声明を行っていた。既に3人が犠牲になり、”V” の検挙は警察にとって最優先事項になっていた。

 従来のプロファイリングに加えて最新のAI技術を用いて ”V” を見つけ出す。それが水無月班長の目的だった。

 ・・・というわけで俊を迎えて総勢6人となったPITの捜査が始まるのだが、これがまたまとまりがない集団で、先が思いやられる。

 メンバーの一人、春野杏菜巡査はプロファイリングの大家である水無月班長を崇拝している。

 同じくメンバーの川名巡査部長は昔気質の人間で、いわゆる「刑事の勘」こそ肝心と考えている。彼にとってはPITへの異動は ”左遷” であり、一刻も早く通常の部署に戻りたいと思っている。
 だから、現場に出ない俊など刑事の風上にも置けないわけで、この2人はことあるごとに角突き合わすことになる。

 そしてタイトルになっている水無月玲。年齢は45歳なのだけど、なんと言っても印象的なのは、下半身が不自由なため車椅子に乗っていること。
 沈着冷静で、ハンデはあっても必要ならば現場へも出向いていく。
 彼女が障害を負った原因や、プロファイリング研究に入ったきっかけなどは、物語の中で少しずつ明かされていく。

 俊が担当するのは、主に防犯カメラの映像解析。
 都内にある膨大な数の防犯カメラが撮影した、これまた天文学的な量の映像の中から、被害者が映ったものを選び出し、その周囲に映っている人物を特定していく。
 ”V” は犯行の前に ”獲物” を物色するために、被害者の周りに姿を見せているはず。だから、そこには必ず ”V” が映り込んでいるに違いない。
 およそ人間には不可能な処理も、最新AIの顔認証技術を用いれば可能なのではないか。

 それに加えて、2つの未解決事件も織り込まれていく。過去に起こった弁護士一家殺人事件、夫婦が殺害されて遺体が細かく切り刻まれた事件。一見すると関係なさそうな事件が、後半になると本筋に絡んでくる。

 俊による懸命の解析や、他のメンバーの捜査にも関わらず、なかなか ”V” に迫ることができないPIT。
 一刻も早い解決を迫られた警察は、ついに春野杏奈による ”囮捜査” を立案するのだが・・・


 AIは日進月歩で、そのために何年後かには無くなってしまう仕事があるとかいろいろ話題だけど、警察でもAIが捜査に利用されるようになっていくんだろうとは思う。
 今回は、ほとんど防犯カメラの画像解析でしか出番がなかったけど、おいおいいろんな使われ方が生まれていくんだろう。
 とは言っても「科学捜査+AI」で事件が全部解決するようになったら探偵は廃業だね。まあ、私が生きている間はそうならないだろうけど(笑)。

 本作でいちばん印象に残るのは、なんと言っても水無月玲のキャラクターだろう。全体を通してみれば出番は多い方ではないのだけど、読み終わってみると彼女の存在感は忘れがたい。
 ちなみに私の脳内では、彼女の台詞は声優の榊原良子さんの声に変換されてました。



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