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まほり [読書・ミステリ]


まほり 上 (角川文庫)

まほり 上 (角川文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
まほり 下 (角川文庫)

まほり 下 (角川文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
評価:★★★★☆

 舞台は上州(群馬県)の某町。作中の記述では、長野県との県境に近い山中にあるようだ。


 物語は、二つのパートが平行して進行していく。

 一人目の視点人物は、中学生・長谷川淳(はせがわ・じゅん)。

 彼の一家は、喘息を患う小学生の妹・依子(よりこ)の転地療養のため、祖母の家のあるこの地に引っ越してきた。
 その日、渓流釣りをしようと沢を登っていた淳は、意外なものに出くわした。それは、深緑の谷川の瀬に佇む、真紅の和服姿の美少女だった。少女は淳の姿に気づくが、その直後に現れた男たちによって連れ去られてしまう。少女は彼らの保護下にあるようだが、その様子に不審なものを感じる淳。

 その後、何度かその場所に来てみたものの、少女と会うことは叶わなかった。しかしその一年後の夏祭り、神楽の行われる神社の境内で、淳は再び少女を目撃することに。


 二人目の視点人物は、大学院進学を目指す、社会学専攻の大学4年生・勝山裕(かつやま・ゆう)。彼が本書の主役である。

 卒業研究のテーマに悩む同期生たちの相談を受けていた裕は、学生の一人から気になる話を耳にする。

 上州の某町では、二重丸(「蛇の目紋」ともいう。「◎」のような紋様)を描いた紙が至る所に貼られているのだという。そして、それを不思議に思って調べ始めた小学生たちは、やがて山奥のお堂に辿り着き、そこで恐ろしいものを見たらしい・・・

 その町は、裕の出身地に近い場所にあった。さらにその話の中に、幼い頃に亡くなった母につながる ”糸口” を感じる裕。彼の父は、母の生い立ちを黙して語らず、それが原因で父子の間が疎遠になっていたのだ。

 夏休みを利用して帰郷した裕は、地元の図書館にこもって調査を開始する。小学生たちが辿り着いたお堂の位置の確定し、さらにその由来を調べるためだ。

 その彼の前に強力な助っ人が現れる。幼なじみの飯山香織(いいやま・かおり)だ。図書館のアルバイト司書として働く彼女の伝手で、博物館の学芸員、郷土資料館員などの専門家からアドバイスを受けつつ、史料を読み込んでいく裕だが、その量の膨大さに頭を抱えてしまう。

 しかし香織とともに行ったフィールドワークの中で、お堂の位置を突き止めることに成功し、さらにその途中、中学生・長谷川淳と出くわすことに。
 そして淳は二人に告げる。山奥の集落に、少女が監禁されているのだと・・・


 物語の後半は、その集落にまつわる様々な謎に裕と香織が迫っていくことになる。そこでは何が起こっているのか、そこの人々の行動の目的は何なのか、その少女の役割は何なのか、そして、それはいつから始まったのか、なぜ始まったのか、それは時代ともにどう変容していったのか、そして、なぜ ”この地” でなければならなかったのか・・・。
 そしてタイトルの「まほり」。これは後半に入ってから出てくるのだが、すべての謎がこの言葉の意味に集約されていく、本書のキーワードになっている


 文庫の惹句には「民俗学ミステリー」ってあるんだけど、いわゆる ”伝奇ミステリ” とどこが異なるのか。それは史料の扱いだろう。

 私見だが、たいていの歴史がらみの伝奇ものは、史料(実在するものも作者が創作したものも含めて)から、物語に沿って取捨選択したものを組み立てて背景を構築していくものが多いように思う。そこでは史料の信頼性よりも、内容の奇抜さの方が重視される。しかし本書では、史料の扱いが非常に厳密なのだ。

 まず、実在する史料が随所に出てくるし、その史料の信頼性についても深く考察が行われる。このあたりは本書の重要な要素で、かなりページ数を割いて描かれる。それによって荒唐無稽さを極力そぎ落とそうとしているようにも思える。それだけに、終盤に現れてくる ”真実” に凄みが出てくるのだが・・・

 とは言っても、このあたりはいささか読むのが大変だ。返り点のない漢文(いわゆる白文)がたくさん出てきたりする。私自身、高校時代の古典の授業は苦痛でしかなかった(おいおい)ので、見るのも辛いページも少なくない(笑)。
 まあ、たいていその後には現代語訳が出てくるので、ストーリーの理解には困らないのだが。

 それを埋め合わせるわけではないだろうが、ラブストーリー成分がけっこう豊富だ。

 メインヒロイン(?)となる飯山香織嬢がとにかく素晴らしい。

 裕とは中学校時代の塾からの知り合いで、ともに成績上位クラスにいた仲だった。大学では図書館情報学を専攻し、来年には、狭き門を突破して正採用の司書となることが決まっている才媛でもある。
 その香織嬢、裕に再会した瞬間から、「懐かしさ」を超えた感情を発散させまくる。まあ有り体に言えば、裕に対する好意を隠さないのだけど、それが少しもあざとく感じられないのは、明朗快活に加えて素朴でサバサバした性格にあるのだろう。いささか粗忽なところもご愛敬だ。

 裕のほうも、数年ぶりに再会した香織が意外と美人になっていて戸惑う場面があったりと、お約束の展開である(笑)。二人のやりとりはまさにラブコメ全開で、彼女の登場するシーンは読んでいて自然と頬が緩んできてしまう。

 史料が連続する場面では、なかなか先へ読み進められないのだけど、香織さんが出てくると俄然ページをめくるスピードが上がるのだからたいしたもの。堅苦しい部分が少なくない本書を楽しく読めたのは、彼女の貢献が大きい。

 そしてもう一人、長谷川淳くん。裕&香織の雰囲気とは一転して、こちらはシリアスだ。
 本書の冒頭はまさにボーイ・ミーツ・ガール。レイア姫のホロ映像を見たルーク・スカイウォーカーの如く、淳は ”囚われの美少女” 救い出すべく、奔走(暴走)することになる。そのためにさまざまな困難や危機にぶち当たっていくのだが、そのあたりもページをめくらせる原動力になっている。


 作者は「図書館の魔女」シリーズで有名な人。巻末の解説では、このシリーズの新刊が予定されているとの情報も。
 そちらのほうも楽しみだけど、裕&香織のカップルにもまた会いたいなぁ。短編でもいいから、登場人物たちの後日談が読みたくなる。そんな作品でした。



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