びっくり箱殺人事件 [読書・ミステリ]
評価:★★★
横溝正史復刊シリーズの一冊。
表題作の長編に加え、短編を1作収録。
「びっくり箱殺人事件」
時代は終戦後間もない頃。レビュー劇団・梟(ふくろう)座の公演「パンドーラの匣(はこ)」で起こった事件を描いている。ちなみに金田一耕助は登場しない。
「レビュー」を検索すると、語源はフランス語の「revue」で意味は ”批評” だとのこと。言葉通り、本来は歌と踊りに時事風刺劇を組み合わせた舞台芸能を指すらしいのだけど、本書に登場する「レビュー」はかなり ”お色気” の方に重点を置いたもの。
元俳優で、人気作家でもある深山幽谷先生書き下ろし台本による「パンドーラの匣」。神話では、匣の中からはあらゆる災いが飛び出したとされるが、今回の舞台では、匣の中からは5人の怪人が飛び出すという趣向に。
『フランケンシュタイン』の人造人間、『ジキルとハイド』のハイド氏、『ノートルダムのせむし男』のカジモド、『カリガリ博士』の夢遊病患者、そしてなぜかキング・コングが(笑)。
しかし公演の7日目、怪人役の俳優が次々と何者かに殴られるという謎の事態が勃発する。
さらに、公演の最中に舞台上で殺人が実行されてしまう。匣を開くのは本来、パンドーラ役の女優・紅花子(くれない・はなこ)なのだが、その日の演出ではパンドーラの夫役が開くことになっていた。そして彼が匣を開けた瞬間、中から飛び出した短剣が彼の胸を貫いたのだ・・・
横溝正史と言えば伝奇・怪奇趣味な作風で有名だけど、本作はその辺は影を潜めていて、専ら喜劇調で進行する。
出てくるキャラクターの名も、作家兼俳優の深山幽谷をはじめ ”ショーグン” こと葦原小群(あしはら・しょうぐん)とか、”しばらく” こと柴田楽亭(しばた・らくてい)とか、半紙晩鐘(はんし・ばんしょう)とか、灰屋銅堂(はいや・どうどう)とか、顎十郎(あご・じゅうろう)とかふざけたものばかり。
殺人事件が起こったので当然ながら警察が登場する。やってきたのは皆さんおなじみの等々力警部。しかし金田一ものに登場する彼とは同一人物に見えないくらい、いささかエキセントリック。まあそのへんも楽しいといえば楽しいが。
コミカルな展開ながら、匣の中に短剣の仕掛けを取り付ける時間の各容疑者のアリバイとか、役者たちが次から次へと殴られまくった謎も合理的に説明されるなど、ミステリとしての構成はきっちりしている。
「蜃気楼島の情熱」
ひさびさにパトロンである久保銀造に会いにきた金田一耕助は、久保の知人・志賀泰三の住む瀬戸内の島に案内される。
志賀は久保とともにアメリカにいた頃、妻を殺されるという哀しい過去があった。帰国した彼は、本土から一里(約4キロ)ほど沖にある小島に、国籍不明で摩訶不思議な仕様の家を建て、新婚の若妻・静子とともに住んでいた。しかし金田一たちが志賀の家に宿泊した夜、静子の絞殺死体が発見される・・・
文庫で70ページほどなのだけど、ミステリ的に密度が高い作品。
メイントリックは海外の某有名作品でも似たものが使われてるけど、それよりも事件の全容に驚かされる。犯人の構築した計画の綿密さ、周到さ、そして凶悪さは異様だ。そしてそれを見抜く金田一耕助の推理も素晴らしい。
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