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早朝始発の殺風景 [読書・ミステリ]


早朝始発の殺風景 (集英社文庫)

早朝始発の殺風景 (集英社文庫)

  • 作者: 青崎有吾
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2022/03/03
評価:★★★★

 5つの短編を収録している。いわゆる ”日常の謎” 系ミステリなのだけど、本書の特徴としては、5つとも主要登場人物は高校生であること、冒頭から結末までがほぼ一つの場面だけで完結する(一幕物の舞台のように)ことが挙げられる。

 短編ごとに登場人物は異なり、ストーリーも独立しているが、各編は緩いつながりを持っている。
 同じ街を舞台にしていることと、季節が進行していくことだ。冒頭の「早朝始発の殺風景」が5月で、最後は「三月四日、午後二時半の密室」はその翌年の3月の話、つまりおよそ10ヶ月の間に起こった話ということになる。


「早朝始発の殺風景」
 始発電車に乗った高校生の加藤木は、そこにクラスメイトの女子を見つける。普段あまり話したことがなく、馴染みがない相手だ。ちなみに表題の ”殺風景” とは、彼女の名字(!)である。文庫の表紙がこのシーン。
 2人しかいない車内の中で、ぎこちなく会話を始める2人。話を続けていく中で、お互いに ”始発電車に乗っている理由” を探り始める・・・

「メロンソーダ・ファクトリー」
 仲良しの女子高生3人がファミレスで駄弁っている。文化祭のクラスTシャツのデザインを決めているのだが、語り手の女の子が作ったデザインに対して、なぜかもう一人の女の子が反対する。さらにもう一人の女の子が ”保留” を宣言したことで、議論が始まるのだが・・・

「夢の国には観覧車がない」
 3年生の引退を記念して、遊園地にやってきたフォークソング部の部員たち。語り手である3年生男子は、密かに想っている後輩女子と一緒に園内を廻ろうと狙っていたが、なぜか伊鳥という後輩男子と2人で観覧車に乗る羽目に。ゴンドラが一周する間に、伊鳥が語り出したこととは・・・
 内容には全く関係ないけど、タイトルについて作中で開陳される内容(TDLに観覧車がない理由)は、とっても納得できるもの。

「捨て猫と兄妹喧嘩」
 両親の離婚で、別居することになった兄妹。半年ぶりに妹から呼び出され、出向いた兄が見せられたのは、段ボール箱に入れて捨てられていた仔猫だった。
 何とか飼いたいという妹に対し、捨ててこいという兄。お互いの主張は平行線を続けていくのだが・・・

「三月四日、午後二時半の密室」
 高校の卒業式を終え、クラス委員の ”わたし” は、風邪で休んだクラスメイトの家に、卒業証書とアルバムを届けに来た。部屋に通された ”わたし” は、本当に彼女は風邪で休んだのろうかという疑問を抱くのだが・・・

「エピローグ」
 時期は春休みの終わり頃で、時系列的には最後。内容としては「早朝始発の殺風景」の後日談なのだけど、それ以外の作品のキャラたちも顔出しをしていて、さながらカーテンコール状態。各話の ”その後” がうかがい知れるようにもなっている。
 「早朝-」の中で回収されていなかった ”ある事態” にも決着がつき、加藤木と殺風景の関係も、新たな段階へと進む予感を示して終わる。


 各作品とも、文庫で約40ページとコンパクトながら、ほぼ会話のみで進行し、その中に今風の高校生らしい描写を織り込む。その底には彼ら彼女らが日常で感じる喜怒哀楽が潜んでいる。
 そしてラストでは意外な事実を明らかにして読者を驚かせる。どれも ”小説巧者” だなぁとる唸らされるものばかり。
 ミステリとしては表題作の「早朝-」がいちばんかと思うが、最後の「三月四日-」の読後感の素晴らしさは特筆に値するし、青春ミステリとしても強く印象に残る。作中の2人にとって、”卒業式のあった三月四日” は、忘れられない記憶となっただろうと思う。



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