狐火の辻 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
IQ208の天才少年棋士・牧場智久が登場するシリーズの一編。
序章では、3つのエピソードが語られる。
一つ目は、小学生の男の子が森の奥の洋館跡へ探検に出かける話。
そこではかつて子どもの死体が見つかり、しかもその右手首は切り落とされていたという。みなが怖がる中、反発した彼は勇気を奮って森に分け入っていくのだが、そこで全身黒詰めで鎌を持った ”何者か” に遭遇し、逃げ帰る。
二つ目は、土砂降りの雨の中での出来事。
激しい雨の中、徒歩で家路を急ぐ男の目前で、ひき逃げ事故が起こる。被害者は病院へ搬送されたが死亡してしまう。目撃者となった ”彼” は警察から執拗に事情を聴かれることに。しかし犯人は捕まらず、”彼” の心の中には、”あいつ” への怒りが渦巻き始める。
三つ目は、大学サークルのOB会での出来事。
会場となる温泉宿へ着いた彼女は、”元カレ” であるタカトを探し始める。しかし、探し当てたタカトは彼女の目の前で自動車にはねられてしまう。タカトを搬送する救急車に同乗して病院へ向かうが、タカトは幸い軽傷で済む。そこへ幹事の先輩が様子を見にくるが、一緒に来た旅館の仲居さんが病院の玄関でひどく驚いたような表情をみせる。何かを目にしたらしいのだが・・・
そしてこのような不思議な、あるいは意味がよく分からないエピソードはこれで終わらないのだ。本編が始まっても、同様なことがどんどん列挙されていく。
老齢の女性が運転する車が人をはねるが、その被害者が現場から消えてしまった話とか、タクシーが客を乗せるが、途中でその客が消えてしまうとかの怪談(都市伝説?)とか、ビルの屋上から何かを下に向けて投げる男の話とか・・・
一般的なミステリの定型なら、大きな事件がどーんと真ん中にあって、謎もそれを中心に散りばめられているのだけど、本書の場合は、細かい事件はたくさん起こっているが、中心になる事件が見当たらない。
だからといってそのままでは話が進まないので(笑)、それに首を突っ込んでいく者が登場する。小田原署の刑事・楢津木と、交通課の2人の警官だ。
この3人、集まった雑多な情報をもとに居酒屋でだべるのだけど、もちろんそれで真相に行き着くはずもない。そこで楢津木刑事の伝手を辿って牧場くんの出馬を乞う・・・という流れ。
とは言っても牧場くんも本職は囲碁の棋士で、対局が立て込んでたりして暇ではない。なので本書の中の登場シーンは少ない。電話を通しての ”出演” シーンも多い。売れっ子のタレントみたいである(笑)。
ミステリはよくジグソーパズルに例えられるが、本書の場合、巻末の解説でも触れられてるけど、ピースばっかり集まって一向に全体の絵が見えてこない。
読者は本書がミステリであることを知ってるから、これらのピースをつなぐ、一連のストーリーがあることを予想しながら読むのだけど、これがまあ見当がつかないのだなぁ。まさに「五里霧中」という言葉通りの心境を味わうことに。
もちろん終盤では、牧場君の推理でこれらがきれいに整理整頓され、並べ変えられていく。そうすると、一見何の関係もなさそうな断片が意外なところでつながって、見事な ”絵” が浮かび上がってくるのだからたいしたものだ。
あえて文句を言うなら、上にも書いたが牧場くんの出番が少ないこと。そして、そのガールフレンドの武藤類子嬢の出番が全くないこと。台詞の中での言及はあるけど、本人登場シーンはゼロだ。
まあ本書の構成上、彼女の役割が設定しにくい、というか、登場させないほうがまとまりがいいかな、というのはわかるんだけど、シリーズのファンとしてはちょっと寂しいなぁとも思う。次回はぜひガッツリ登場させてください。
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