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支那扇の女 [読書・ミステリ]


支那扇の女 (角川文庫)

支那扇の女 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 表題作の長編と短編一作を収録している。


「支那扇の女」

 昭和32年8月、東京は成城の街の早朝。

 近頃、盗難事件が頻発しているため住宅地を警邏中の木村巡査が見つけたのは、路地から飛び出してきた若い女。そのまま線路に飛び込んで鉄道自殺を遂げようとするのを、木村巡査は周囲の人の手を借りて何とか止めることに成功する。

 女は作家・朝井照三の妻、美奈子だった。彼女を朝井の家に連れ帰った木村巡査は、凄惨な光景に出くわしてくまう。
 一階の廊下には血溜まりの中に倒れた女の死体が、そして奥の離れの間には、額を柘榴のように割られた老婆が死んでいたのだ。
 廊下の女は朝井家で働く女中、老婆は朝井の先妻の母親で、どちらも朝井夫婦と同居していた。

 現場に駆けつけた金田一耕助と等々力警部は、凶器のまき割り(斧)が二階の廊下に放置されているのを発見する。二階には朝井の書斎と夫婦の寝室があった。

 そして2人は、寝室に奇妙な書物を見つける。『明治大正犯罪史』とあるその本の中に載っていたのは、かつて「毒殺魔」と呼ばれた子爵夫人・八木克子の記録だった。克子は美奈子にとって大伯母にあたり、彼女は自分の中に犯罪者の血が流れていると悩んでいて、そのために夜間に夢遊状態で彷徨うまでになっていたらしい。

 タイトルの「支那扇の女」とは、克子が不倫相手でもあった画家に描かせた肖像画のことで、ここに描かれた克子が美奈子と瓜二つだったという。

 しかも美奈子に対して『明治大正犯罪史』や「支那扇の女」を見せたのは、夫である照三であった。しかも、克子の夫だった子爵は、照三の大伯父だったのだという。彼は、わざわざ自分の妻である美奈子を精神的に追い詰めるようなことをしていたわけだ。
 警察の取り調べに対して、今回の殺人は外部の人間によるものだと主張する照三だったが・・・

 物語はこの後二転三転して、意外な結末を迎えるのだけど、70年前(明治20年頃)の因果が現在(昭和32年)の物語につながるなど、いかにも横溝正史の得意そうな設定。
 伝奇的な背景を持つ事件だけど、解決はあくまで合理的。まあ、そこで描かれる人間の情欲には常軌を逸したものがあるのだけど、そうでなければ殺人まで行き着くこともないだろうし。


「女の決闘」

 舞台は金田一耕助の事務所がある緑が丘町。
 近所に住むイギリス人のロビンソン夫妻が帰国することになり、住民たちによる ”さよならパーティー” が開催された。

 そこへ河崎泰子という若い女性が現れたことに、パーティーの参加者たちは戸惑う。なぜなら、そのパーティーには彼女の前夫が招待されていたからだ。

 その後、泰子の前夫である小説家の藤本哲也とその現在の妻・多美子が現れ、パーティーは進行していくのだが、そのさなか、多美子が突然倒れてしまう。
 呼ばれた医師の診察によると、原因はストリキニーネ(植物から得られる毒の一種)によるもの。多美子は辛うじて命を取り留めるが、やがて第二の事件が起こる・・・。

 文庫で70ページほどだけど、意外な展開を経て、毒を盛った方法も含めて納得のラストを迎える。
 終盤、金田一耕助が海外にいるロビンソン夫人との間に交わした往復書簡で真相が明かされるのもなかなかお洒落。



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