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夏への扉 (その2) [映画]

(「その1」より続く)

あんまり長文になったもんで、2回に分けた。

※前回も書いたけど、もう一度。
 以下の文章は、映画を観て思ったことを
 順不同に書いている。
 致命的なネタバレはしてないつもりだが、
 かなり内容に触れているので、これから映画を観ようという人は
 以下の駄文は読まないことを推奨する。

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写真は、この映画のパンフレット。
山崎賢人でも清原果耶でもなく猫のピートがメインビジュアル。
表紙もいいが、裏表紙がまさに「夏への扉」。
たしかに、「夏への扉」というタイトルは
”彼” の存在あればこそ、だものねぇ・・・

さて。

この映画において、原作との変更点は多々あるけれど、
最大のものは次の2つだろう。

人間型のアンドロイド ”ピート” が登場すること、
そして、ヒロインの年齢を11歳から17歳に引き上げたこと。

宗一郎と出会ったときから、ピートは作動がどこかしらおかしい。
やたら ”好奇心” が旺盛で、”感情” らしきものも垣間見え、
以後、宗一郎とずっと行動を共にすることになるる。

ピートの役割は様々だ。2025年世界の解説者であったり
人間離れ(?)した身体能力を発揮したりと大活躍。
宗一郎1人では困難なことも、彼の存在によって易々と進んだり。
彼にとっては、ドラえもんとT-800を足して2で割ったような
頼もしい相棒だ。しかも、宗一郎とのやりとりはコミカルで
しばしばクスリと笑わせてくれる。貴重なギャグメーカーでもある。

なぜ彼がそうなのかは作中では説明されない。
そこをあれこれ考えてみるのも楽しいだろう。
最後まで見終わってみると、彼の存在は
本作において最大のタイムパラドックスになっているのかも知れない。

そしてヒロインの璃子。

原作では11歳の ”女の子” だったが、
映画では17歳の高校生へと年齢が引き上げられ、制服姿で登場する。

原作のリッキーは、ともすれば ”男性にとっての願望充足キャラ”
として捉えられる面もあったと思う。
しかしそれでは、現代の映画では通用しないだろう。

制作陣は、この映画に登場する璃子さんについては
”一人の女性” としてきちんと描きたかった、ということだろう。

 ちなみに清原果耶さんは、本作の撮影開始時には17歳だったという。
 撮影中に18歳の誕生日を迎えたということなので、
 リアルに女子高生だったわけで、セーラー服が似合うのももっともだ。

そしてそれは、本作を21世紀に映像化するにあたっては
必須の要素だったのだろうと思う。

11歳のリッキーは、ダニエルにいろんな面で依存する
(依存せざるを得ない)少女だったが、
17歳の璃子は、宗一郎への想いは揺るがないものの、
自立した女性への道を、自分の足で歩んでいく人物として描かれていく。

リッキーは原作の終盤になってやっと登場するけれど、
璃子は映画の冒頭から登場、宗一郎が冷凍睡眠に放り込まれるまでの
サスペンスドラマ部分でも重要な役回りを果たす。

大幅に増えた出番の中で、彼女は常に自らの意思で行動し、
意思表示も明確だ。そして宗一郎への想いは一度も揺らぐことはない。

映画の中で、宗一郎は璃子を救うために過去へ戻るのだけど
彼女は守られるだけの存在ではないことが、しっかり描かれている。

それを示す一端となる(と私が勝手に想ってる)描写が、
映画の冒頭にある。
原作でのリッキーも利発そうな女の子だったが
璃子さんはそれを凌駕している。

映画の序盤、彼女が難しげな専門書を読むシーンがある。
いやいや、確かに賢そうなお嬢さんではあるが、これは単に
宗一郎に対して、ちょっと ”背伸び” をしてみせただけだろう・・・
なんて思ってたのだが、見終わってみるとこれも伏線だったようだ。

「ラスト、最高のサプライズが待っている」

映画のキャッチフレーズの一つなのだけど、
終盤で起こるイベント自体は、原作でも起こることだ。
異なるのは、そこに至る過程だろう。
同じイベントでも、描かれ方が違うと意味合いもまた変わってくる。
これもまた、璃子を「自立した女性」として描いてきた結果だ。

そして、ラストシーン。
ここで描かれる璃子さんが最高に美しい。

 「(映画は)主演女優が魅力的に撮れていれば、それだけでOK」
 ちょっと前に観た『映画大好きポンポさん』というアニメ映画の中で
 映画プロデューサー役のポンポさんが
 主人公に向けて、そんなことを語っていた。
 うろ覚えなので、細かいところは違ってるかも知れないが・・・
 このラストシーンを観ていて、上記の台詞が頭をよぎったよ。

清原果耶という女優さん、もともと綺麗なお嬢さんなのだけど
ラストシーンでの美しさはまた格別だ。

 見終わった後で、wikiで本作の企画のエピソードを読んで思った。
 「ひょっとして、小川Pはこのシーンが観たくて映画を作ったのでは?」
 そう思わせるくらい、素晴らしいシーンだ。

原作のリッキーと映画の璃子さんには、
イメージとしてかなりの差がある(というかほぼ別人)のだけど、
ここのラストシーンに至ると、
「ああ、私は確かに『夏への扉』を観ている」って思えたよ。

彼女をキャスティングしてくれた制作陣に拍手だ。

そしてここで流れる主題歌、LiSAの「サプライズ」がまたいい。
彼女が自ら書いたという歌詞が、宗一郎の心情に沿ったものになっていて
映画の終幕を大いに盛り上げてくれる。

1956年の原作に思い切った断捨離を敢行し、
2021年にふさわしい新たな要素を多く加えた作品でありながら
昭和生まれのオッサンである私でも、
「ああ、たしかに『夏への扉』だった」
って思える映画になっていたと思う。
私にとっては至福の2時間でした。

まだまだたくさん書けそうな気もするのだが
いい加減長くなってきたので、あと少しだけ。

主役2人以外の登場人物について。

宗一郎を陥れる松下和人。
演じる眞嶋秀和さんは、「麒麟がくる」に続いて
主人公を裏切る役どころになってしまいましたね(笑)。
和人は糖尿病を患っているという設定で、
初登場シーンではいきなりインスリンを射っていて驚いたんだけど、
これも伏線だったんですねぇ。

同じく宗一郎を裏切る悪女・鈴。
中盤での登場時は別の女優さんかと思ったんですが、まさかご本人?
特殊メイクならスゴいことで、それを演じた夏菜さんもまたスゴい。

田口トモロヲ演じるところの遠井教授は、
物語を一気に急加速させるキャラ。
彼の語るタイムパラドックスについては「?」が浮かぶのだけど、
教授の醸し出す、異様な ”ノリ” と ”勢い” で押し切られてしまう(笑)。

そして、原田泰造演じるところの佐藤太郎。
彼の異常なまでの有能さは、ある意味この映画一番のサプライズ(爆)。

その太郎の妻・みどりを演じる高梨臨さん。
『侍戦隊シンケンジャー』でシンケンピンクを演じてた頃から
大人っぽい雰囲気を醸し出してましたが、
今回では原田さんと ”いい夫婦” になってます。

原作もそうだったけど、善玉悪玉がはっきりしていて、
努力した者は報われ、悪巧みをした奴はきっちり制裁を受ける。
因果応報もまたエンタメの王道。

登場人物のネーミングについて。

原作での ”リッキー” は ”璃子” に、”ベル” は ”鈴” に、
物理学者 ”トウィッチェル教授” は ”遠井教授” に。

なるほどなぁと思ってたが、流石に
”サットン” 夫妻が ”佐藤” 夫妻、というのにはちょっと笑った。

じゃあ ”宗一郎” は?って、ちょっと考えたんだけど、
これはホンダの創業者・本田宗一郎から来ているんじゃないかな。
世界初の二足歩行ロボット・ASIMOを作ったのがホンダだったし。

ゴメンナサイ、あと一つだけ。

2025年に冷凍睡眠から目覚めた宗一郎が
病院から抜け出すシーンで、すれ違う人がみな彼に注目する。
特に、看護師と覚しきお嬢さんの「いかにも奇異なものを見ている」
みたいな視線が印象的だったのだが
その理由は映画の中では明かされなかった。

でも、映画を観た翌日になってから(えーっ)
「そうかあ、そうだったんだよねぇ」と膝を打った。
いやあ、アタマの回転が悪いにもほどがある。

これ以外にも、いろいろ仕込んでありそうだ。
機会があったら、もう一回見に行きたいと思ってる。

いやあ、まだまだ書けそうなだなあ(おいおい)。


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