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殺人者と恐喝者 [読書・ミステリ]


美貌の若妻ヴィッキー・フェインは、
ある日、自宅にある安楽椅子の隙間から
「ポリー」と縫い取りのあるハンカチを発見する。

時を同じくして、居候している叔父・ヒューバートが
彼女の夫・アーサーに示す態度が変わり始める。
部屋や食事の内容に注文をつけ、金の無心を重ねるようになったのだ。

ヒューバートを問い詰めたヴィッキーは驚きべき事実を知る。
アーサーが、愛人ポリー・アレンを自宅に呼び入れて殺害していたのだ。

内部にそんな葛藤を抱えながらも、フェイン家は
友人知人たちを招いて晩餐会を開くことになる。

招待されたのはヴィッキーの友人アン・ブラウニング。
精神分析医のリチャード・リッチ博士。そして
密かにヴィッキーに想いを寄せる工兵大尉フランク・シャープレス。

その席上、"催眠術の真贋" について
リッチ博士とフランクの間で口論が起こり、
その結果、翌日の夜にもう一度全員がフェイン家に集まり、
博士が「催眠術の実演」を行うことになった。

被術者(催眠術をかけられる相手)に選ばれたのはヴィッキー。
そしてその「実演」の最中、衝撃的な殺人が実行されてしまう・・・

折しも近隣の屋敷に滞在して、自叙伝の口述筆記をしていた
ヘンリ・メリヴェール卿が捜査に当たることになる。


正直言って、メインのトリックはダサい。
現代の目で見たら噴飯物かも知れない。
怒り出す人もいるかも知れない。
でも解説にもあるように、本作が発表されたのは80年近い昔。
当時としては充分に意外で斬新なトリックだったのだと思う。

しかし、本書のキモはここではない。
毎回書いてきてるけど、密室や不可能状況ばかり有名な作家さんで
本作も一種の "不可能犯罪" なんだが、それはあくまでも
犯人を隠すための一要素にしか過ぎない。

実際、カーの作品では
「容疑者は少ないのに犯人が最後まで分からない」
という展開が多い。

本書でもまた然り。最後に明かされる真相で
「えーっ、そうだったのか!」と気持ちよくだまされてしまうのだ。
トリックの問題なんか気にならなくなるくらい。

そのあたりの「テクニック」については、本書の解説で
麻耶雄嵩氏が詳細に書いてる。
流石に現役の本格推理作家さんだけあって
微に入り細を穿つように説明してくれる。

これを読むと、トリックもストーリーもラブロマンス要素も
全部ひっくるめて「犯人について読者をミスリードさせる」ために
存在しているのがよく分かる。

巻末の「解説」ってよくあるけど、
ここまでほんとに "解説" してくれた例は珍しいかも(笑)。

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