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図書館の魔女 烏の伝言 上下 [読書・ファンタジー]


長編ファンタジー『図書館の魔女』の続編だ。

多島海に面する王国「一の谷」。
前作の主人公である<図書館の魔女>ことマツリカと、
その側近くに使える少年・キリヒトの属する国でもある。
海を挟んだ西側には「アルデシュ」、北に位置する帝国「ニザマ」。

「ニザマ」帝国の宰相・ミツクビの暗躍により、
「アルデシュ」は「一の谷」領への侵攻を企てる。
さらにミツクビは「一の谷」内部の有力者たちにも切り崩しをかけ、
野望達成の障害となるマツリカを抹殺するための刺客まで放ってきた。

ミツクビの陰謀に対抗し、「一の谷」を守るべく奮闘する
マツリカたちを描いたのが前作だった。

本書の物語は、前作の終了からさほど間がない頃に始まる。

前作のラストに於いて、国を二分する混乱に陥った「ニザマ」帝国。
非主流派に転落した者たちは、続々と国外への脱出を始めていた。

高級官僚の姫君・ユシャッパも、そんな者たちの一人。
少人数の近衛隊に守られ、雇った剛力(ごうりき)たちと共に
尾根道を越えて港町・クヴァングヮンにたどり着いた。
ここから海路で国外へ脱出するはずだった。

密かに逃亡を支援している郭(くるわ)にたどり着いた一行だが、
そこはすでに裏切り者の巣と化していた。
近衛隊の多くは命を落とし、ユシャッパは囚われの身となってしまう。

港町・クヴァングヮンには無数の運河が張り巡らされ、
干満の差によって生じる暗渠はさながら迷路のよう。
そこを根城にして暮らすのは、戦火で親を失った孤児集団「鼠」。

辛うじて生き残った近衛兵たちは、「鼠」の力を借り、
剛力たちとともに姫の奪還を目指すが・・・


近衛兵、そして剛力たちをメインにストーリーが進む。
前作同様、多くの人物が登場するが
みんなしっかり書き分けられてキャラが立ってるのはたいしたもの。

この手の「囚われのお姫様救出もの」は、
そのお姫様に魅力がないと盛り上がらないのだけど
ユシャッパは堂々の合格点だろう。

年齢は明記されないのだけど、たぶんマツリカとあまり変わらない
10代後半くらいかと思われる。
心優しいけれど気丈で、教養にあふれ、聡明で機転が利く。
下賤のものとも分け隔てなく接するなど、好感度も抜群。

例えば剛力の一人・エゴンは、まともに言葉を発することができない。
そのため仲間と離れ、もっぱら烏とともに過ごしているのだが
ユシャッパはそんなエゴンにも興味を抱き、親愛の情を示す。
そしてそれが、後半になると重要な "伏線" となって生きてくるのだ。

物語自体も堅牢な作り。
郭を牛耳る "裏切り者" たちの行動に

不審な部分もあったりと、実はあちこちに
様々な "伏線" が仕込んであり、
下巻に入るとそれらが綺麗に "回収" される。
つまり、よくできたミステリ並みに "構成" が綿密に行われていて、
ストーリーが実によく計算されている。もう脱帽です。


『図書館の魔女』の続編のはずなのに、
いつまで経ってもマツリカもキリヒトも登場しないので
フラストレーションが溜まる人もいるだろう。私もそうだった(笑)。

もっとも、「あれ?このキャラはあの人じゃないの?」ってのが
一人だけ出てくるんだけどね、それもけっこう早い時期に。

マツリカさんの登場には、下巻まで待たなければならない。
前作の記事にも書いたけど、
「博覧強記だけど傲岸不遜で偏屈者のマツリカさん」は今作でも健在だ。
彼女の毒舌を聞いているとだんだん嬉しくなってくる(えーっ)www。
すっかりマツリカさんのファンになってたんだねえ、私。

前作では「一の谷」から始まり、舞台は「ニザマ」へ移り、
さらには西大陸の奥深くまで移動していくなど
空間的なスケールが大きかったんだけど
本作では、物語はほぼ港町・クヴァングヮン内でのみ進行する。
そして全体からすればマツリカさんの登場する割合はわずかなど
「本編の続き」というよりは「外伝」的意味あいが強いかな。

でも、次作では(たぶん)マツリカとキリヒトの話を
がっつり描くのだろうし、その背景となる
「ニザマ」の混乱の様子を描いておくという意味もあったのだろう。

そして本作での新登場キャラのうち、
何人かは次作以降にも出演するのではないかな。
個人的には、ユシャッパさんにはぜひ出ていただきたい(笑)。

そういう意味では、やっぱり読み逃してはいけない作品なのだろう。

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