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僕の光り輝く世界 [読書・ミステリ]


僕の光輝く世界 (講談社文庫)

僕の光輝く世界 (講談社文庫)

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

SF作家としては星雲賞も受賞しているベテランである山本弘。
今回はミステリだけれど、
特殊な設定を取り入れたなかなかユニークな作品になってる。。

「第一話 黄金仮面は笑う」
主人公のオタク少年・高根沢光輝(こうき)は、
進学先の高校でいじめに遭い、橋から突き落とされてしまう。
後頭部を負傷した彼は、"アントン症候群" を発症する。
これは、失明してしまったにもかかわらず、
本人には通常通りに外部が "見える" ように知覚される症状のこと。
つまり彼の "視野" に映ってる "世界" は、
彼の脳が "つくりだした" ものになってしまったのだ。


"アントン症候群" というのは実在するものらしい(wikiにも載ってる)。
実際の患者さんの症状が本書の通りなのかはちょっと分からないが。

しかし本書のキモは、光輝の一人称で語られることだろう。
つまり彼の語る内容は、彼の "視野" で知覚されたことなので
本当のところはわからない。実際は全く異なることもあり得る。

例えば、光輝は搬送された病院で神無月夕(かんなづき・ゆう)という
"美少女" と出会うが、彼女の容姿もまた彼の脳がつくりだしたもの。
彼女が本当に "美少女" なのかはわからないわけだ。

つまり、彼は故意にではなく「間違った事実」を
語ってしまうことがあるわけで、いわば
故意ではない "叙述トリック" が成立してしまうということになる。

もっとも、この事実は第一話の早い段階で明かされるし、
その後の展開でも彼が "自分に見える世界" と "現実の世界" の
ギャップに戸惑う姿が何度も描写される。

むしろこの落差によって起こるハプニングやコミカルなシーンも
本書の楽しみの一つだろう。このへんはSF作家の本領だ。

ミステリとして見た場合、
「語り」に描かれたことと「現実」とが異なる可能性があることは
冒頭から分かっていることなので、
それを頭の中において読んでいるんだけど、それにもかかわらす
最後にうまく引っかかってしまったりする。
うーん、流石は山本弘。

本書は非情に特殊な状況下での物語なのだが
特殊状況なりのルールがしっかりとあり、
そのルールに則って推理が展開され、解決に至る。
見ようによってはSFミステリの一種とも言えるだろう。


「第二話 少女は壁に消える」
夕とつきあい始めた光輝は、彼女を自宅に招く。
しかしそこへ突然光輝の姉が帰宅してきて・・・

「第三話 世界は夏の朝に終わる」
光輝の姉が高校時代の友人たちとの飲み会に出かけてしまった。
一人残った光輝だが、その夜に発生した大地震によって
姉が帰宅できなくなり、光輝はひとりぼっちになってしまうが・・・

「第四話 幽霊はわらべ歌をささやく」
光輝と組んで作家になりたいといいだした夕。
二人は伝手を辿り、同じ町内に住む
ミステリ作家・鰍沢将(かじかざわ・しょう)に会いに行く。
弟子入りをせがむ二人に鰍沢は条件を示す。
書きかけの小説『七地蔵島殺人事件』の原稿を見せ、
この小説の真相を当ててみろ、というのだが・・・
横溝正史ばりの世界が展開する作中作『七地蔵-』もお楽しみ。

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