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アケルダマ [読書・SF]


アケルダマ (新潮文庫)

アケルダマ (新潮文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

タイトルの「アケルダマ」とは、新約聖書によると
キリストを裏切ったユダが死んだ土地がそう呼ばれたとのことだ。

2年前に両親が離婚し、父親に引き取られた転昆巴(ころび・ともえ)。
牧師である父がN県にあるド田舎・織部村へ赴任するのに伴い、
現地の高校へ転校した。しかしその直後に父は急死してしまう。

寮で一人暮らしをすることになった巴は、
早く学校に馴染もうと生徒会へ入るのだが、
入会の手続きからして秘密結社への加入みたいに怪しげな雰囲気で、
やたら高圧的な会長と彼に絶対服従の役員たち、と胡散臭さがぷんぷん。

どうにも学校に居場所を見いだせない巴だが、
そんなある日、登校途中で沢田瞬(さわだ・しゅん)と再会する。
巴が転校前にいた学校の同級生で、いわゆるオカルトマニアだった。
彼の入手した昭和初期の古い研究誌に、
「キリストの墓がN県織部村にある」と記してあったという。

巴はしばしば夢の中で誰かの "声" を聞いていた。
そして、その "声" に従って生徒会からの命令を破った時、
巨大蝙蝠などの "怪物" が襲いかかってきた。

そして巴は "声" の正体を知る。
"声" の主はなんと2000年前に死んだはずの「ユダ」だという。
つまり彼女は「ユダ」の魂だか霊だかを憑依させることができるのだ。

「ユダ」によると、彼以外の使徒達はみな "生きて" いて
日本に眠る「キリスト」の "復活" を画策している。
そして「キリスト」が甦ったとき、世界は地獄に変わるという・・・


そして巴は、"ユダ" そして瞬を協力者に得て、
使徒達の陰謀に立ち向かっていく、というお約束の展開。

その使徒達というのがまさに「これぞ秘密結社」という典型。
そしてキリストの「墓地」がある織部村、
その現地における下僕である生徒会役員たちは
ほとんどショッカー戦闘員みたいな扱いである(笑)。

多彩なキャラが登場するが、ピカイチは巴の母・エチだろう。
自由奔放で男好き、家庭を飛び出して東京でスナックを開く。
それでいて沖縄拳法の達人、という
なんだかよくわからないけど凄い人(笑)。

巴もその薫陶よろしく腕に覚えがある身なわけで、
守られるだけの凡百のヒロインとはひと味違う。
まあ田中啓文の作品にまともな主人公が登場するはずもないか(笑)。

沢田瞬の父も、エチに負けないくらい凄い人なんだけど
これは終盤の展開に関わるのでここには書かない。

ストーリーだけ見れば直球ど真ん中、堂々の伝奇小説なんだが
読んでてなぜか笑いが出てくるのも、この作者ならでは(褒めてます)。

巴と瞬が恋仲になりそうでならないのも、それはそれで楽しい(えーっ)。

文庫で700ページの大長編なんだが、途中でダレることもなく、
最後までサクサク読める。リーダビリティも抜群。
作者と波長が合う人なら、楽しい読書の時間が過ごせるだろう。

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