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セーラー服と黙示録 [読書・ミステリ]


セーラー服と黙示録 (角川文庫)

セーラー服と黙示録 (角川文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/09/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

物語が展開される聖アリスガワ女学校は、
三河湾に浮かぶ孤島に建設されたカトリック系の女子高校だ。

本書は同じ作者の『天帝』シリーズなどと同じ
いわゆるパラレルワールドの日本を舞台とする。

実際、登場人物の一人である古野みづきは
『天帝』シリーズの主人公・古野まほろの妹である。

しかし聖アリスガワ女学校の実体は、普通の学校ではない。
なんと探偵養成学校なのだ。
この世界には『探偵士』という国家資格があり、
最高学府には「探偵学部」なんてものまで存在するのだから。

だからこの学校は、通常の授業科目以外に宗教系の科目はもちろん
探偵に必要な素養を学ぶ科目も多々設定されているのだ。

文部科学省から怒られないのかと思いきや、
なんとこの学校はヴァチカン市国が直々に設立したもので
なんと学園のある島は事実上の治外法権になっているという
トンデモナイ設定になってる(笑)。

なんでヴァチカンが探偵養成?と思うかも知れないが
実は学園設立の裏にはある目的があるのだ・・・


物語の語り手は高校2年生の島津今日子。
島津公爵家一族の端くれに連なる身である。
今日子の友人として登場する葉月茉莉衣、
そして古野みづきを加えた3人が探偵役となる。

時は12月、クリスマスを前に定期試験(3年生にとっては卒業試験)が
終わり、その結果が発表される。

そして、3年生の試験結果に今日子たちは驚く。
今まで常にトップを独走してきた三枝美保が二位になり、
万年二位だった紙谷伸子が首位を奪ったのだ。

そして美保と伸子は、上位二人だけに与えられる
「特別試験」に臨むことになるのだが、
その試験の最中、二人は密室状態下で殺害されてしまう・・・


文庫で330ページほどの作品なんだが
死体発見が200ページほど進んだあたりとかなり遅い。
それは、上にも書いたが学校の置かれた状況があまりにも特殊で、
しかもカリキュラムも特殊、当然教員も特殊、試験内容も特殊。
でてくるキャラクターもまた特殊な人たちばかりなので
そのあたりを説明したり紹介したりしているうちに
これくらい経ってしまうのだ(笑)。

もっともそこは達者な作者なので、
殺人に至るまでの部分も飽きさせることなく、面白く読ませるが。

事件が発生してからは、なぜか今日子たち3人が
謎解きをする羽目になるのだが
今日子は<フーダニット>、茉莉衣は<ホワイダニット>、
そしてみづきは<ハウダニット>と、それぞれ得意分野を持ち、
分担して真相に迫っていく過程も面白い。


しかしラストで明かされる真相は・・・。
たいていの人は「いくらなんでもこれはないだろう」
って思うだろうなあ・・・。

ただまあ、あまり腹が立たないのは不思議だが、
そこに至るまでの状況が特殊すぎて
感覚がおかしくなっていたからかも知れない(笑)。


このシリーズ、こんなふうなのが続くのなら困るなあ
・・・って思ったんだが、第2作を読んだら少し評価が変わった。

第2作は「ぐるりよざ殺人事件」といって
なんと文庫で700ページ近い大作。
この作品は、本作に輪をかけて特殊な状況下で事件が起こるんだが
その背後には、本作で登場した設定が大きなウエイトを占めている。

つまり、第1作である本書は「シリーズ全体の設定を説明する」のが
最大の目的なのかも知れないのだ。

「ぐるりよざ殺人事件」を第1作にすると、設定説明を含めて
1000ページくらいになってしまうからね(笑)。

それを回避するために、設定説明の部分を分離し、
作品として形にするために新たに殺人事件を付け加えて
一本の長編に仕上げたんじゃないか、って勝手に思っている。

そして、あまりにも "意外" な真相を提示することで
このシリーズが "普通のミステリ" ではない、ってことを
読者に印象づけているのではないかな。

そして「ぐるりよざ殺人事件」は、
それだけのことをするに値する出来になっていると思う。
こちらもそのうち記事に書く予定。

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