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時をとめた少女 [読書・SF]


時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・F・ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

SFラブストーリーの達人ヤング。
日本独自編集による4冊目の短編集とのことだ。

本国アメリカではさほど評価されていない人のようだけど
日本には根強いファンがいる。私もその一人。

「わが愛はひとつ」
主人公フィリップは、出版した論文が原因で
いわれなき罪に問われ、100年間の人工冬眠刑に処せられる。
刑期を終え、目覚めた彼は100年後の世界で自らの故郷に向かう。
そこは、かつて最愛の妻ミランダと共に暮らした思い出の地だった・・・
"時を超える愛" を描かせたら右に出る者はないヤングの本領発揮。
SFを読み慣れた人ならオチは見当がついてしまうだろうし、
そしてベタなラストだけど、私は好きだよ、この結末。
本書の中でいちばん "ヤングらしさ" が味わえる一編。
私のイチオシである。

「妖精の棲む樹」
創元SF文庫のアンソロジーで既読。
鯨座オミクロン星で、植民者のために
樹木の伐採に従事する青年・ストロング。
1000フィートを越える巨樹に登りはじめた彼は
枝の上で"樹の精"を見つける。それは女性の姿をしていた・・・
開発と自然保護の相剋を描いて、皮肉なエンディングを迎える。

「時をとめた少女」
6月の朝、ロジャーは公園で赤いドレスのベッキーに出会う。
たちまちロジャーは彼女の虜となってしまう。
そして翌朝、今度は青いドレスのアレインと出会う。
彼女は、なぜかロジャーにデートに誘ってほしいと訴えるが・・・
二人の女性から取り合いになってしまうロジャーだが、
後手に回ったアレインが繰り出す逆転の秘策がスゴイ。

「花崗岩の女神」
乙女座アルファ星第4惑星に残された巨大な彫刻。
横たわった女性をかたどり、乳房部分は標高5000mを越える。
主人公マーテンはこの"乙女"の山脈を伝って登攀を続ける。
自分の人生を振り返りながら、そして母のことを想い出しながら。
全長数十kmに及ぶ "女体山"(文字通り)という
途方もないイメージは素直に凄いと思うが
ストーリー的には淡々と進むので今ひとつ物足りないかなあ。

「真鍮の都」
これも創元SF文庫のアンソロジーで既読。
歴史上の人物をさらってきてコピーロボットを作り、
本人は元の時代に帰す仕事をしているマーカス。
今回の仕事はシェヘラザードをさらってくるはずだったのだが・・・
これは後に長編化され、『宰相の二番目の娘』として邦訳も出てる。
ヒロインのカワイさが倍増してるこの長編版のほうがオススメ。
ブログの記事にも書いたので探してみて下さい(笑)。

「赤い小さな学校」
管理化された社会を描いたいわゆるディストピア小説。
舞台が都会でなく田舎なのも珍しいかな。
光瀬龍や眉村卓が書くジュブナイル的な雰囲気もあるけど
最後まで読むと、「少年ドラマシリーズ」(←知ってる人いるかなぁ)
の原作にはなれないのがわかる。

「約束の惑星」
国ごとに惑星を割り当てられるという移民計画が行われた。
しかし主人公レストンが操縦するポーランド人の移民船は
目的地ではない星へ不時着してしまう。
ポーランド人たちはその星で生活をはじめるが
ただ一人、レストンだけが異邦人であった。
それ以来、文化や習慣の壁に阻まれて孤独に暮らしてきた彼だが
40年の歳月の後、自らの人生の意味を見いだそうとしていた・・・
レストンの置かれた環境はあまりにも過酷だ。
長い年月を経て、本人は自分の葛藤に決着をつけたようだが
私だったら耐えられないだろうなあ。
本人は満足かもしれんが、あまりにも切なすぎ、
そして救いがなさ過ぎないか、この結末。

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