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バチカン奇跡調査官 独房の探偵 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官  独房の探偵 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 独房の探偵 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/06/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描く第11弾。
シリーズでは2冊目の短編集になる。

「シンフォニア 天使の囁き」
文庫で100ページ弱と、かなりのボリュームの短編。
平賀の弟・良太は悪性骨肉腫と診断され、
余命は二年あまりと告げられる。
諦めきれない家族は、良太を小児がん治療に実績のある
ドイツのバーデン病院に入院させる。
一緒に闘病を続けている子どもたちを "見送る" ことが続き、
死者のために祈り続ける良太は、
病院の図書室で一冊のノートを見つけるが・・・
基本はホラーなんだが、今回はちょっとした "因縁" が描かれる。
既刊の短編集を読んでないとわかりづらいかと思うけど
逆に、読んでいると早々とネタが割れてしまうかも知れない。
でもまあそれも、作者の想定内かな。
とは言っても、子どもが苦しむ話は辛いなあ。

「ペテロの椅子 天国の鍵」
『終末の聖母』事件の冒頭、法王が異例の "辞任" をした。
表向きはバチカン銀行を巡るスキャンダルによる引責だったが
本作ではその "真相" が語られる。
平賀とロベルトの上司であるサウロ大司教が登場。
法王は、唯一人心を許せる存在としてサウロを選び、
苦悩する心情を語るが、サウロは驚くべき事実を明かす・・・

「魔女のスープ」
1700年に行われた魔女裁判の記録を分析していたロベルトは、
"魔女のスープ" なるもののレシピを発見する。
これは一体如何なるものなのか。
"スープ" の謎を解明することを思い立ったロベルトは
魔女の住居があったサンマリノ共和国の村へと向かう。
しかしそこにはエリーナという変わり者の作家が住んでおり、
ロベルトは彼女とともにレシピの再現を始める。やがて平賀も合流し
三人で完成させた "スープ" の試飲が始まるが・・・
ホラーのはずなのにやや脱力系のオチが楽しい一編。

「独房の探偵」
文庫で130ページと、本書中で最長を誇る中編。
天才的な頭脳を持つ犯罪者、ローレン・ディルーカは
刑務所内の特殊房に収監されていた。
ある日、彼のもとを一人の男が訪れる。彼の名はアメデオ。
国家治安警察特捜部の人間で、密かにローレンの力を借りて、
過去にいくつもの難事件を解決していた。
今回彼が持ち込んだのは、幽霊屋敷と呼ばれる建物内で起こった密室殺人。
捜査へ協力する条件としてローレンが示したのは
精神病棟に入院している女性・フィオナを捜査に加えること。

彼女はかつてプロファイラーとして活躍していた。
独房の "探偵" と、心を病む "助手" という
異色すぎるチームが難事件に挑む。
とは言っても、ローレンは刑務所の外でいくつもの企業を経営し
自由に動かせる人材も資源も豊富に持っているという
およそ "安楽椅子探偵" とはほど遠い存在だが。
しかし、最終的にローレン自身は独房から一歩も出ずに
事件を解決してしまうのだからたいしたものだ。
暴露される真相も充分に意外なもので、
本格ミステリとしてもよくできてる。

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『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第三章 純愛編 「君、ヒトヒラ」PV [アニメーション]


先行上映会の直後あたりかな、公式サイトとYouTubeに上がりました。

時折一時停止してじっくり見ながら
今回は台詞を全部書き出すぞ・・・なんて思ってたんですが
途中で挫けました。

いやあ、書いてみて思ったけど大帝陛下のしゃべることしゃべること。
他のキャラの台詞もけっこうあって
なんかもう書くのがたいへんで途中であきらめました(←根性なし)。




・「奪い、憎み、殺し合う・・・」この台詞、
 最初は大帝がしゃべってるのかと思ったけど、何回か聞いている内に
 レドラウズ教授役の土師孝也さんの声に聞こえてきた。違うかな?
・そして、ヤマトのクルーたちが次々と登場。
 「永遠に」コスチュームの雪さんも。
 続いてガトランティスの方々が。そして古代。
・「お前は誰だ!」「わが名はズォーダー。愛を知る者だ」
 大帝の顔がなんだか典型的な悪人顔になってますねぇ。
 ちょっと下品な気がするのは私だけ?
 もっと風格のある顔をしていてほしいなあと個人的には思いました。
・「急速上昇!ヤマトはこれより囮になる!」指揮を執る土方さん。
 いい声です。「2199」の時から土方さんを出しておいて正解でしたね。
 まあ、あの頃はここまで来るとは思いも寄りませんでしたが。
・あの武器の名前は「レギオネル・カノーネ」でいいんですよね?
・レドラウズ教授の顔に手が。桂木さんでしょうかね。
・ひざまずくガミラス士官。相手は誰? もしかして総統閣下?
・赤いゼルグート級。主砲を撃つヤマト。
・「なんでヤマトは撃たねえんだよ、波動砲を!」激高する斉藤。
 まあ当然の疑問ですね。
・惑星間弾道弾の着弾です。地表は火の海に。
 「2199」でもガミラスに逆らった星に落としてました。
 思えばこれ、地球にも落ちるところだったんですよねえ。
 寸前でヤマトが破壊しましたけど。
・「奴は撃たない。撃てるのに撃たんのだ」大帝陛下の断定。
・赤いゼルグートに率いられたガミラス艦隊のミサイル一斉発射。
 そのミサイルが向かう先には、橋みたいな構造物が
 見える気がするんだけど・・・
・アタッシュケースみたいなものの中にあるのは何?
 2つ見えるんだけど。
 左はオカリナみたいで右はナイフのようなランプのような。
・地表から土砂が舞い上がっていきます。
 6話のラストで地中に埋まったヤマトの脱出シーンかな?
・両弦からミサイルを斉射するヤマト。ここは何回見てもカッコいい。
・「見せてやろう。お前の愛が何を救い、何を殺すのか」
 「さらば」の大帝は終盤になって大演説をぶっていましたが
 こちらの大帝は序盤からとにかくよく喋ります。
 そして高笑いに重なって白色彗星の姿が。
 そういえば今作では「白色彗星」って単語、一度も出てきてませんね。
 使わないつもりなのか、これから出てくるのか。
・スターシャと沖田の言葉がこだまし、叫ぶ古代。
 「覚悟って何なんですか!?」
 それはもちろん、クルーの命を預かる覚悟だし、
 そのために波動砲の引き金を引く覚悟だし、
 その結果に責任をとる覚悟なんでしょうね。
 沖田が背負ってきたものを、
 古代もまた背負う決意が描かれるのでしょう。
・ここで第三章ED「君、ヒトヒラ」が始まります。
・異様な形の惑星に接近するヤマト。第10話の舞台?
・振り向く雪。「もう限界かなって」
 「古代さんが?ですか」この台詞は山本?
・「素直になれって」島のグーパンチで気合い注入?
・「恐かったんだ。危険な航海に巻き込んで、君を失うことが」
 古代の正直な心情なのでしょうが、
 雪はそれを良しとしなかったのでしょう。
 雪の着ているのはガミラスの船外服かな?  風に髪がなびきます。
・年配のガミラス人が持っているのは、
 反射衛星砲のトリガーに似てますね。何かを発射するのでしょうか。
・惑星間弾道弾の着弾を地表から見た光景ですかね。
 「2199」にもこんなシーンがあったなあ。
・宇宙に浮かぶテレサ。お約束のシーンとはいえ、
 ちょっと巨大すぎませんかね(笑)。
・涙を流す古代。「2199」では最終話まで泣かなかったんだけど。
・まさかのアニキ登場!
・レドラウズ教授どうしたんですか。悪魔に取り憑かれたみたいですよ。
・目覚める雪。古代の腕の中でしょうか。
・至近距離での爆発を横に見つつ進むガミラス艦。
・雪のアップ、そして爆発する地表?
・南部の「てー!」、同時に魚雷・主砲・副砲を撃ちまくるヤマト。
・「お前の船のしてきたことだ、古代進」またまた大帝陛下。
・「いや、古代は撃つ!」土方さん。
・「ヤマトが・・・撃つ」桂木さん。
・「古代!撃て!波動砲を!」斉藤。
・ゼルグートと接触するヤマト。
 もうヤマトの得意技になりましたね(えーっ)www
・「古代くん(に)選ばせない」(に)が聞こえるような聞こえないような。
・「俺は、選ばない! ゆきィィー!」久しぶりの「ゆきィ」ですね
・そして雪を抱く古代。場所はどこでしょうか。
 最初はコクピットの中かと思ったのだけど違うような・・・
・波動砲のターゲットスコープが!  保護ゴーグルをした古代。
・「沖田、借りるぞ」やっぱこの台詞は外せないでしょうねぇ。
・波動砲を撃つヤマト。そしてその周囲にはアステロイドリングが?

毎度のことですが、情報量が多くて
しかも時間軸を含めてシャッフルされてるので
どこがどうつながるのか皆目見当がつきません。
まあ、予告編というのはそういうものなのでしょう。

先行上映で見た人は、このPVを見て
アレがこうなって・・・って全部分かるんでしょうねえ。
うらやましい限り。

第四章以降で参加できたらいいなあ・・・と日記には書いておこう(笑)。


さて、今回主題歌「君、ヒトヒラ」を歌われる
"ありましの" さんって、寡聞にして知らなかったんですが
PVで聞いてみると綺麗な声の方ですね。
wikiでみたら、鹿児島出身のシンガーソングライターで、
この歌の作詞もされているらしい。

映画館に行けばフルコーラス聴けるんですね。
これも楽しみになりました。

ああ、あと2週間かあ・・・

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荒神 [読書・ファンタジー]


荒神 (新潮文庫)

荒神 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「ソロモンの偽証」以来、久々の宮部みゆき。

本書は "怪獣が出てくるスゴい時代小説" だという噂を聞いたので
怪獣好きの私としても放っとけない。
というわけで読んでみた次第。
ちなみにタイトルは「こうじん」と読むそうです。


時は元禄。東北の二つの小藩が舞台となる。

香山(こうやま)藩と永津野藩は、関ヶ原の昔からいがみ合う仲であった。
もともとは永津野藩の家老の一人、瓜生氏が独立したのが香山藩だが
それを認めない永津野藩主・竜崎氏は香山藩の併合を狙っていた。

その永津野藩に曽谷弾正という男が現れる。
彼は藩主・竜崎高持に気に入られ、
藩政改革で成功を収めて、たちまち藩主側近筆頭まで上り詰める。

やがて故郷から妹・朱音(あかね)を呼び寄せたが、
彼女は城下の屋敷住まいを嫌がり、
香山藩との境界近くの集落に居を構えた。

そんなある日、朱音は瀕死の状態の少年・蓑吉を保護する。
意識を取り戻した蓑吉が語ったのは、恐るべき変事だった・・・


この物語における "人間側の主役" は朱音だろう。
人間のドラマも、"怪獣" を巡るストーリーも、
最終的には朱音に集約されていく。


"謎の巨大生物" が現れ、破壊の限りを尽くすのが
メインストーリーとなれば、もうこれは怪獣ものの王道パターン。
それも『ゴジラ』がモチーフとなっている。

主要登場人物の一人である曽谷弾正が、
隻眼で眼帯をつけているところなど
『ゴジラ』に登場した科学者・芹沢博士への
オマージュ以外の何物でもないだろう。

もっとも、その役回りは芹沢とはかなり異なる。
"怪獣" を "葬る" のに大きく関わるのは同じなのだが・・・

その "怪獣" だが、通常の生物ではないことがだんだん分かってくる。
どちらかというと "妖怪" に近い存在かと思う。
終盤でその出自が明らかになるのだが、読者はちょっと驚くだろう。

"怪獣" の出現の背後には凄まじい "人間の業" があり、
そういう意味では『大魔神』にも通じる雰囲気もある。


メインとなる怪獣譚とともに、サイドストーリーも同時並行して語られる。

香山藩側のメインキャラとなるのは、藩主の小姓・小日向直弥。
長い病気療養から復帰した直弥は、
永津野藩との境で起きた "変事" の真相を探るべく現地へ向かう。

その香山藩では、藩主の世継ぎが病に伏すが、
そこには何者かによる陰謀の存在が疑われる。

 このあたりはミステリ的な "絵解き" も最後に示される。
 さすがは宮部みゆきと言うべきか。
 これだけでも短編が一本書けそうなネタが投入されている。

永津野藩では、弾正が壮大な野心を内に秘めて画策を続ける。


複数のストーリーラインに伴い、多彩なキャラが登場する。
朱音を支える浪人・榊田宗栄(さかきだ・そうえい)、
相模藩の絵師にして諸国放浪中の菊地圓秀(きくち・えんしゅう)、
直弥の親友・志野達之助、その父・兵庫之介、
志野家に仕える従者・やじは、何やら事情を秘めた様子。

冒頭に登場人物の一覧表があるのだけど、
けっこう登場シーンが多くて台詞もあるキャラが載ってなかったりする。

特に、物語上重要と思われるキャラが2名ほど載っていない。
これは入れ忘れたのではなく、故意に載せていないのだろう。
(だからここにも書かない。)

どんなキャラが出てくるのかは読んでのお楽しみだ。


"怪獣" の猛威の前に、人間たちはあまりにも無力だ。
そんな人間たちの愛憎のドラマをも呑み込んで、
"怪獣" は人間たちの営みを蹂躙していく。

そして "怪獣" の出自が明らかになったとき、
同時にそれを "葬る" 策もまた、もたらされる。
その方法とは・・・

しかし、このエンディングはなあ・・・
ちょっと××い結末なので、本体なら星4つなんだけど
星半分減点してしまいました。

いや、「素晴らしいラストだ」って思う人の方が多いと思うよ。
それは分かってるんだ。
でも、私の好みとは微妙に異なるんだなぁ。


この小説は、NHKでドラマ化されて
来年1~2月頃にBSで単発ドラマとして放送されるとのこと。
ちなみに放送時間は100分。うーん、ちょっと短いかな。
枝葉のエピソードがばっさりとカットされそう。

NHKのホームページで、現在までに判明している配役は以下の通り。

朱音:内田有紀
曽谷弾正:平岳大
榊田宗栄:平岡祐太
菊地圓秀:柳沢慎吾

この4人に関しては、けっこうイメージはあってるように思う。

特に平岳大さんは、最近ますますお父さんの平幹二朗に似てきて、
(本人は嫌がるかも知れないけど)いい雰囲気。

"人間の業" の化身のような、
野心たっぷりの弾正を見せてくれそうだ。

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本ブログは情報統制状態へ移行します [このブログについて]


今日は
「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第三章 純愛編」
の先行上映会でした。
いよいよ、公開に向けてもろもろの情報公開が始まりました。

それに伴い、本ブログは本日9月27日をもって
情報統制状態へ移行します。

「第三章」が公開される10月14日までの二週間あまり、
ネットサーフィンも自粛し、本ブログのヤマト関係の記事に
寄せられるコメントにも目を通しません。

 本日以降、書き込まれても
 お返事するのは10月14日以降になります。
 予めお詫びしておきます。
 申し訳ありません(ぺこり) m(_ _)m。

なるべく予備知識や先入観無しで本編を見たいと思っていますので。
ですから、「冒頭○○分公開」とかもたぶん見ないでしょう。

公式サイトは時々のぞきに行くとは思いますが。

公式サイトと言えば、「第三章」の新PVが公開されていますが
明後日(29日)に、これについての記事を載せる予定です。

 たぶんこれが「第三章」公開前における
 最後のヤマト関係の記事になると思います

ただ、これについても "情報統制中" ですので
コメント等を頂いてもお返事は10/14以降になりますので
ご了承ください。


なお、読書感想録の記事は、通常通りアップを続ける予定です。
ヤマト関係の記事、コメントのお返事等は
10月14日以降までお待ち下さい。

どうぞよろしくお願いいたします。

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鹿の王 全4巻 [読書・ファンタジー]


広大な平原地帯にあったアカファ王国は、
東の大国・東乎琉(ツオル)の侵攻を受けた。

東乎琉の強大さを知るアカファ王は
あっさりと降伏し、恭順の意を表したが
最後まで抵抗を続ける者もいた。

"独角"(どっかく)と呼ばれる戦士団の長にして
"欠け角のヴァン" の二つ名で知られる男もまた
最後の一人になるまで戦い続けたが、衆寡敵せず
捕らえられて奴隷となり、アカファの岩塩坑の奥底に囚われていた。

妻も子も故郷も仲間も失い、絶望に沈んでいたヴァンだが、
ある夜を境に運命が変転していく。

不気味な犬の群れが岩塩坑を襲い、
それに噛まれた者たちの間に謎の病が発生したのだ。

看守・囚人を問わず、発病した者がことごとく死に絶える中、
ヴァンと、奴隷女の生んだ女児の二人のみが生き延びる。
彼はその幼子をユナと名づけ、ともに岩塩坑を脱走する。

かつて平原地帯に栄えたオタワル王国は、
伝染病によって多数の人民を失い、国勢の衰えを悟ると
アカファ人に王国の統治権を譲り、
その中枢だった貴人たちは険しい山々に囲まれた盆地に
"オタワル聖領" を築いて移り住んだ。
そしてそこで古より伝わる医学・工学などの技術を磨き、
深めることに専念することにしたのだ。

 読んでいて、このへんはアシモフの
 「ファウンデーション」を連想したよ。

そのレベルの高さに東乎琉帝国も利用価値を認め、
"聖領" はその存続を容認されていた。

その "オタワル聖領" でも「天才的な医術師」と目されるホッサル。
彼は謎の病で全滅した岩塩坑を調査し、遺体の状況から
250年前に故国を滅亡へ導いた伝説の病 "黒狼熱"(ミッツァル)が
再び現れたことに気づく。

さらに彼は、病から生き残った者がいたことを知り、
その後を追い始める。
その男の体を調べれば、病に対抗する方法が見つかるのではないか。
そう考えたからだ。

物語は、ユナと二人で安住の地を探すヴァンと、
彼らを追うオタワル医師ホッサル、
それぞれのパートを交互に描きながら進行する。

オタワルの最新医術を受け入れようとしない旧弊な東乎琉の祭司医たち、
それに苦慮するオタワル医師たち。
その中心になるのはホッサルの祖父にして高名な医術師リムエッル。

平原の北辺にあるオキ地方に暮らし、
そこでヴァンたちを受け入れる青年トマとその家族たち、
烏に魂を乗せて飛ぶことができる古老にして
<谺主>(こだまぬし)と呼ばれるスオッルなど
多彩なキャラクターが登場する。

東乎琉に忠誠を誓い、その後は
世捨て人のように暮らしているアカファ王だが、
その実けっこうしたたかに生きてるところとか、キャラの深みも充分。

そして、命令によってヴァンを追跡するうちに
次第に彼に思いを寄せるようになる<後追い狩人>のサエ、
ホッサルの助手にして実質的な妻であるミラルなど女性陣も魅力的。

やがて、"黒狼熱復活" は単なる自然現象ではなく、
その陰には、様々な勢力の陰謀・思惑・怨嗟などが
複雑に絡み合っていることが明らかになり
それに巻き込まれたヴァンとユナは、
長い長い苦難の道を歩んでいくことになる。

ファンタジーではあるけれど、医学的な描写はかなり現実に即している。
"黒狼熱復活" に至るくだりもそうだし、
いわゆる "免疫" とか "抗体" という概念に
ホッサルたちが到達していく過程も描かれる。
ちょっと進歩が早すぎる気もしなくもないが(笑)

タイトルにある「鹿の王」という言葉は
物語の途中でも何回か出てくるのだけど、
その本当の意味は最終巻の最終章で明らかになる。
そこでヴァンは、愛する者たちが平穏に暮らせる世界を取り戻すため、
ある決断を下すことになる。

それについて詳しく書くとネタバレになるのでここでは触れないけど
そのシーンを読んでいたら、涙があふれ出てきて、
文字が追えなくなってしまったことを告白しておこう。

とは言っても、決して悲しい話ではない。

これは、一度はあらゆるものすべてを失ってしまった男が
再び故郷を、仲間を、
そして家族を取り戻すまでを描いた物語なのだから。

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殺人者と恐喝者 [読書・ミステリ]


美貌の若妻ヴィッキー・フェインは、
ある日、自宅にある安楽椅子の隙間から
「ポリー」と縫い取りのあるハンカチを発見する。

時を同じくして、居候している叔父・ヒューバートが
彼女の夫・アーサーに示す態度が変わり始める。
部屋や食事の内容に注文をつけ、金の無心を重ねるようになったのだ。

ヒューバートを問い詰めたヴィッキーは驚きべき事実を知る。
アーサーが、愛人ポリー・アレンを自宅に呼び入れて殺害していたのだ。

内部にそんな葛藤を抱えながらも、フェイン家は
友人知人たちを招いて晩餐会を開くことになる。

招待されたのはヴィッキーの友人アン・ブラウニング。
精神分析医のリチャード・リッチ博士。そして
密かにヴィッキーに想いを寄せる工兵大尉フランク・シャープレス。

その席上、"催眠術の真贋" について
リッチ博士とフランクの間で口論が起こり、
その結果、翌日の夜にもう一度全員がフェイン家に集まり、
博士が「催眠術の実演」を行うことになった。

被術者(催眠術をかけられる相手)に選ばれたのはヴィッキー。
そしてその「実演」の最中、衝撃的な殺人が実行されてしまう・・・

折しも近隣の屋敷に滞在して、自叙伝の口述筆記をしていた
ヘンリ・メリヴェール卿が捜査に当たることになる。


正直言って、メインのトリックはダサい。
現代の目で見たら噴飯物かも知れない。
怒り出す人もいるかも知れない。
でも解説にもあるように、本作が発表されたのは80年近い昔。
当時としては充分に意外で斬新なトリックだったのだと思う。

しかし、本書のキモはここではない。
毎回書いてきてるけど、密室や不可能状況ばかり有名な作家さんで
本作も一種の "不可能犯罪" なんだが、それはあくまでも
犯人を隠すための一要素にしか過ぎない。

実際、カーの作品では
「容疑者は少ないのに犯人が最後まで分からない」
という展開が多い。

本書でもまた然り。最後に明かされる真相で
「えーっ、そうだったのか!」と気持ちよくだまされてしまうのだ。
トリックの問題なんか気にならなくなるくらい。

そのあたりの「テクニック」については、本書の解説で
麻耶雄嵩氏が詳細に書いてる。
流石に現役の本格推理作家さんだけあって
微に入り細を穿つように説明してくれる。

これを読むと、トリックもストーリーもラブロマンス要素も
全部ひっくるめて「犯人について読者をミスリードさせる」ために
存在しているのがよく分かる。

巻末の「解説」ってよくあるけど、
ここまでほんとに "解説" してくれた例は珍しいかも(笑)。

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「岩崎宏美コンサートツアー Hello! Hello!」に行ってきました [日々の生活と雑感]

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生まれて初めて、岩崎宏美さんのコンサートに行ってきました。
私は彼女のデビュー以来のファンで、
最初の10年くらいのシングル盤は全部持ってます。
40枚くらいあったかなあ・・・アルバムもたいてい買ってるはず。
捨ててはいないので実家の押し入れを漁ればまだあるはず。

結婚して実家を出るとき、そのまま放置して
いつしか彼女とは離れてしまいました。

それでも想い出したように、何年かに一度くらいの割合で
ベスト盤のCDを買ったりしてましたねえ・・・

このコンサートが行われることを知ったのは7月の終わり頃。
たまたま行った市民会館のロビーにチラシが置いてあったんですね。
手に取ってみて、思えば生で宏美さんを見たことは無かったなあ・・・
と思ったのですよ。
こういうものって、いつかそのうち・・・って思っているうちに
もろもろの事情で行けなくなってしまうものですから
思い切っていくことにしました。

2年前に行った小椋佳さんのコンサートのときも、そう思ったのだよね。

とは言っても、実際にチケットを購入してみると、
けっこう時期が遅かったみたいで後ろの方から1/4くらいの席。
まあ仕方ないですね。


さて、今日23日はお彼岸。
午前中はお供え用に果物を買って、実家へ向かう。家に入ったら、
母は石坂浩二主演の「やすらぎの郷」の総集編を鑑賞中。
仏壇に線香をあげたらそそくさと退散。

午後になり、車で久喜へ向けて出発。
カーナビだと家から40分って出るんだけど
実際は渋滞があったりして50分くらいかかったかなあ。
開場の1時間前の15時頃着いたのだけど駐車場がほぼ満杯。
考えてみたらコンサート以外にもいろいろイベントがあるんだから
当たり前だよねえ。
開場までは、喫茶コーナーの隣のスペースで読書をしながら待機。
時間が迫るにつれて人が集まってくるんだけど
予想はしていたけど年齢層は高め(笑)。

そんなこんなで16時になり開場。
中に入って席に着き、周囲を見渡してみると意外に女性が多いような。
私の予想では男女比は8:2くらいじゃないかなと思ってたんだけど
実際は6:4くらいか。ご夫婦で来ている方がとても多い。
私の右隣と前の席はご夫婦でしたね。
ちなみに左は私と同じ男性のお一人様。

あと、前から3列目くらいに揃いのハチマキをした一団を発見。
「ひょっとして・・・」と思ったのだけど、その予感は的中しました。

16時30分。コンサート開始。
オープニングはコンサートタイトルにもなっている「Hello! Hello!」。
最新アルバムの表題曲にもなってる曲ですね。
このコンサートに行くにあたり、予習をしようと思って
先日このアルバムを iTunes で全曲ダウンロード購入し、
CDに焼いて通勤時間に聞いていたのでバッチリでしたよ。

さて、先ほどの一団ですが、歌に合わせてサイリウムを振り出しました。
予想通り「親衛隊」の方々だったんですねぇ。
いやあ失礼ながら、この手の方々がまだ生き残っていたとは驚きです。

一生懸命応援しているのは分かるのですが、
正直言って周囲からちょっと浮いているような気がしないでもない。

でも、私と同年代なのに、こういうことに情熱を持って取り組んでるって
ある意味とても凄いことですよね。

続いて始まるアイドル時代のヒットメドレー。
やはり歌のうまさは絶品です。

岩崎宏美さんは、あまり喋らない方だと思ってたのですが
歌の合間に大相撲の話とか観ているドラマの話とか
意外と気さくにいろいろな話をしてくれたのはちょっと驚きでした。

最新シングルの「絆」を歌う前には、
この曲の成立までの経緯を語ってくれました。

この曲、初めて聞いたときは歌詞がちょっと衝撃的で
感動よりも驚きの方が大きかったのですが
曲ができるまでのエピソードを知ってから聞くと、
素直に感動できました。曲が終わる頃には目がウルウルでしたよ。

第1部の終わりは「思秋期」で〆。まさに圧巻の歌唱力で
「岩崎宏美ってやっぱり凄い」という思いを新たにしました。

20分間の休憩を挟んで第2部開始。
トイレに行ったとき、私の前にいたのがあの親衛隊の方で
ハチマキにはしっかり「岩崎宏美親衛隊」の文字が。
いやあたいしたものです。

第2部のオープニングは「家路」。これも好きな曲ですねえ。
そして「すみれ色の涙」と続き、再びアイドル時代のヒットメドレー。

いやあ、あんなに歌ってもまだまだヒット曲が出てくるんだから
凄いことですねえ。

途中には、彼女が好きなドラマの主題歌を
4曲カバーするコーナーなんてのもあり、
その中に「やすらぎの郷」も入っていて
午前に行った実家を想い出して一人で笑ってしまいました。

そして第2部のラストは「聖母たちのララバイ」。
これは外せないですよね。

アンコールは2曲。1曲目はデビュー39周年記念曲「Thank You !」。
ところが歌う前に観客の皆さんに拍手とコーラスのレクチャー。
いやあ、宏美さん、無茶振りにしてはハードル高いっす。
歌は始まっても、拍手を入れるタイミングばかり気にして
歌詞がぜんぜん耳に入りませんでしたよ(笑)。

オーラスは、これも最新アルバムのラストに収録の「栞」。
静かな曲で、コンサートを閉じるのにはピッタリですね。

コンサート後には握手会もあったのですけど
あまり遅くなれない事情があったので今回は残念ながら直帰。

家に帰ってきて最新アルバムの収録曲の一覧を見てみたら、
収録されている10曲のうち8曲くらいは歌われたみたいですね。

私が現役ファン(笑)だった頃の歌としては、
「ロマンス」「センチメンタル」「未来」「想い出の樹の下で」「熱帯魚」
「シンデレラ・ハネムーン」「万華鏡」「女優」(順不同です)
が歌われたかな。

会場には欽ちゃんファミリーのクロベエさんや、
演歌歌手の石原詢子さんも来ていたみたいですね。
さだまさしさんとも仲良しみたいで、交友関係も広いのですね。

57歳にして『美女と野獣』のオーディションに参加して
ポット夫人の役を射止めたとか。
年齢を重ねても努力を続けて新しい道を開かれていると聞いて、
驚くと同時に徒に馬齢を重ねているだけの自分を省みて、
これではいけないなあとも思いましたよ。
ちなみに「美女と野獣」もコンサート内で歌われましたね。

「素敵に年を重ねる」と、言うのは簡単でも実行するのは難しい。
でも岩崎宏美さんはそれをしっかり実現しているんですねえ。

彼女のコンサートに、またいつか行きたいと思います。
今回は仕事で来れなかったかみさんを連れて。

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空棺の烏 [読書・ファンタジー]


「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
そして「黄金(きん)の烏」と続く、
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」の第4巻。
ちなみに「空棺」は「くうかん」と読むのだそうな。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

そして前作「黄金の烏」では、
その「八咫烏」を喰らい尽くそうとする凶悪な "大猿" が登場した。
"大猿" たちがどこから、何を目的にやってくるのかも不明だったが
どうやら「八咫烏」たちの世界の "外" から侵入してきたらしい。

作者によると、この「八咫烏シリーズ」は、もともと
烏たちと大猿たちの戦いがメインとなる予定だったらしいので、
いよいよこれからが本番なのだろう。

では、本巻はどんな位置づけなのだろう。
読み終わって思ったのは、「戦いの準備」の章だったということだ。

金烏代宗家の近衛兵にして、最精鋭部隊である「山内衆」。
その養成機関である全寮制の学校「勁草院」が舞台となる。

第二作からメインキャラを勤めている少年・雪哉が本作も主役を張る。
若宮の側近という地位を離れ、「勁草院」へ入学した雪哉だが、
学内には日嗣の御子を奉ずる若宮派と、兄宮である長束(なつか)の
巻き返しを期待する兄宮派があり、その派閥間抗争に巻き込まれていく。

学園ものだから、同級生や先輩としていろいろなキャラが登場する。

田舎育ちで庶民階級出身、おおらかな性格の茂丸、
大貴族である西家の御曹司で坊ちゃん育ちの明留(あける)、
あらゆる武術で天才的な冴えを見せるが、暗い陰をもつ千早。

お約束の "意地の悪い先輩" として登場する公近(きみちか)、その逆で
雪哉に引きずり回されるうちにすっかり後輩の面倒見役になってしまう
先輩・市柳(いちりゅう)はコメディリリーフ的な立ち位置。

そして教官たちも一筋縄ではいかない人が多い。
特に戦術理論を担当する翠寛(すいかん)は当代最高の用兵家と謳われ、
「盤上訓練」という授業を受け持っている。
これは「軍人将棋」とボードシミュレーションを組み合わせた
ウォー・ゲームみたいなもので、対戦する二人で
兵(を模した駒)を盤上に展開して軍を進め、勝敗を競うものだ。

その「盤上訓練」で、初っぱなからなぜか翠寛は
対戦相手として雪哉を指名する。
その初戦で雪哉は完敗を喫するのだが、
そのまま引っ込んでいるようでは主役は張れない。
後半には華麗なる逆襲も描かれるのだが、そのへんは読んでのお楽しみだ。
彼が「戦略家」として意外な(失礼!)才能を示すのも本書の読みどころ。

 全然関係ないけど、ここのシーンで何故か
 『スター・トレック』のコバヤシマル・テストを
 想定外の方法で突破したカークを想い出したよ。

そんな学び舎での日々を過ごしている彼らに、意外な知らせが舞い込む。
当代の金烏代である今上陛下が退位し、若宮に譲位しようとしたところ、
神官の長から「待った」がかかったのだ。
つまり、「若宮は果たして本当の "金烏" なのか」という
根本的な問題が発生していたのだ・・・

学園ものと言えば、同じ釜の飯を食っているうちに新たな友情を育んだり
人間的な成長を遂げたりというのがおきまりのパターンで、
本書もそういう要素は充分に持ち合わせているのだが
そこに雪哉はどうもあてはまらない。
だいたい「雪哉ってこんな性格だったっけ?」
「こんなに性格悪かったっけ?」って思うシーンがちらほら。

第1作はミステリとしてもよくできていた。
本作もそれに劣らず、あちこちに撒かれていた伏線が
きれいに回収され、「そうだったのか!」というラストを迎える。
雪哉に関する違和感というか疑問もここで氷解する、という仕掛けだ。

ラストシーンは、「卒業式」。学園ものなら当たり前でしょう。
見事、数々の難関を突破して「山内衆」に迎えられる卒業生たち。
「大猿を迎撃する準備」が順調に整いつつあることを示唆して「つづく」。

単行本では既に「第一部(全6巻)」が完結しているらしい。
あと2巻、「玉依姫」と「弥栄の烏」が文庫化されるのを待ってます。

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THE 密室 [読書・ミステリ]


「密室もの」はいまでも本格ミステリの中で魅力的なジャンルだと思う。
だからこそ、古今東西の作家さんが競って密室トリックを考案してきた。
本書は、そんな「密室もの」に特化したアンソロジーになっている。

でも、今回は現役バリバリと言うよりは功成り名を上げた大家の作品、
ていう感じかな。収録作の作家さん7人のうち
既に5人が鬼籍に入られ、存命の方は2名のみ。
しかも現役で作品を発表されているのはそのうちの一人だけ。


「犯罪の場」飛鳥高
大学の土木工学科で教鞭を執る木村博士。
そこの実験室で大学院生・管(すが)が死亡する。
現場の隣の研究室には木村博士をはじめ学生2人と助手2人がいたが
実験室には人の出入りができず、密室状態だった。
文庫で30ページほどの掌編で、トリックと犯人は
けっこう早めに見当がついてしまう。
というか、こんなアンソロジーを読むような人で
これ分からない人はいないでしょう(笑)。

「白い密室」鮎川哲也
医大生・佐藤キミ子は、ゼミ担当の座間教授の自宅を訪ねるが
中から出てきたのは雑誌編集長の峯。そして書斎には教授の刺殺死体が。
折しも雪が降り止んだ直後で、
現場には峯とキミ子の靴跡しかなかった・・・
貿易商にして名探偵の星影龍三が活躍する一編。
鮎川哲也ってアリバイ崩しのイメージが強いけど
こういう本格ミステリのガジェットを前面に据えた作品も
けっこう書いてるんだよね。

「球形の楽園」泡坂妻夫
"さそりの殿様" との異名を持つ富豪・四谷乱筆は、
極度の乗り物恐怖症で、外出を極度に嫌っていた。
それが高じて、彼は山の中腹にカプセル型のシェルターを建設、
その中に籠もって暮らすようになった。
そして、外部からは開けることができないそのカプセルの中で、
四谷氏の他殺死体が発見される・・・
名探偵・亜愛一郎が活躍するシリーズの一編。
トリックもいいが登場するキャラクターがみんなとぼけていて
ユーモアあふれる雰囲気がいい。

「不透明な密室」折原一
密室フェチの黒星警部が活躍するシリーズの一編。
建設会社社長・清川の死体が密室状態の執務室で発見される。
自殺かと思われたが、黒星警部は密室殺人と信じて疑わない・・・
ユーモアミステリなのだけど、
オチを読むと立派なバカミスだったりする(褒めてます)。
折原一って、基本的に読まずにスルーしてしまう作家さんなんだけど
この黒星警部シリーズだけは読んでる。
ちなみに、本書中で唯一の現役作家さん。

「梨の花」陳舜臣
大学の文化史研究所に勤務する浅野は、所内で何者かに刃物で襲われる。
現場は内部から施錠された建物だったが、犯人の姿はない。
浅野は婚約者の芙美子とともに真相を探り始めるが・・・
うーん、このオチはどうだろうか。
こんな×××で命を狙われたらたまらないが
犯人からしたら切実だったんだろうなあ・・・

「降霊術」山村正夫
陶芸家の蒔室(まきむろ)の死体が、密室状態の土蔵の中で発見された。
彼は生前、「家族の中に自分を殺そうとしている者がいる」と言っていた。
真相が明かされるラストは、密度が半端なく濃い。
密室トリックなんてどっかへ吹っ飛んで行ってしまうくらいの
強烈なインパクトがある。文庫で50ページ弱とは思えないほど。

「ストリーカーが死んだ」山村美紗
"ストリーキング" という単語、若い人は知ってるかなあ。
裸で公道等を走り回ることを指す。けっこう昔に流行った現象だ。
タイトルの "ストリーカー" とは、まさに "裸で走る人" のことだ。
全裸で舗道を走る女性を発見した刑事・千種(ちぐさ)。
取り押さえたものの、彼女は直後に死亡する。
どうやら青酸カリを服用していたらしい。
彼女はなぜ、裸で走ったのか。そしていつ毒物を摂取したのか。
そして事切れる直前に言った「電話ボックスに」とは何を意味するのか。
さらに明らかになったのは、彼女が衆人環視のマンションの一室から、
誰にも見られずに脱出していたこと。
突き止めた真犯人から、動かぬ証拠を手に入れる千種の手並みが鮮やか。

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南極点のピアピア動画 [読書・SF]


タイトルにある「ピアピア動画」とは、
ネット上にある動画投稿サイトのこと。
もちろん「ニコニコ動画」がモデルだ。

表紙の女の子は、ボーカロイドの「小隅レイ」。
こちらは「初音ミク」がモデルなのはもう一目瞭然だね。

なんだかいかにも「パチモン」で胡散臭い。
そんなことを感じる人がいるかも知れないが、本作は
発達したネットによって、未来における宇宙開発が
どう変貌していくかを描いた連作短編集。
至って真面目で正統的なSFだ。

「南極点のピアピア動画」
彗星が月面に衝突し、大量の粉塵が舞い上がったために
月探査計画は "煙が晴れる" まで凍結されてしまう。
日本の探査計画に関わっていた大学院生・蓮見の夢もまた潰え、
恋人・奈美までも彼のもとを去ってしまう。
しかし、月面から放出された膨大なガスが地球へ降り注ぎ、そののち
両極から宇宙へと吹き出す "双極ジェット" を形成することが判明する。
これを利用すれば高度3000kmの宇宙空間へ到達できる。
蓮見は、「宇宙男プロジェクト」を立ち上げ、
二人乗りの宇宙機(もちろん奈美と乗るつもり)の製作を宣言、
「ピアピア動画」に決意表明の動画をアップする。
やがて彼のもとに、ネットを通じて
協力・支援を申し出てくれるメンバーが集まり始め、
プロジェクトは一気に動き始める・・・

「コンビニエンスなピアピア動画」
コンビニ・ハミングバード二本木店でバイトする美穂は、
ピアピア動画技術部の桑野と知り合う。
ある日、店頭の真空殺虫機を掃除していた美穂は
やたらと丈夫な糸を吐く蜘蛛を発見するが、
桑野はその蜘蛛の意外な利用法を発案する・・・
田舎のコンビニから始まった話が、
壮大な宇宙開発につながるという意外な展開に。
冒頭からこのラストは想像できないよ、ほんと。

「歌う潜水艦とピアピア動画」
音で "会話" する鯨に対して、こちらも音を発して反応を見る。
海洋生物の研究者・中野は、潜水艦を使っての
鯨の行動調査を発案するが、あえなく却下される。
しかし諦めきれない彼は、鯨に対して発声する部分を
ボーカロイド「小隅レイ」に歌わせ「ピアピア動画」に投稿したところ、
なんと自衛隊からオファーが来る。
退役してスクラップになるはずだった潜水艦かざしおの武装を外し、
国民的人気を誇る「小隅レイ」を "搭載" して鯨と "対話" させれば、
自衛隊のイメージアップになるという奇特な司令官が現れたのだ。
探査船となったかざしおは順調に鯨たちと"対話"を重ねていくが
やがて、とんでもないものと遭遇してしまう・・・

「星間文明とピアピア動画」
これは「歌う-」の直接の続編となっている。
かざしおが出会ったのは、数万年前に地球に飛来し、
海底に眠っていた地球外文明の "自動探査装置"、
要するにロボット探査機だった。しかもナノマシンを用いて
自らを作り替えることも、増殖することも可能だった。
"ファースト・コンタクト" によって
「小隅レイ」の外見をまとうことを決めた "探査機" は、
自らを「あーや」と名乗り、大量に複製を作りながら
地球人の中に入り込んでくるが・・・
表紙にあるような女の子が、街中をぞろぞろと
歩き回るような光景が出現するわけなんだが、
決して "萌え" ばかりではないので、誤解なきよう(笑)。
読んでいて、ジャック・ウィリアムスンの『ヒューマノイド』を
想い出したり、アシモフのロボットもの連作を想い出したり。
ネットや動画投稿サイトなど、でてくるガジェットは今風なんだけど
読んでるとなんだか昔SFを読み始めた頃のワクワク感が。
ラストで人類が宇宙へ進出する足場を得て終わるところは
古き良きSFの時代を彷彿とさせ、なんだか懐かしくて心温まる。

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