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THE 密室 [読書・ミステリ]


「密室もの」はいまでも本格ミステリの中で魅力的なジャンルだと思う。
だからこそ、古今東西の作家さんが競って密室トリックを考案してきた。
本書は、そんな「密室もの」に特化したアンソロジーになっている。

でも、今回は現役バリバリと言うよりは功成り名を上げた大家の作品、
ていう感じかな。収録作の作家さん7人のうち
既に5人が鬼籍に入られ、存命の方は2名のみ。
しかも現役で作品を発表されているのはそのうちの一人だけ。


「犯罪の場」飛鳥高
大学の土木工学科で教鞭を執る木村博士。
そこの実験室で大学院生・管(すが)が死亡する。
現場の隣の研究室には木村博士をはじめ学生2人と助手2人がいたが
実験室には人の出入りができず、密室状態だった。
文庫で30ページほどの掌編で、トリックと犯人は
けっこう早めに見当がついてしまう。
というか、こんなアンソロジーを読むような人で
これ分からない人はいないでしょう(笑)。

「白い密室」鮎川哲也
医大生・佐藤キミ子は、ゼミ担当の座間教授の自宅を訪ねるが
中から出てきたのは雑誌編集長の峯。そして書斎には教授の刺殺死体が。
折しも雪が降り止んだ直後で、
現場には峯とキミ子の靴跡しかなかった・・・
貿易商にして名探偵の星影龍三が活躍する一編。
鮎川哲也ってアリバイ崩しのイメージが強いけど
こういう本格ミステリのガジェットを前面に据えた作品も
けっこう書いてるんだよね。

「球形の楽園」泡坂妻夫
"さそりの殿様" との異名を持つ富豪・四谷乱筆は、
極度の乗り物恐怖症で、外出を極度に嫌っていた。
それが高じて、彼は山の中腹にカプセル型のシェルターを建設、
その中に籠もって暮らすようになった。
そして、外部からは開けることができないそのカプセルの中で、
四谷氏の他殺死体が発見される・・・
名探偵・亜愛一郎が活躍するシリーズの一編。
トリックもいいが登場するキャラクターがみんなとぼけていて
ユーモアあふれる雰囲気がいい。

「不透明な密室」折原一
密室フェチの黒星警部が活躍するシリーズの一編。
建設会社社長・清川の死体が密室状態の執務室で発見される。
自殺かと思われたが、黒星警部は密室殺人と信じて疑わない・・・
ユーモアミステリなのだけど、
オチを読むと立派なバカミスだったりする(褒めてます)。
折原一って、基本的に読まずにスルーしてしまう作家さんなんだけど
この黒星警部シリーズだけは読んでる。
ちなみに、本書中で唯一の現役作家さん。

「梨の花」陳舜臣
大学の文化史研究所に勤務する浅野は、所内で何者かに刃物で襲われる。
現場は内部から施錠された建物だったが、犯人の姿はない。
浅野は婚約者の芙美子とともに真相を探り始めるが・・・
うーん、このオチはどうだろうか。
こんな×××で命を狙われたらたまらないが
犯人からしたら切実だったんだろうなあ・・・

「降霊術」山村正夫
陶芸家の蒔室(まきむろ)の死体が、密室状態の土蔵の中で発見された。
彼は生前、「家族の中に自分を殺そうとしている者がいる」と言っていた。
真相が明かされるラストは、密度が半端なく濃い。
密室トリックなんてどっかへ吹っ飛んで行ってしまうくらいの
強烈なインパクトがある。文庫で50ページ弱とは思えないほど。

「ストリーカーが死んだ」山村美紗
"ストリーキング" という単語、若い人は知ってるかなあ。
裸で公道等を走り回ることを指す。けっこう昔に流行った現象だ。
タイトルの "ストリーカー" とは、まさに "裸で走る人" のことだ。
全裸で舗道を走る女性を発見した刑事・千種(ちぐさ)。
取り押さえたものの、彼女は直後に死亡する。
どうやら青酸カリを服用していたらしい。
彼女はなぜ、裸で走ったのか。そしていつ毒物を摂取したのか。
そして事切れる直前に言った「電話ボックスに」とは何を意味するのか。
さらに明らかになったのは、彼女が衆人環視のマンションの一室から、
誰にも見られずに脱出していたこと。
突き止めた真犯人から、動かぬ証拠を手に入れる千種の手並みが鮮やか。

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