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空棺の烏 [読書・ファンタジー]


「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
そして「黄金(きん)の烏」と続く、
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」の第4巻。
ちなみに「空棺」は「くうかん」と読むのだそうな。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

そして前作「黄金の烏」では、
その「八咫烏」を喰らい尽くそうとする凶悪な "大猿" が登場した。
"大猿" たちがどこから、何を目的にやってくるのかも不明だったが
どうやら「八咫烏」たちの世界の "外" から侵入してきたらしい。

作者によると、この「八咫烏シリーズ」は、もともと
烏たちと大猿たちの戦いがメインとなる予定だったらしいので、
いよいよこれからが本番なのだろう。

では、本巻はどんな位置づけなのだろう。
読み終わって思ったのは、「戦いの準備」の章だったということだ。

金烏代宗家の近衛兵にして、最精鋭部隊である「山内衆」。
その養成機関である全寮制の学校「勁草院」が舞台となる。

第二作からメインキャラを勤めている少年・雪哉が本作も主役を張る。
若宮の側近という地位を離れ、「勁草院」へ入学した雪哉だが、
学内には日嗣の御子を奉ずる若宮派と、兄宮である長束(なつか)の
巻き返しを期待する兄宮派があり、その派閥間抗争に巻き込まれていく。

学園ものだから、同級生や先輩としていろいろなキャラが登場する。

田舎育ちで庶民階級出身、おおらかな性格の茂丸、
大貴族である西家の御曹司で坊ちゃん育ちの明留(あける)、
あらゆる武術で天才的な冴えを見せるが、暗い陰をもつ千早。

お約束の "意地の悪い先輩" として登場する公近(きみちか)、その逆で
雪哉に引きずり回されるうちにすっかり後輩の面倒見役になってしまう
先輩・市柳(いちりゅう)はコメディリリーフ的な立ち位置。

そして教官たちも一筋縄ではいかない人が多い。
特に戦術理論を担当する翠寛(すいかん)は当代最高の用兵家と謳われ、
「盤上訓練」という授業を受け持っている。
これは「軍人将棋」とボードシミュレーションを組み合わせた
ウォー・ゲームみたいなもので、対戦する二人で
兵(を模した駒)を盤上に展開して軍を進め、勝敗を競うものだ。

その「盤上訓練」で、初っぱなからなぜか翠寛は
対戦相手として雪哉を指名する。
その初戦で雪哉は完敗を喫するのだが、
そのまま引っ込んでいるようでは主役は張れない。
後半には華麗なる逆襲も描かれるのだが、そのへんは読んでのお楽しみだ。
彼が「戦略家」として意外な(失礼!)才能を示すのも本書の読みどころ。

 全然関係ないけど、ここのシーンで何故か
 『スター・トレック』のコバヤシマル・テストを
 想定外の方法で突破したカークを想い出したよ。

そんな学び舎での日々を過ごしている彼らに、意外な知らせが舞い込む。
当代の金烏代である今上陛下が退位し、若宮に譲位しようとしたところ、
神官の長から「待った」がかかったのだ。
つまり、「若宮は果たして本当の "金烏" なのか」という
根本的な問題が発生していたのだ・・・

学園ものと言えば、同じ釜の飯を食っているうちに新たな友情を育んだり
人間的な成長を遂げたりというのがおきまりのパターンで、
本書もそういう要素は充分に持ち合わせているのだが
そこに雪哉はどうもあてはまらない。
だいたい「雪哉ってこんな性格だったっけ?」
「こんなに性格悪かったっけ?」って思うシーンがちらほら。

第1作はミステリとしてもよくできていた。
本作もそれに劣らず、あちこちに撒かれていた伏線が
きれいに回収され、「そうだったのか!」というラストを迎える。
雪哉に関する違和感というか疑問もここで氷解する、という仕掛けだ。

ラストシーンは、「卒業式」。学園ものなら当たり前でしょう。
見事、数々の難関を突破して「山内衆」に迎えられる卒業生たち。
「大猿を迎撃する準備」が順調に整いつつあることを示唆して「つづく」。

単行本では既に「第一部(全6巻)」が完結しているらしい。
あと2巻、「玉依姫」と「弥栄の烏」が文庫化されるのを待ってます。

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