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図書館の魔女 烏の伝言 上下 [読書・ファンタジー]


長編ファンタジー『図書館の魔女』の続編だ。

多島海に面する王国「一の谷」。
前作の主人公である<図書館の魔女>ことマツリカと、
その側近くに使える少年・キリヒトの属する国でもある。
海を挟んだ西側には「アルデシュ」、北に位置する帝国「ニザマ」。

「ニザマ」帝国の宰相・ミツクビの暗躍により、
「アルデシュ」は「一の谷」領への侵攻を企てる。
さらにミツクビは「一の谷」内部の有力者たちにも切り崩しをかけ、
野望達成の障害となるマツリカを抹殺するための刺客まで放ってきた。

ミツクビの陰謀に対抗し、「一の谷」を守るべく奮闘する
マツリカたちを描いたのが前作だった。

本書の物語は、前作の終了からさほど間がない頃に始まる。

前作のラストに於いて、国を二分する混乱に陥った「ニザマ」帝国。
非主流派に転落した者たちは、続々と国外への脱出を始めていた。

高級官僚の姫君・ユシャッパも、そんな者たちの一人。
少人数の近衛隊に守られ、雇った剛力(ごうりき)たちと共に
尾根道を越えて港町・クヴァングヮンにたどり着いた。
ここから海路で国外へ脱出するはずだった。

密かに逃亡を支援している郭(くるわ)にたどり着いた一行だが、
そこはすでに裏切り者の巣と化していた。
近衛隊の多くは命を落とし、ユシャッパは囚われの身となってしまう。

港町・クヴァングヮンには無数の運河が張り巡らされ、
干満の差によって生じる暗渠はさながら迷路のよう。
そこを根城にして暮らすのは、戦火で親を失った孤児集団「鼠」。

辛うじて生き残った近衛兵たちは、「鼠」の力を借り、
剛力たちとともに姫の奪還を目指すが・・・


近衛兵、そして剛力たちをメインにストーリーが進む。
前作同様、多くの人物が登場するが
みんなしっかり書き分けられてキャラが立ってるのはたいしたもの。

この手の「囚われのお姫様救出もの」は、
そのお姫様に魅力がないと盛り上がらないのだけど
ユシャッパは堂々の合格点だろう。

年齢は明記されないのだけど、たぶんマツリカとあまり変わらない
10代後半くらいかと思われる。
心優しいけれど気丈で、教養にあふれ、聡明で機転が利く。
下賤のものとも分け隔てなく接するなど、好感度も抜群。

例えば剛力の一人・エゴンは、まともに言葉を発することができない。
そのため仲間と離れ、もっぱら烏とともに過ごしているのだが
ユシャッパはそんなエゴンにも興味を抱き、親愛の情を示す。
そしてそれが、後半になると重要な "伏線" となって生きてくるのだ。

物語自体も堅牢な作り。
郭を牛耳る "裏切り者" たちの行動に

不審な部分もあったりと、実はあちこちに
様々な "伏線" が仕込んであり、
下巻に入るとそれらが綺麗に "回収" される。
つまり、よくできたミステリ並みに "構成" が綿密に行われていて、
ストーリーが実によく計算されている。もう脱帽です。


『図書館の魔女』の続編のはずなのに、
いつまで経ってもマツリカもキリヒトも登場しないので
フラストレーションが溜まる人もいるだろう。私もそうだった(笑)。

もっとも、「あれ?このキャラはあの人じゃないの?」ってのが
一人だけ出てくるんだけどね、それもけっこう早い時期に。

マツリカさんの登場には、下巻まで待たなければならない。
前作の記事にも書いたけど、
「博覧強記だけど傲岸不遜で偏屈者のマツリカさん」は今作でも健在だ。
彼女の毒舌を聞いているとだんだん嬉しくなってくる(えーっ)www。
すっかりマツリカさんのファンになってたんだねえ、私。

前作では「一の谷」から始まり、舞台は「ニザマ」へ移り、
さらには西大陸の奥深くまで移動していくなど
空間的なスケールが大きかったんだけど
本作では、物語はほぼ港町・クヴァングヮン内でのみ進行する。
そして全体からすればマツリカさんの登場する割合はわずかなど
「本編の続き」というよりは「外伝」的意味あいが強いかな。

でも、次作では(たぶん)マツリカとキリヒトの話を
がっつり描くのだろうし、その背景となる
「ニザマ」の混乱の様子を描いておくという意味もあったのだろう。

そして本作での新登場キャラのうち、
何人かは次作以降にも出演するのではないかな。
個人的には、ユシャッパさんにはぜひ出ていただきたい(笑)。

そういう意味では、やっぱり読み逃してはいけない作品なのだろう。

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アケルダマ [読書・SF]


アケルダマ (新潮文庫)

アケルダマ (新潮文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

タイトルの「アケルダマ」とは、新約聖書によると
キリストを裏切ったユダが死んだ土地がそう呼ばれたとのことだ。

2年前に両親が離婚し、父親に引き取られた転昆巴(ころび・ともえ)。
牧師である父がN県にあるド田舎・織部村へ赴任するのに伴い、
現地の高校へ転校した。しかしその直後に父は急死してしまう。

寮で一人暮らしをすることになった巴は、
早く学校に馴染もうと生徒会へ入るのだが、
入会の手続きからして秘密結社への加入みたいに怪しげな雰囲気で、
やたら高圧的な会長と彼に絶対服従の役員たち、と胡散臭さがぷんぷん。

どうにも学校に居場所を見いだせない巴だが、
そんなある日、登校途中で沢田瞬(さわだ・しゅん)と再会する。
巴が転校前にいた学校の同級生で、いわゆるオカルトマニアだった。
彼の入手した昭和初期の古い研究誌に、
「キリストの墓がN県織部村にある」と記してあったという。

巴はしばしば夢の中で誰かの "声" を聞いていた。
そして、その "声" に従って生徒会からの命令を破った時、
巨大蝙蝠などの "怪物" が襲いかかってきた。

そして巴は "声" の正体を知る。
"声" の主はなんと2000年前に死んだはずの「ユダ」だという。
つまり彼女は「ユダ」の魂だか霊だかを憑依させることができるのだ。

「ユダ」によると、彼以外の使徒達はみな "生きて" いて
日本に眠る「キリスト」の "復活" を画策している。
そして「キリスト」が甦ったとき、世界は地獄に変わるという・・・


そして巴は、"ユダ" そして瞬を協力者に得て、
使徒達の陰謀に立ち向かっていく、というお約束の展開。

その使徒達というのがまさに「これぞ秘密結社」という典型。
そしてキリストの「墓地」がある織部村、
その現地における下僕である生徒会役員たちは
ほとんどショッカー戦闘員みたいな扱いである(笑)。

多彩なキャラが登場するが、ピカイチは巴の母・エチだろう。
自由奔放で男好き、家庭を飛び出して東京でスナックを開く。
それでいて沖縄拳法の達人、という
なんだかよくわからないけど凄い人(笑)。

巴もその薫陶よろしく腕に覚えがある身なわけで、
守られるだけの凡百のヒロインとはひと味違う。
まあ田中啓文の作品にまともな主人公が登場するはずもないか(笑)。

沢田瞬の父も、エチに負けないくらい凄い人なんだけど
これは終盤の展開に関わるのでここには書かない。

ストーリーだけ見れば直球ど真ん中、堂々の伝奇小説なんだが
読んでてなぜか笑いが出てくるのも、この作者ならでは(褒めてます)。

巴と瞬が恋仲になりそうでならないのも、それはそれで楽しい(えーっ)。

文庫で700ページの大長編なんだが、途中でダレることもなく、
最後までサクサク読める。リーダビリティも抜群。
作者と波長が合う人なら、楽しい読書の時間が過ごせるだろう。

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クラーク巴里探偵録 [読書・ミステリ]


クラーク巴里探偵録 (幻冬舎文庫)

クラーク巴里探偵録 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は日露戦争が終結して間もない頃、
山中晴彦はヨーロッパを巡業中の曲芸一座に転がり込んだ。
家事一切を引き受けることを条件に
一座の敏腕番頭・片桐孝介と同居をはじめることに。
そんな二人が、パリを舞台に起こる事件を解決するべく
奔走する姿を描く連作ミステリ。
探偵役が孝介で、晴彦はワトソンの役回りだ。

「第1話 幽霊屋敷(メゾンアンテー)」
一座の座長に、贔屓筋から相談を持ち込まれる。
座長に頼まれた晴彦と孝介とは、資産家であるデュボア氏の屋敷へ。
息子ジュリアンの部屋に幽霊が出るという。
バラバラと物を叩きつけるような音がして目覚めると
部屋の中に無数の小石が散らばっていた・・・

「第2話 凱旋門と松と恋」
日本大使館員の本多が住んでいる下宿のマダム・クラリスが
妙な男につきまとわれているという。男の正体に迫るため、
美しき未亡人クラリスの過去について調査を始めた晴彦と孝介は、
彼女の夫を看取った医師が死亡していたことを知る。

「第3話 オペラ座の怪人」
晴彦に「面白いものを見せてやる」といって孝介が案内したのは
アパートの3階にある舞台美術家ガルニエ氏の部屋だった。
そのアパートで10万フランの現金盗難事件が起こる。
しかし入り口には二人がいたため、犯人の逃げ場はなかったはずだが
建物の中に犯人の姿は見当たらない・・・

「第4話 東方の護符」
晴彦がヨーロッパに来て孝介に接近したのには、ある目的があった。
第1話から第3話にかけて少しずつそれが明かされてきて
この最終話で決着を見るのだが、晴彦は基本的に善人なので、
密かに孝介を裏切っていることに良心の呵責を常に感じ続けていた。
約束された報酬と孝介との友情。その間で板挟みになり苦しむ晴彦。
そしてすべての "事情" を知った孝介がとった行動は・・・

ミステリではあるが、メインとなるのは
パリに住む人々の暮らしぶりであったりする。
多彩な登場人物の言動を通して、当時の "花の都" の様子が描かれる。

そしてなにより晴彦と孝介。共に積み重ねた時間と、
事件を解決してきた経験が二人の絆を紡いでいく。
いつ見ても不機嫌そうな孝介だが、内に秘めた優しさと強さが
最終的に晴彦を救うことになる。

ラストシーンで晴彦はパリを去り、日本へ帰ることになるが
後日、再びパリに戻ってくることが示唆されて終わる。
つまり、二人の探偵譚は今後も続くということだ。


そして、続編である『露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2』も
既に刊行されており、実は手元に持っている。
これも近々読む予定。

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機龍警察 [完全版] [読書・SF]


機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/05/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴い発達した人型近接戦闘兵器・機甲兵装。

警視庁特捜部は、最新鋭の機甲兵装<龍機兵>を3機導入、
そのパイロットとして3人の傭兵と契約する。

閉鎖的、保守的な警察組織はそんな<龍騎兵>に対して
強烈な拒否反応を示し、特捜部は孤立を強いられながらも
凶悪な事件に対峙していた。

ある日、3機の機甲兵装を使ったテロ事件が発生する。
犯人グループは多くの犠牲者を出しながら地下鉄千田駅構内に突入、
ホームに止まっていた電車の乗客を人質にとって立て籠もった。

特捜部の<龍騎兵>3機は、警視庁のSAT(特殊急襲部隊)とともに
現場へ向かうが、そこには恐るべき罠が仕掛けられていた・・・


旧来の思考に囚われた警察組織と、
時代の最先端の<軍用兵器>をもつ特捜部との確執。
機甲兵装を用いて引き起こされる、近未来における壮絶なテロ事件。
そして主役メカである<龍騎兵>の活躍。

読みどころがてんこ盛りの傑作エンターテインメントだ。


登場するキャラクターも多彩だ。
特捜部への協力を拒む旧弊な警察組織と渡り合いながらも、
捜査の手を緩めない特捜部長・沖津旬一郎。
<龍騎兵>パイロットとして契約した3人の傭兵たち。
日本人傭兵・姿俊之、ロシアの警察官出身のユーリ・オズノフ、
そして元テロリストのライザ・ラードナー。
そしてある理由からライザを憎む<龍騎兵>技術班主任・鈴石緑。

3人のパイロットたちも様々な過去を抱えている。
第1作である本書では姿俊之の過去の一端が語られるが
それが単なる思い出に留まらず、現在進行中の事件にも絡んでくる。


機甲兵装のイメージは往年のTVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」に
登場する人型機動兵器AT(Armored Trooper)に近いだろう。
そして主役メカたる<龍騎兵>には、
短時間だが超絶的な高機動を可能にする「DRAG-ON」モードが
搭載されているなど、ロボットアニメ的な外連味も充分。

 V-MAXを備えたスコープドッグみたいなもの、って書いても
 分からない人は多いだろうなあ・・・(笑)。

あるときは重厚に、あるときは電光石火の如く変幻自在に敵を翻弄する。
<龍騎兵>の戦闘シーンになると、ページを繰る手が止まらない。
"その手" のお話が大好きな人(私もだが)も充分に楽しめる。


本書は2010年に刊行されたシリーズ第1作『機龍警察』に
加筆・修正を施したもの。

実は当時、この作品を読んでいて記事に挙げてる。
内容はあんまり褒めてない(笑)。
でもこのシリーズは大ヒットし、作者のブレイクのきっかけとなった作品。

今回改めて読んでみたけど、細部の描写が変わっただけで
ストーリーの骨子は変わってないのに、驚くほど面白く感じられた。
いやあ不明の至りを反省します。


第2作『機龍警察 自爆条項』も[完全版]が出ていて
実はもう読了してる。
こちらではライザと緑の過去が明かされ、
二人の間の葛藤がストーリーの根幹となっている。
こちらも傑作だ。近々記事に書く予定。

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バチカン奇跡調査官 原罪無き使徒達 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官 原罪無き使徒達 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 原罪無き使徒達 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/03/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第10弾。
長編としては9作目になる。


今度の舞台は日本、九州は天草だ。

海洋冒険家ロビンソンの乗るヨットは
太平洋を黒潮に乗って北上し、日本へ向かっていた。
しかしフィリピン沖で突如発生した巨大台風に巻き込まれて
ヨットは沈み、彼は海に投げ出される。
陸に向かって泳ぎながらも死を覚悟した彼の前に奇跡が現れる。
漆黒の海上にキリストの姿が現れたのだ。
奇跡に導かれて陸地にたどり着いた彼は
気を失う直前、黒髪をなびかせた天使を目撃する・・・

その二日後、ロビンソンのたどり着いた無人島に
大雪が降り、天空に巨大な十字架が浮かび上がった。
季節は7月、現地は30度近い気温だったにもかかわらず。

奇跡の報告を受けたバチカンは平賀とロベルトを九州・熊本へ派遣した。
地元イエズス会の神父たちと合流した二人は調査を開始するが
奇跡が起こったとされる無人島・神島には、
それ以外にも様々な怪異が目撃されていることが判明する。

この地には隠れキシリタンの信仰が
人知れず今なお生き残っており、さらには
"キリシタンの財宝" の在りかを示す暗号までも伝えられているという。


今回もなかなか壮大な "奇跡" を設定したものだ。
闇に光るキリスト像、天空に浮かぶ十字架、真夏に降る大雪・・・

ラストではもちろん "謎解き" があるのだが
いささか強引かつ無理がありそうな解釈も。
"大雪" なんてかなり偶然の要素が大きいし。

でもそれがあまり気にならなくなってきたのは
ここまでシリーズを読んできたせいか。

ま、この程度で腹を立てるような人は
そもそもここまでついてこない(笑)だろうし、
作者がどんどんぶち込んでくる意外な "仕掛け" を
笑いながら「すごいすごい」って楽しめる人が残ってるんだろう。

本シリーズを読むときはアタマを柔らかくして臨みましょう。
壮大かつスーパー伝奇なホラ話を楽しんだもの勝ちです。

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僕の光り輝く世界 [読書・ミステリ]


僕の光輝く世界 (講談社文庫)

僕の光輝く世界 (講談社文庫)

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

SF作家としては星雲賞も受賞しているベテランである山本弘。
今回はミステリだけれど、
特殊な設定を取り入れたなかなかユニークな作品になってる。。

「第一話 黄金仮面は笑う」
主人公のオタク少年・高根沢光輝(こうき)は、
進学先の高校でいじめに遭い、橋から突き落とされてしまう。
後頭部を負傷した彼は、"アントン症候群" を発症する。
これは、失明してしまったにもかかわらず、
本人には通常通りに外部が "見える" ように知覚される症状のこと。
つまり彼の "視野" に映ってる "世界" は、
彼の脳が "つくりだした" ものになってしまったのだ。


"アントン症候群" というのは実在するものらしい(wikiにも載ってる)。
実際の患者さんの症状が本書の通りなのかはちょっと分からないが。

しかし本書のキモは、光輝の一人称で語られることだろう。
つまり彼の語る内容は、彼の "視野" で知覚されたことなので
本当のところはわからない。実際は全く異なることもあり得る。

例えば、光輝は搬送された病院で神無月夕(かんなづき・ゆう)という
"美少女" と出会うが、彼女の容姿もまた彼の脳がつくりだしたもの。
彼女が本当に "美少女" なのかはわからないわけだ。

つまり、彼は故意にではなく「間違った事実」を
語ってしまうことがあるわけで、いわば
故意ではない "叙述トリック" が成立してしまうということになる。

もっとも、この事実は第一話の早い段階で明かされるし、
その後の展開でも彼が "自分に見える世界" と "現実の世界" の
ギャップに戸惑う姿が何度も描写される。

むしろこの落差によって起こるハプニングやコミカルなシーンも
本書の楽しみの一つだろう。このへんはSF作家の本領だ。

ミステリとして見た場合、
「語り」に描かれたことと「現実」とが異なる可能性があることは
冒頭から分かっていることなので、
それを頭の中において読んでいるんだけど、それにもかかわらす
最後にうまく引っかかってしまったりする。
うーん、流石は山本弘。

本書は非情に特殊な状況下での物語なのだが
特殊状況なりのルールがしっかりとあり、
そのルールに則って推理が展開され、解決に至る。
見ようによってはSFミステリの一種とも言えるだろう。


「第二話 少女は壁に消える」
夕とつきあい始めた光輝は、彼女を自宅に招く。
しかしそこへ突然光輝の姉が帰宅してきて・・・

「第三話 世界は夏の朝に終わる」
光輝の姉が高校時代の友人たちとの飲み会に出かけてしまった。
一人残った光輝だが、その夜に発生した大地震によって
姉が帰宅できなくなり、光輝はひとりぼっちになってしまうが・・・

「第四話 幽霊はわらべ歌をささやく」
光輝と組んで作家になりたいといいだした夕。
二人は伝手を辿り、同じ町内に住む
ミステリ作家・鰍沢将(かじかざわ・しょう)に会いに行く。
弟子入りをせがむ二人に鰍沢は条件を示す。
書きかけの小説『七地蔵島殺人事件』の原稿を見せ、
この小説の真相を当ててみろ、というのだが・・・
横溝正史ばりの世界が展開する作中作『七地蔵-』もお楽しみ。

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セーラー服と黙示録 [読書・ミステリ]


セーラー服と黙示録 (角川文庫)

セーラー服と黙示録 (角川文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/09/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

物語が展開される聖アリスガワ女学校は、
三河湾に浮かぶ孤島に建設されたカトリック系の女子高校だ。

本書は同じ作者の『天帝』シリーズなどと同じ
いわゆるパラレルワールドの日本を舞台とする。

実際、登場人物の一人である古野みづきは
『天帝』シリーズの主人公・古野まほろの妹である。

しかし聖アリスガワ女学校の実体は、普通の学校ではない。
なんと探偵養成学校なのだ。
この世界には『探偵士』という国家資格があり、
最高学府には「探偵学部」なんてものまで存在するのだから。

だからこの学校は、通常の授業科目以外に宗教系の科目はもちろん
探偵に必要な素養を学ぶ科目も多々設定されているのだ。

文部科学省から怒られないのかと思いきや、
なんとこの学校はヴァチカン市国が直々に設立したもので
なんと学園のある島は事実上の治外法権になっているという
トンデモナイ設定になってる(笑)。

なんでヴァチカンが探偵養成?と思うかも知れないが
実は学園設立の裏にはある目的があるのだ・・・


物語の語り手は高校2年生の島津今日子。
島津公爵家一族の端くれに連なる身である。
今日子の友人として登場する葉月茉莉衣、
そして古野みづきを加えた3人が探偵役となる。

時は12月、クリスマスを前に定期試験(3年生にとっては卒業試験)が
終わり、その結果が発表される。

そして、3年生の試験結果に今日子たちは驚く。
今まで常にトップを独走してきた三枝美保が二位になり、
万年二位だった紙谷伸子が首位を奪ったのだ。

そして美保と伸子は、上位二人だけに与えられる
「特別試験」に臨むことになるのだが、
その試験の最中、二人は密室状態下で殺害されてしまう・・・


文庫で330ページほどの作品なんだが
死体発見が200ページほど進んだあたりとかなり遅い。
それは、上にも書いたが学校の置かれた状況があまりにも特殊で、
しかもカリキュラムも特殊、当然教員も特殊、試験内容も特殊。
でてくるキャラクターもまた特殊な人たちばかりなので
そのあたりを説明したり紹介したりしているうちに
これくらい経ってしまうのだ(笑)。

もっともそこは達者な作者なので、
殺人に至るまでの部分も飽きさせることなく、面白く読ませるが。

事件が発生してからは、なぜか今日子たち3人が
謎解きをする羽目になるのだが
今日子は<フーダニット>、茉莉衣は<ホワイダニット>、
そしてみづきは<ハウダニット>と、それぞれ得意分野を持ち、
分担して真相に迫っていく過程も面白い。


しかしラストで明かされる真相は・・・。
たいていの人は「いくらなんでもこれはないだろう」
って思うだろうなあ・・・。

ただまあ、あまり腹が立たないのは不思議だが、
そこに至るまでの状況が特殊すぎて
感覚がおかしくなっていたからかも知れない(笑)。


このシリーズ、こんなふうなのが続くのなら困るなあ
・・・って思ったんだが、第2作を読んだら少し評価が変わった。

第2作は「ぐるりよざ殺人事件」といって
なんと文庫で700ページ近い大作。
この作品は、本作に輪をかけて特殊な状況下で事件が起こるんだが
その背後には、本作で登場した設定が大きなウエイトを占めている。

つまり、第1作である本書は「シリーズ全体の設定を説明する」のが
最大の目的なのかも知れないのだ。

「ぐるりよざ殺人事件」を第1作にすると、設定説明を含めて
1000ページくらいになってしまうからね(笑)。

それを回避するために、設定説明の部分を分離し、
作品として形にするために新たに殺人事件を付け加えて
一本の長編に仕上げたんじゃないか、って勝手に思っている。

そして、あまりにも "意外" な真相を提示することで
このシリーズが "普通のミステリ" ではない、ってことを
読者に印象づけているのではないかな。

そして「ぐるりよざ殺人事件」は、
それだけのことをするに値する出来になっていると思う。
こちらもそのうち記事に書く予定。

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第三章60秒ver.予告編公開 [アニメーション]


早いもので暦は9月かあ・・・って思ったら来ましたねぇ。
第三章の予告編60秒ver.が。
いやあ今回もモノスゴイ情報量。かみ砕くのがたいへんそう。


例によって、見ながら思ったことを
とりとめも無く綴ってみましょうか。
台詞に関しては、私の聞き取り違いもあると思うので
違ってたら勘弁して下さい。
トシとってきて、聞き取りがかなり不得手になってきました。
もちろん、モスキート音なんてとっくの昔に聞こえなくなってる(笑)。

・初っぱなからの大帝ボイスにビビってしまいますね。
 古代と初の体面が実現。でも、ここに本人がいるのかなあ。
 3Dの通信映像だったりして。
 玉座の間といい今回の会見といい、ずいぶん高いところにおられます。
 高所恐怖症では大帝職は務まらないのでしょうねえ(笑)。
・「お前の愛が何を救い、何を殺すのか」不穏な台詞ですねえ。
 まあガトランティス編が不穏でない話になるはずがないのですが(笑)。
・「レギオネル・カノーネ、発射準備!」旋回雷撃砲のことでしょうか。
・続々と集結する大戦艦の群れ。イワシの大群とは言い得て妙。
・ディスプレイに振り下ろされる拳骨。斉藤ですかね。
 映っているのは英雄の丘の沖田像。
・「何でヤマトは撃たねぇんだよ、波動砲を!」
 斉藤からすれば当然の疑問でしょう。
・またまた新しい色と模様のゼルグード。いったい何隻あるのかな。
 乗ってるのは当然ガミラス人でしょうから、デスラー派かな。
・ナース姿の雪さん。下着姿のご披露はあるのでしょうか(期待)。
・島くんの優しいグーパンチ。古代に気合いを入れてるんですかね。
 航海長がアントニオ猪木でなくてよかった(えーっ)。
・新キャラのガミラス軍人ですね。誰に対して跪いてるんでしょうか。
 もしかして総統閣下?
・「反波動こうし」。格子かな光子かな。どっちにしろ
 神谷ボイスで言われると超重要アイテムに聞こえる不思議(笑)。
・透子さんがいるのはキーマンの背後でしょうかね。
 何やら曰くありげな眼差し。サーベラーさんの双子の妹説に一票。
・「覚悟って何なんですか!」古代くんの悩みは尽きない(笑)。
・土方さんはヤマト艦長になることで決定みたいですね。
 「ヤマトはこれより囮になる!」石塚ボイスも重々しくて好きです。
・主砲がどーんと吼えてタイトル登場。いやあカッコいいなあ。
・「だから人一倍怖れておる。愛する者が死にゆくことを」
 こんな台詞を言うくらいなのだから、
 大帝も人を愛したことがあるのでしょうかねぇ。
・第一艦橋クルーがみんな驚いてますが何を見てるんでしょう?
・ひさびさに雪のアップ。「ヤマトよ永遠に」の時と同じ衣装ですね。
・土方に続いてサーベラー、ザバイバル(?)、バルゼーなどのご紹介。
・謎の光に向かって飛ぶヤマト。どんな状況なんでしょうかね。
・惑星間弾道弾ですか。ここで再会(笑)できるとは思いませんでしたね。
 超外道な殲滅兵器ぶりも健在のようで。
・難民たちと一緒にどこかを歩く雪。あのガミラス少女イリィもいます。
 ここから「ヤマトは囮になる!」って土方の台詞につながるのかな。
・謎の大爆発を前にするヤマト。波動砲ですかね?
・艦長席に座る土方。「沖田、借りるぞ」は聞けますかね?
・主砲、パルスレーザーを撃ち続けて応戦するヤマト。
 パルスレーザーの色が変わって赤くなってたのに気づいたのは
 3回目に見たときだったよ(遅いだろー)。
・大帝「奴は撃たない。撃てるのに撃たんのだ」
 土方「いや、古代は撃つ!」
 かつての教え子にして将来は義理の息子ですからねえ。
 ここで撃たなかったら雪との結婚は白紙になってしまうぞ(笑)。
・溶岩(惑星間弾道弾のせい?)にまみれた惑星をバックに
 両弦からミサイルを発射するヤマト。ここは燃える。
・「古代!撃て!波動砲を!」叫ぶ斉藤。
 今回はヤマト艦内を冷やかしてまわる余裕はなさそう。
・ゼルグードとの対決再び!
 リメイクのヤマトは戦艦同士の "肉弾戦" が好きですねえ。
・「古代くんに選ばせない!」やさしげだけど儚げな表情の雪さん。
 やっぱり第二話の時が一番幸せだったのか。
・久しぶりに古代の「ユキィィィ!」を聞きましたねえ。
  気のせいか2199の頃より切羽詰まった感じが。
 向かう先は溶岩の惑星。ということは、
 雪たちはこの星の地表にいたのでしょうか。
 これで古代がヤマトを離れたので土方が指揮を執ってるのかな。
 予告編の映像は、時系列も意識的に入れ替えてると思うので
 どこがどうつながるのか余計によく分かりません。
・最後は大帝陛下の初笑い いやいや 高笑いに
 白色彗星がオーバーラップして〆。

ちまちま書いてたらけっこうな分量が書けてしまいましたねぇ。
それくらい情報量が多いということか。
このペースで詰め込んでいったら、同じ26話でも「ヤマト2」の
何倍の情報が入るのでしょうか。

第二章の時は作画がかなり遅れたと聞いたので、
果たして第三章は間に合うのかとても心配です。
製作スタッフはお盆休みは取れたのでしょうか。
仕事で帰省できなかった人もいたりするのでしょうか。
健康に気をつけてがんばってほしいものです。


あとは第三章の主題歌(EDテーマ)ですかね。
この発表は9月の下旬頃かなあ。

さて10月14日を目指して、また明日から頑張りますか。

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時をとめた少女 [読書・SF]


時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・F・ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

SFラブストーリーの達人ヤング。
日本独自編集による4冊目の短編集とのことだ。

本国アメリカではさほど評価されていない人のようだけど
日本には根強いファンがいる。私もその一人。

「わが愛はひとつ」
主人公フィリップは、出版した論文が原因で
いわれなき罪に問われ、100年間の人工冬眠刑に処せられる。
刑期を終え、目覚めた彼は100年後の世界で自らの故郷に向かう。
そこは、かつて最愛の妻ミランダと共に暮らした思い出の地だった・・・
"時を超える愛" を描かせたら右に出る者はないヤングの本領発揮。
SFを読み慣れた人ならオチは見当がついてしまうだろうし、
そしてベタなラストだけど、私は好きだよ、この結末。
本書の中でいちばん "ヤングらしさ" が味わえる一編。
私のイチオシである。

「妖精の棲む樹」
創元SF文庫のアンソロジーで既読。
鯨座オミクロン星で、植民者のために
樹木の伐採に従事する青年・ストロング。
1000フィートを越える巨樹に登りはじめた彼は
枝の上で"樹の精"を見つける。それは女性の姿をしていた・・・
開発と自然保護の相剋を描いて、皮肉なエンディングを迎える。

「時をとめた少女」
6月の朝、ロジャーは公園で赤いドレスのベッキーに出会う。
たちまちロジャーは彼女の虜となってしまう。
そして翌朝、今度は青いドレスのアレインと出会う。
彼女は、なぜかロジャーにデートに誘ってほしいと訴えるが・・・
二人の女性から取り合いになってしまうロジャーだが、
後手に回ったアレインが繰り出す逆転の秘策がスゴイ。

「花崗岩の女神」
乙女座アルファ星第4惑星に残された巨大な彫刻。
横たわった女性をかたどり、乳房部分は標高5000mを越える。
主人公マーテンはこの"乙女"の山脈を伝って登攀を続ける。
自分の人生を振り返りながら、そして母のことを想い出しながら。
全長数十kmに及ぶ "女体山"(文字通り)という
途方もないイメージは素直に凄いと思うが
ストーリー的には淡々と進むので今ひとつ物足りないかなあ。

「真鍮の都」
これも創元SF文庫のアンソロジーで既読。
歴史上の人物をさらってきてコピーロボットを作り、
本人は元の時代に帰す仕事をしているマーカス。
今回の仕事はシェヘラザードをさらってくるはずだったのだが・・・
これは後に長編化され、『宰相の二番目の娘』として邦訳も出てる。
ヒロインのカワイさが倍増してるこの長編版のほうがオススメ。
ブログの記事にも書いたので探してみて下さい(笑)。

「赤い小さな学校」
管理化された社会を描いたいわゆるディストピア小説。
舞台が都会でなく田舎なのも珍しいかな。
光瀬龍や眉村卓が書くジュブナイル的な雰囲気もあるけど
最後まで読むと、「少年ドラマシリーズ」(←知ってる人いるかなぁ)
の原作にはなれないのがわかる。

「約束の惑星」
国ごとに惑星を割り当てられるという移民計画が行われた。
しかし主人公レストンが操縦するポーランド人の移民船は
目的地ではない星へ不時着してしまう。
ポーランド人たちはその星で生活をはじめるが
ただ一人、レストンだけが異邦人であった。
それ以来、文化や習慣の壁に阻まれて孤独に暮らしてきた彼だが
40年の歳月の後、自らの人生の意味を見いだそうとしていた・・・
レストンの置かれた環境はあまりにも過酷だ。
長い年月を経て、本人は自分の葛藤に決着をつけたようだが
私だったら耐えられないだろうなあ。
本人は満足かもしれんが、あまりにも切なすぎ、
そして救いがなさ過ぎないか、この結末。

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