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アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]


アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/06/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2015年に発表された短編SFから選ばれた19編(マンガ2編を含む)と、
第7回創元SF短編賞受賞作を合わせて全20編収録。

早いもので第9集になるそうな。
2007年の第1集から読んでるんだが、年を追うに従って
理解できない作品が増えてきてるような気がする。
アタマがついて行けないのかねぇ。トシのせいにはしたくないんだが。

収録作を評価ごとに3グループに分けてみた。


A:理解できたし、楽しめたもの

「ヴァンテアン」藤井太洋
野菜を入れたサラダ用ボトルの中で遺伝子改変した大腸菌を培養し、
バイオ・コンピュータをつくりだした遺伝子工学者・田奈橋杏。
彼女が開発した "サラダコンピュータ" は大ヒット商品となるが、
アメリカのバイオ企業が特許の無効を訴えてきた・・・
ストーリーはシンプルで、内容は分かりやすくかつ面白い。

「聖なる自動販売機の冒険」森見登美彦
主人公の働くオフィスの屋上に突如現れた自動販売機。
それは隣のビルの屋上に設置されていたものだった。
文庫で10ページちょっとしかないけど、
しっかり森見ワールドになってるのは流石。

「ラクーンドッグ・フリート」速水螺旋人
ラクーンドッグとはタヌキのこと。
異星人との戦争で劣勢に立った人類は、魔女や妖精、はては
狐狸の類の力まで借りて前線に投入していた・・・
という設定(たぶん)のスペースオペラ・コミック。
基本的にはギャグマンガなんだが、メインキャラの一人(一匹?)である
タヌキの "センバ丸" がラストで見せる一世一代の "化かし" が秀逸。
ちょっと感動してしまった。

「となりのヴィーナス」ユエミチタカ
進路決定の時期を迎えた中三男子・ソウジくんのクラスに
転校生・ミカがやってくる。彼女は自らを金星人と名乗り、
"自分探し" に来たのだという・・・。
謎の不思議少女に恋した、悩める少年を描いたSFマンガ。
絵もカワイイ。女性キャラが意味なく巨乳でないのもいい。
もっとこの人の作品を読んでみたいなあと思った。

「ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査」林譲治
2020年東京オリンピックの競技場建設のゴタゴタを
パロディ化したものと思いきや・・・
このオチは秀逸。思わず笑ってしまう。

「たゆたいライトニング」梶尾真治
生物の発生以来の記憶を持ち続けている少女エマノンを主役にした
シリーズの一編。というかこのシリーズ、まだ続いてたんだねえ。
懐かしく読ませてもらったけど、シリーズの他の短編と
内容が繋がってるらしくて、ところどころよく分からない部分が。
いつか、全作がまとまったら読み直してみたいな。
できれば時系列順に。

「言葉は要らない」菅浩江
人間としての幸福を顧みることもなく、医療補助ロボットの開発に
すべてを捧げてきた研究者・木村。
ある日、彼のもとに新たな部下として五十嵐という青年が現れる。
医療ロボット開発を巡る木村と五十風の葛藤を描く。
"人型ロボット" が主役かと思いきや、あくまで人間がメインの感動作。

「アステロイド・ツリーの彼方へ」上田早夕里
無人探査機に搭載する予定の〈人工知性〉・バニラ。
その開発・教育のために、主人公・杉野は
バニラの "猫型端末" と生活をはじめるが、
バニラの示す "知性" の裏に、"実在する人間" を感じはじめる・・・
これも一種のロボットものと言えるだろう。
しかしSFに登場するロボットはみんな健気だねえ。


B:内容はそこそこ分かるが、面白く思えなかったもの

「小ねずみと童貞と復活した女」高野史緖
早世したSF作家・伊藤計劃の『死者の帝国』と同一設定を利用した
シェアード・ワールドもの。読んでいくとわかるが
某有名SF作品と同一のテーマを扱っている。

「製造人間は頭が固い」上遠野浩平
作者は、謎の組織・統和機構が作りだした
"合成人間" を巡る〈ブギーポップ〉シリーズで有名。
(私は読んだことないけど)
本作は全20巻におよぶシリーズのスピンオフ短編。

「法則」宮内悠介
ミステリファンなら1ページ目を読めば、
ここでいう "法則" とは何のことか分かるだろう。
ヴァン・ダインのアレですね。

「無人の船で発見された手記」坂永雄一
読み始めてすぐに、ノアの方舟を扱った作品だと気づく。
面白いのだろうとは思うけど、私はホラーが苦手です。

「神々のビリヤード」高井信
はがき1枚に納まるくらいの長さのショートショート。
もともと私はショートショートってあまり好きじゃない。
だから星新一もあんまり読んでないんだよね。

「インタビュウ」野崎まど
作者がインタビューされて、その受け答えをそのまま綴っていくうちに
最後は小説になるという仕掛け。アイデアは認めるけど。

「なめらかな世界と、その敵」伴名練
さまざまな可能性に分岐した並行世界の間を自由に行き来して
自分の "居場所" を替えることができるようになった時代。
女子高生・はづきのクラスに、幼なじみが転校生としてやってくる。
これもアイデアは面白いけど、その展開についていけない。
私のアタマが固いのかなあ。

「ほぼ百字小説」北野勇作
作者がtwitterを利用して発信している小説シリーズから100本を収録。
とはいっても1作あたり140字という制限があるので
全部合わせても文庫で20ページちょっと。
でも、これ小説と言えるのかなあ。
長い作品の一部を切り取っただけにしか見えないんだが。


C:理解できなかったし、面白く思えなかったもの

「La Poésie sauvage」飛浩隆
既発表のシリーズ作と同一設定の作品なのだが
よくわかりません。これ、詩なのでしょうか。

「〈ゲンジ物語〉の作者、〈マツダイラ・サダノブ〉」円城塔
もうこの人は無理。勘弁して。

「橡(つるばみ)」酉島伝法
やっぱりこの人と私は合わないみたい。


第7回創元SF短編賞受賞作

「吉田同名」石川宗生
自分にそっくりな奴が現れる、なんてのはよくあるパターンで
70年代あたりの小松左京や筒井康隆が書きそうなテーマ。
しかし、それをここまで徹底するとスゴイ。
ある日突然、平凡なサラリーマンだった吉田大輔さんが
一挙に20000人に増えてしまうという、もうこれは発想の勝利だ。
不条理ドラマになるかと思いきや、この異常事態に
政府や社会が右往左往させられる様子をじっくり書いていて
けっこう真面目なシミュレーションにも思える。
いちばん困ってるのは吉田さん "本人たち"(笑) なんだが
そのあたりの哀感も描かれていて、新人賞受賞も納得。

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