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バチカン奇跡調査官 月を呑む氷狼 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官月を呑む氷狼 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官月を呑む氷狼 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第9弾。
長編としては8作目になる。

FBI捜査官ビル・サスキンスは、第6作『ラプラスの悪魔』事件で
その途轍もない真相にすっかり打ちのめされてしまった。

閑職に追いやられたビルだが、新たな命令が下る。
ノルウェーの研究所で開発された、
画期的なテロ対策プログラムを受領してくること。

研究所のある場所は、山に囲まれた田舎町・オーモット。
そこに到着したビルだが、早々に騒ぎに巻き込まれる。
町の中央広場に突然轟音が響き渡り、つむじ風と赤い焔が駆け巡る。
そして、すべての光が消えて広場は暗闇に沈んでしまう。

さらに、広場近くの民家では氷漬けの凍死体が発見される。
現場となった部屋は、天井から無数の氷柱(つらら)が下がり
壁と床は一面の霜に覆われていたのだ。
北欧とは言っても当日の外気温は10℃を越えていて
決して寒冷な気象状況ではなかったのにも関わらず。

ごく短時間で部屋を凍結に至らしめた怪奇に
人々は北欧神話に伝わる、氷狼ハティの仕業と噂する。
そしてその氷狼は、町を囲む山の中腹にある
廃墟となったアウン城に棲むという・・・

しかし、被害者は何らかの陰謀で殺害されたと睨むビルは
バチカンにいるロベルトと平賀に救援を求める。


シリーズキャラクターにしてロベルト&平賀の宿敵である
ジュリア神父(らしき人物)の登場し、
やがて2人の調査によって、凍死した男・ケヴィンが
働いていた会社の裏の顔と、彼自身が抱えていた秘密が明らかになり、
さらには氷狼の正体を暴くべく、ビルを含めた3人は
アウン城に乗り込んでいく・・・
とまあこんな感じで、読者の興味をつないで最後まで飽きさせない。

シリーズに共通する特徴として、伝奇的な衣をまとっているけれど、
作中で起こる不思議な事件の背後には、意外なほど(失礼!)
最新の科学技術や知見を取り入れられていることがある。
今作ではケヴィンに関わる秘密あたりがそうだ。

カソリックをはじめとするさまざまな宗教や、
各種の神話や伝説にまつわる題材も頻繁に登場するし、
作者はかなり勉強も取材もしていることを窺わせる。

今回、いちばん大がかりなのはもちろん、
短時間で部屋を凍結させたトリックなのだが
これはもう分かってしまえばあまりにもベタなネタで、
"直球ど真ん中" と言っていい。
もし普通のミステリでこれを使ったら噴飯物だろう。
このシリーズだからこそ通用するネタだといえる。

短編ではけっこうオカルト・怪奇風味が濃いけれど
長編ではそれなりに(あくまでそれなりに、だけど)、
本書のように科学的で合理的な解釈が示される。

たまに "ハズレ" なときもあるのだが
"いい塩梅" で納まると楽しい読み物になる。

まさに現代版「怪奇大作戦」だと思う。

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