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パダム・パダム 京都府警平安署 新任署長・二条実房 [読書・ミステリ]


パダム・パダム: 京都府警平安署 新任署長・二条実房 (光文社文庫)

パダム・パダム: 京都府警平安署 新任署長・二条実房 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/07/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

同じ作者の『天帝』シリーズに
準レギュラー出演している警察官僚・二条実房。
本書は、若き日の彼を主役としたシリーズの第2作である。

 ちなみに、変わったタイトルだけど
 これはフランス語で足音を表す擬音語らしい。
 日本語で言うと「どたどた」と「ぱたぱた」の間くらいかな。

東京帝國大学法学部在学中は学生運動に身を投じていた二条だが、
卒業後は真逆の道を選び、キャリア警察官となった。

前作では、新米警部補として着任した二条が
学生時代の親友で、いまは過激派組織『革命的人民戦線』の
幹部となった男・我妻と対決する様が描かれた。

そしてこの第2作では前作から5年後が描かれる。


1年半のロンドン留学を終え、警視庁へ戻ってきた二条のもとへ
京都府警平安署長への異動が示される。

京都では、3人の人間を殺害したシリアル・キラーが跳梁していた。
犯人は被害者の眼球をくりぬくことから
「眼喰鬼」(アイ・イーター)と呼ばれていた。

連続殺人犯の検挙を至上命令として着任した二条だが
その日の夜、4人目の被害者が出てしまう。
しかも殺されたのは警戒出動中の平安署員だった。

「奴は我々を本気で怒らせた」
仲間である警官を殺されたことに憤る二条は、捜査員たちを前に
平安署の威信を賭けた "総力戦" を宣言する・・・

 いやあ、このシーンの二条くんはホントにカッコいいよ。


縦割り組織の集合体であるから、ある意味当たり前なのかも知れないが
部門間の確執、意地の張り合いが半端ではない。
それを、なだめたりスカしたり逆に煽ったりして御していく上層部。
もちろん、現場で必死になって汗を流している警官たちの姿も
しっかり描く。彼らの活躍なくして解決はあり得ないのだから。

このあたり、元警察官僚の作者が書いてるだけあって、
内部の描写がとにかく分厚い。
ところどころに学生運動の闘士だった二条の過去も顔を出して
警察小説としての読み応えも抜群だ。


そしてミステリとしても、さまざまな謎が設定されている。

警察の厳しい警備をかいくぐっては犯行を繰り返す、
犯人の神出鬼没ぶりも謎なんだが
もっとも大きいのは、ミッシングリンクだろう。
一見して無差別のように殺されているが、
彼ら彼女らが被害者として選ばれた理由は存在するのか?
殺害されるに至った動機は? そして、なぜ眼球を奪うのか?


そしてそして、いちばん大きいネタは冒頭の十数ページにある。
ここで、なんと作者は犯人についての重大な情報を
読者に開示しているのだ。

「えー、こんなことここで書いちゃっていいの?」

この情報のおかげで、私はもう
犯人が分かったようなつもりになって本編に入ったのだけど・・・

しかし結果はどうか。
この情報はもちろん間違いじゃないんだが
それに囚われて、最後まで作者に
いいように引き回されてしまったように思う。

 そう考えたら、これは上手な "撒き餌" だったのだろう。
 いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」ってやつですね。

 こんなにあからさまなんだから「これは絶対 "引っかけ" だぞ」って
 心の中で叫ぶ声もあった(笑)んだけど・・・

ラストで明かされる真相には十分に驚かされてしまった。
「分かっていてもだまされる」という経験はそうそうない。
もう脱帽、流石です。


最後に余計なことを。

前作の終盤で、二条は近い将来に結婚することを宣言したのだが、
本作ではその相手が明らかになる。
誰なのかはお楽しみだが、私は「どひゃあ」だったね。

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