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真鍮のむし 永見緋太郎の事件簿 [読書・ミステリ]


真鍮のむし (永見緋太郎の事件簿) (創元推理文庫)

真鍮のむし (永見緋太郎の事件簿) (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/03/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公・永見緋太郎(ながみ・ひたろう)はテナーサックスの奏者。
天才的な腕前ながらも世事には疎く、天然キャラで飄々と生きている。
そして彼にはもう一つの才能があった。
不思議な出来事に出会うと、その謎を
するすると解き明かす見事な推理を披露するのだ。

永見が所属するジャズバンドのリーダー・唐島が
ワトソン役兼本編の語り手を務めている。
そんな二人の出会う事件を綴った連作ミステリの第3弾。


「塞翁が馬」
人気ドラマー・久米山が自伝を出版したところベストセラーとなり、
映画化が決定して唐島のバンドにも出演依頼が来る。
永見たちは、クライマックス・シーンのリハーサルに臨むが
最大のライバルだったドラマー・野際と対決する場面の
撮影に立ち会っていた久米山の態度が何やらおかしい・・・
永見の推理が過去の因縁に新たな光を投げかける。
でも、この真相は読んでて "痛そう"。
へんな意味ではなく、ホントに怪我したときの "痛み" を感じる。

「犬猿の仲」
ベーシストの生瀬とドラマーの東は、ともにジャズ界の大物だが
25年前にある事情から仲違いし、それ以来犬猿の仲となっていた。
その生瀬と東を競演させようという企画が持ちあがるが
最初のリハーサルで二人は衝突してしまう。
周囲はイベントの失敗を確信するが、なぜか永見は
二人のいさかいは "解決" できると言い出す・・・
ミステリと言うよりは人情話みたいなオチだが、読後感は心地よい。

「虎は死して皮を残す」
私淑する名トランペット奏者タイガー・ブロンソンが
生前使用していたトランペットを、全財産はたいて購入した唐島。
しかしその楽器を何者かに盗まれてしまう。
現場はマンションの37階、しかも楽器はまもなく
35階の非常階段で発見される・・・。
密室状況からの物体消失と、犯人の意外な動機など
本書でいちばんミステリ要素が強い作品かな。

この事件のラストで、唐島は思うところあって
本場アメリカのジャズ巡りに行くことを決意、
自分のバンドを解散して旅立つが、なぜか永見がついてくる。
よって、この後の3作は二人が旅先で出会った事件が描かれる。

「獅子真鍮の虫」
ニューヨークに到着した二人だが、
さっそく永見がニックという青年から泥棒と間違われてしまう。
乱闘騒ぎで気を失った唐島が目を覚ましたのはニックの部屋。
しかし彼の部屋からテナーサックスが盗まれてしまう。
盗難事件の背後に隠された事情というミステリ要素より、
奏者として独り立ちしたいニックの奮闘ぶりがメイン。

「サギをカラスと」
シカゴにやってきた二人。
シカゴ川に架かる橋の上でテナーサックスを吹いていた永見たちは
掃除夫をしている老黒人と知り合うが、彼が実は、ある日突然失踪した
伝説のクラリネット奏者ジョセフ・キンガンである可能性が・・・
ジョセフが失踪に至った理由を永見が明らかにする。
これもミステリというよりは、音楽がらみの "いい話" という感じ。

「ザリガニで鯛を釣る」
旅の最後はニューオーリンズ。住民すべてがジャズ好きで、
街中が音楽で溢れている描写が延々と続く。
唐島たちが巻き込まれる事件も深刻なものではないし
ミステリ要素は本書中でいちばん希薄かも知れない。
演奏を楽しむ人たちを観ていた唐島の心の中に、
もう一度バンドを組んでジャズをやりたいという気持ちが湧き上がる。

そして、この事件の後で二人は日本に帰ってくる。

「狐につままれる」
芸能界の大御所・バンビー田﨑がデビュー40周年を迎え、
その記念パーティーでは、かつて彼が率いていたグループ、
アントライオンズが再結成されるという。
そのバックの演奏を引き受けた唐島と永見だが
会場となったホテルの別室に展示されていた
田﨑のデビュー曲大ヒット記念<ゴールド・ディスク>が
何者かに盗まれてしまう・・・
これもまたミステリには違いないんだが、
人情や音楽にまつわる話が続いた後で「最後の最後でこれかよ!」
真面目な人なら怒り出しそうなトリックだなあ。
普通の人なら「ホントにこんなこと可能なの?」って思うだろう。
まあそれもまたこの作者の持ち味だけど。


いちおうの本書で完結らしいのだけど、
作者は「本書がバカ売れすればすぐに再開する」って
あとがきに書いてるので、
続きが読みたい人は頑張って買いましょう(笑)。


あと、各話の最後にジャズのアルバムについて
作者の蘊蓄が語られてるんだけど、
如何せん私は全くといって良いほどジャズに無知なので
さっぱり分からない。
ジャズ自体は嫌いではないのだけど、たまにYouTubeで聞く程度。

いつか、もうちょっと詳しくなりたいなあという
願望だけは持ってるんだが・・・

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