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人形遣いの影盗み [読書・ミステリ]


人形遣いの影盗み (創元推理文庫)

人形遣いの影盗み (創元推理文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/09/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

明治末の時代を舞台に
雑誌記者・里見高広と天才絵師・有村礼のコンビが
帝都・東京で起こる不思議な事件の謎を解く
<帝都探偵絵図>シリーズの第3作。

「第一話 びいどろ池の月」
人気芸者・花竜(かりょう)は、新橋の御茶屋『びいどろ』で働く傍ら
私塾に通いながら勉学に励んでいる。
そこで長野出身の素封家の娘・圭子と仲良くなるが
そんな頃、御茶屋の女中がひとり失踪し、
『びいどろ』を巡ってある "噂" が流れ始める・・・
この事件の背景にあるものは、現代でも変わっていない。
いつの世でも○○を求める人はいるということ。
それが悪いことだとは思わないが、手段が問題だよねえ。

「第二話 恐怖の下宿屋」
高広が住む下宿屋・聖修館を訪れた礼だが、あいにく彼は不在で
代わりに出迎えたのは下宿屋の主・梨木桃介(とうすけ)。
礼は、所用でそこに居あわせた二人の男、竹下と愛川と一緒に
昼飯を振る舞われるが、食事が済むと桃介から「食った分は働け」と
下宿の仕事のあれこれを手伝わされる羽目に・・・
ミステリではないけれど、桃介の何気ない好意が
続発していた空き巣事件を解決してしまうという
ある種ほのぼのとしたものを感じるコミカルな一編。

「第三話 永遠の休暇」
礼が絵を教えにいっている松平子爵家。
正室から生まれた嫡男・顕芳(あきよし)が病弱だったため、
妾腹である次男・顕昌(あきまさ)に家督を譲ったとされている。
しかし「兄は本当は "島流し" にされたのではないか」という疑惑を
顕芳の妹・雛(ひな)は抱いていた。
礼は高広に無断で真相解明を請け負ってしまうが・・・
作中で『ロビンソン・クルーソー』が採り上げられる。
懐かしいなあ。最初に読んだのは小学校低学年だったなあ。
しばし回想に耽ってしまったよ。

「第四話 妙なる調べ奏でよ」
高広は、ライバル誌の記者・佐野から意外な話を聞かされる。
最近、礼がいかがわしい料理屋に出入りしているらしい。
密輸や故買などがからむ犯罪の噂が絶えない店内で、
礼は3人の人間と会っている。しかもそのうち1人は外国人だという。
ミステリ好きなら、礼の思いもまあ分かるかなあ・・・

「第五話 人形遣いの影盗み」
養父にして司法大臣である基博から、ある調査を頼まれた高広。
政財界の実力者・田無和盛の奥方が突如 "影を盗まれた" と言いだし、
真っ暗にした寝室に閉じ籠もるようになってしまったという。
事の起こりは、爪哇(ジャワ)からやってきた
影絵芝居の一座を見学したことらしい・・・
文庫で約300ページの本書の中でその約1/3、100ページを占める。
最大の長さの作品だけあって、後半には事件の鍵を握る存在として
怪盗ロータスまで登場するというサービス満点な一編。

「第六話 美術祭異聞」
第1作『人魚は空に還る』第一話「点灯人」で初登場し、
前作『世界記憶コンクール』第三話「黄金の日々」で再登場した
東京美術学校の学生・森恵(さとし)くん、三度目の登場である。
学校あてに「美術祭の間、第六講義室を使用するな」という脅迫状が届く。
最初は悪戯だと考えられていたが、展示所に飾られていた絵の一枚が
滅茶苦茶に切り裂かれるという事件が起こる。
文庫化の際に書き下ろされたボーナストラックで
わずか30ページちょっとの長さだけれど
現場を一目見て真相を見破る高広の名探偵ぶりがいいし、
最後に明らかになる "人の思い" が胸を熱くする。
本書の中でこれがいちばん好きな作品だ。

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