SSブログ

大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 [読書・ミステリ]

大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 (講談社タイガ)

大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 (講談社タイガ)

  • 作者: 紅玉 いづき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: 文庫
 

評価:★★★

時は大正。
主人公・英田紺(あいだ・こん)は17歳の新米新聞記者。
そして紺が出会う怪事件の謎を解き明かすのは、
"神楽坂の箱娘" こと、回向院(えこういん)うらら。
箱のようなつくりの、通称 "箱屋敷" に住む謎の少女だ。

タイトルから想像されるような
「箱入り娘と新米記者の探偵譚」みたいな、
ライトノベル的な雰囲気はほぼ皆無で、どちらかというと
横溝正史や江戸川乱歩に近い、暗く重い話が展開していく。


「第一話 箱娘」
地方の旧家から、紺の勤める新聞社に舞い込んだ手紙。
由緒ある甲野家の蔵から "呪いの箱" が見つかったという。
箱自体は両手で持てるほどの寄せ木細工のもの。
取材に訪れた紺に、甲野家の嫁・スミは語る。
「夫は、この蔵で、腹に刀を刺して死んだ」と。
殺人か自殺か。それとも "祟り" なのか。
取材を終えても心残りが晴れない紺は、
神楽坂にいるという "箱娘"、回向院うららを紹介される。
「うちに開けぬ箱もありませんし、閉じれぬ箱も、ありませぬ」
うららが開いた "呪いの箱" の中にあったものは・・・

「第二話 今際(いまわ)女優」
戯曲家・扶桑牧ヲ(まきを)の服毒死体が発見される。
『この戯曲を我が生涯の最高傑作とす』との言葉とともに。
しかしその戯曲『伊勢恋情』の最終稿が見つからない。
そして『伊勢恋情』のヒロインを演じる
女優・出水(いずみ)エチカは言う。
「あたくしが殺したのよ・・・」

「第三話 放蕩子爵」
演劇『伊勢恋情』が火付け役となり、帝都に心中事件が流行り出す。
そんな折り、紺は『文通心中』と呼ばれた事件の取材をすることに。
豪商・丸岡家の次女・佳枝(かえ)が文を送り続けた相手は
姉・潔子(きよこ)の婚約者にして時村子爵家の三男坊・燕也(えんや)。
しかしその思いが通じることはなく、佳枝は自ら命を絶った。
紺は燕也に会うため、時村家を訪れるが・・・

「第四話 悪食(あくじき)警部」
第一話で登場した甲野スミから、ふたたび紺の元へ手紙が届く。
何らかの助けを求めているらしい。
彼女は "呪いの箱" 事件の後、
遠縁の男性と再婚してすでに身重の体となっていた。
しかし紺が甲野家へ到着した直後、
スミが蔵の中で腹に刀を刺された状態で発見される。
そこへ乗り込んできたのは警視庁の室町警部。
その強引な捜査ぶりから "悪食警部" とあだ名される男だった・・・


実は、このシリーズの続編「大正箱娘 怪人カシオペイヤ」も
既に読んでるんだけど、2作めの内容をふまえて本書をみてみると、
1作めということもあってか、人物紹介と伏線張りがメインになってる。
紺の上司・小布施、放蕩子爵・時村燕也、
悪食警部・室町稀彦(まれひこ)と、2巻以降にも登場する
レギュラーキャラの顔見せ編ともいえる。

次巻でメインを張る怪人カシオペイヤも、
名前だけだが本書にも登場している。

主人公・英田紺にしても、実は悲しい過去の経緯から、
ある "秘密" を抱えて生きているのだけれど
そのあたりはこの第1巻でほぼ明かされる。

しかし問題は "箱娘" ことうららの方だ。
こちらはページが進むほど、巻が重ねるごとに
謎が深まっていく感じである。
なぜ "箱屋敷" にたった一人で暮らしているのか?
(もっとも、身の回りの世話をする使用人が一人だけいるが)
両親は、兄弟姉妹はいないのか?
そして最も大きい謎は彼女の "正体"。
どうやら背後に○○の存在があるようなのだが・・・


そして、本シリーズの雰囲気を決定づけているのが "時代" と "女性"。
明治から大正へ世は移っても、女性の地位はまだまだ低く、
旧態依然とした「家」という名の "箱" に
押し込められることが宿命づけられている。
彼女たちの悲しみ、怒り、屈辱感、閉息感、そして諦観。
そんな女性たちが引き起こす事件の数々を解決するのが、
これまた "箱" から逃れられない "箱娘"・うらら。
これはそういう話なのだ。

表紙のイラストのかわいさだけで読み始めると、
内容の重さとのギャップに戸惑うだろう。

実は私もそうだった(笑)。

nice!(3)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ: