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いとみち 三の糸 [読書・青春小説]

いとみち 三の糸 (新潮文庫)

いとみち 三の糸 (新潮文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

幼い頃から極度の泣き虫で人見知り。
そんな自分の性格を克服すべく、高校入学を機会に
青森県唯一のメイドカフェでバイトを始めた主人公・相馬いと。

やることなすこと失敗ばかりのいとを支えてくれたのは
真面目な店長・工藤、シングルマザーの先輩メイド・幸子さん、
もう一人の先輩メイドの智美さんは漫画家志望。
そして何かと目をかけてくれるオーナー。

そんな周囲の人々に鍛えられ、あるいは支えられ、
成長していくいとちゃんの姿が描かれてきたシリーズ、
その第3作にして完結編だ。

彼女の特技は、祖母に鍛えられた津軽三味線。
中学時代にはコンクールでの入賞経験もある。
しかし、ある理由で三味線からは遠ざかってしまっていた。

第1作では、メイドカフェに降りかかった閉店の危機を、
スタッフのがんばりと常連客たちの協力、そして
ふたたび三味線を手にしたいとの奮闘で乗り切るさまが描かれた。

第2作「二の糸」ではいとは高校2年生に進級、
友人たちと一緒に念願の写真同好会を立ち上げる。

親友の早苗とケンカしたり、撮影旅行でアクシデントに遭遇したり、
そしてそこから救ってくれた
後輩の1年生・石郷鯉太郎(いしごう・りたろう)くんに
不思議な胸のときめきを感じたりと
青春真っ只中のいとの様子が綴られる。

一方、メイドカフェで働く人々も
それぞれに大きな人生の転機が訪れていく。

そして本書「三の糸」では、
高校生活にメイドカフェにと、充実した "居場所" を得たいとが
故郷を離れて "旅立つ" までが描かれる。

高校3年生へと進級し、いよいよ「進路」を
決めなければならなくなったいとだが、彼女にはある目標があった。
過疎化で寂れてゆく故郷を何とかしたい。
地方都市の再生に役立つ勉強をして、いつかは青森に帰ってくること。

模試の成績に一喜一憂しながら受験勉強に励むのは、
都会も地方も同じだろう。
しかし彼女が学びたいものを与えてくれる大学は青森にはない。

夏休みには、一足先に漫画家デビューを目指して上京した
智美の助けを借りて、東京の大学のオープンキャンパスめぐり。
しかしメイド喫茶で鍛えられたとはいえ、人見知りはまだまだ抜けず、
津軽訛りの恥ずかしさもあって、どうにも都会に馴染めない。

先行きに大きな不安を感じながら東京を後にしたいとだが、
帰路の途中に立ち寄った仙台にある大学と
そこの学生たちにすっかり魅了されてしまう。
(明言されてないけど、これは明らかに東北大学だろう)

いとは決意する。「この大学さ入りて」
しかしそこはいちばんの難関。果たして合格できるのか・・・


故郷を離れる日が近づき、鯉太郎への思いを改めて自覚するいと。
その鯉太郎も、いとに励まされるように、自らの進路を決める。
メイドカフェにも後輩が入り、
工藤店長と先輩メイド・幸子は2号店を出店するべく頑張っている。

いとだけでなく、登場する人々それぞれが次のステージへと進んでいき、
受験本番を迎えたいとの奮闘ぶりがクライマックスとなる。


不器用そのものながら、一生懸命に自らの道を切り開き、
周囲の人々も、彼女のその姿から前向きに生きることを教えられる。

そして本書では自分のためだけでなく、
故郷のためにもなる道を探し始める彼女。
この本の読者で彼女を応援しない人はいないだろう。


第1作を読んだのが2014年9月なので、それから約3年。
いとの高校生活とほぼ同じ時間をかけて彼女の成長につき合ってきた。

彼女をはじめ、多くの個性的なキャラクターたちに
ここでお別れとなるのはまことに淋しい。

津軽三味線の超絶技巧を駆使するいとの祖母・ハツヱさん、
メイドカフェ経営に奮闘する工藤店長&幸子さん、
漫画家デビューを目前に正念場を迎えた智美さん、
それぞれに道へ踏み出した同級生たち、そして鯉太郎くん。

これでシリーズ完結とのこと。
よくできた作品を読んだときにしばしば思うのだが、
短編でもいいので彼ら彼女らの、"その後" の様子が知りたいなあ・・・

あ、もちろんいとちゃんの "華の女子大生" ぶりもね。
たぶん、相変わらずのドジっ子ぶりなんだろうなあ・・・

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