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華竜の宮 上下 [読書・SF]


華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田 早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/11/09
  • メディア: 文庫
華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田 早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/11/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★

文庫上下巻で800ページを越えるSF大作。

作者自ら《オーシャン・クロニクル・シリーズ》と
呼んでいるらしい作品群の中の一編で、舞台となるのは25世紀。

地球は、急激な地殻変動によって内部のホットプルームが上昇、
それによって海洋底が隆起し、海水面が260mも上昇してしまっている。

人類はその生活基盤のほとんどを失い、
高地に住む陸上民と海に生存の場を求めた海上民とに分かれた。

陸上民は、残された陸地のみならず海上都市をも建設し、
その科学技術をもって高度なネットワーク社会を構築していた。
一方、海と共生することを選んだ海上民は自らの遺伝子を改変し、
海上生活に適応した生態システムを手に入れていた。

しかし、乏しい資源や価値観の違いを巡って
両者は世界中で衝突を繰り返していた。

本書には多くのキャラクターが登場するけれど、
メインとなるのは日本政府の外交官・青澄誠司(アオズミ・セイジ)。

 もっともこの時代、日本列島は "日本群島" になっている(笑)。
 世界(陸上民)もいくつかの国家連合に再編されていて、
 日本はアメリカやオセアニアを母体とする
 国家連合〈ネジェス〉に属している。

彼は陸上民と海上民が平和的に共存するために
日夜、さまざまな組織との折衝に奔走していた。

しかし、国家連合の一つである〈汎アジア連合〉が
海上民の排除に動き出し、アジア海域での緊張が高まっていく。
青澄は対立を回避するために海上民の長・ツキソメとの接触を図る。

しかしその頃、IERA〈国際環境研究連合〉が擁する
環境シミュレータ〈シャドウランズ〉が驚くべき予測をはじき出す。
遅くとも、今後50年のうちに再び大地殻変動が起こり
地球は人類の生存できない環境へと激変するという。

IERAは人類生存のための "計画" を発案するが、
その実現のための手がかりともいうべきデータが、
ツキソメの遺伝子に潜んでいる可能性があることが判明する。

青澄は〈大異変〉の到来と "計画" の存在を知らされ、
ツキソメの身柄の保護に乗り出すが
"計画" を察知した〈国家連合〉群が
それぞれの思惑のもとに様々な陰謀を巡らせていた・・・


青澄に次いで出番と台詞が多いのは、彼の "相棒" である
〈アシスタント知性体〉のマキ。これがまたいい味を出している。

外観はAIを搭載した人間型ロボットというべきもので、
もちろんネットワークとも常時接続しているので通信も検索もOK。
ロボットではあるけれどイエスマンではなく
けっこう青澄に対して言いたいことを言う。
青澄の方も、人間ではない気安さのせいか本音をぶつけていて
"二人" の会話のシーンは楽しく読める。

そしてツキソメのパートでは、
遺伝子操作によって海に適応した人類の生活が描かれる。
その最たるものは "魚舟(さかなぶね)" と "獣舟(けものぶね)" なのだが
これを説明すると長くなるので割愛。

 手っ取り早く知りたい人は、『魚舟・獣舟』という
 そのものズバリの名前の短編を読むことをオススメする。
 同名の短編集も出ているし、各種SFアンソロジーにも
 収録されてるので、その気になれば入手は容易だろう。
 この駄文を読んですこしでも本書に興味をもって、
 でも文庫で800ページというぶ厚さに躊躇している人なら、
 まずこの短編を読んでみるといいと思う。
 この短編が楽しめれば、本書も大丈夫だろう。

それ以外にも、陸上民と海上民の間で商売をする
〈ダックウィード〉(海上商人)たち、
ツキソメたちを追撃する〈汎アジア連合〉の海上警備隊長・タイフォン、
その兄にして〈汎ア連合〉上級幹部のツェン・MM・リーなど
多彩な人物が登場する群像劇になっている。


ただまあ、読んでいて "心楽しい" という作品ではないのは確か。
何と言っても滅亡へのカウントダウンの中で進行するストーリーで
IERAが立案した、人類が生き延びるための計画も
成功率は絶望的に低いとあって悲観的な展開が続く。

普通の作品だったら「危機を乗り越えました」とか
「危機を乗り越える方策を見つけました」という方向に
物語を持っていくのだろうけど、作者はそのへんは徹底していて
安易な "希望" は一切与えてくれない。

 自分でもよく最後まで投げ出さずに読んだなあと思う(笑)。

作者が描きたかったのは、避けられない破局が迫っていても、
それでもなお、抗い続ける人類の姿だったのだろうし、
読んでいくうちに私もそれを見届けたいと思うようになった。

だから、もがく人類の典型である青澄くんの奮闘を
最後まで追いかけ続けることができたのだろう。

それでも、いささか物足りなく感じるのは
本編の最後に至っても〈大異変〉が起こらないこと。

 エピローグでは、一気に50年近く未来に飛んで、
 〈大異変〉の様子がちょっぴり描写されてるが。

しかしそこは作者もちゃんと分かっているようで、
本書に続く時代を描いた長編『深紅の碑文』が既に刊行されている。
そこでは、本書のラストから
〈大異変〉発生までの40年間が描かれている。

そして実は今、私はその『深紅-』を読んでいるところなのだ。

ちなみに、そちらにも青澄くんは引き続き登場している。
本書では30代だけど、私が今読んでるところでは、52歳になってる。
終盤では70代まで描かれるらしい。

『深紅-』も文庫上下巻で、総計1100ページ近いという、
本書を上回る大ボリューム。
これも、読み終わったら記事に書く予定なのだけど
まだ読書録を書いてない本が20冊以上溜まってるので
ブログに上がるのは10月頃かなあ・・・(^^;)。

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