SSブログ

件 もの言う牛 [読書・SF]


件 もの言う牛 (講談社文庫)

件 もの言う牛 (講談社文庫)

  • 作者: 田中啓文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/12/15

評価:★★★


 大学生・美波大輔(みなみ・だいすけ)は、岡山県の山中で謎の一団が牛の出産に立ち会う "儀式" を目撃する。そこで生まれた仔牛は、人語を話し、時の首相の寿命を告げて絶命した。
 それは、牛から生まれ、予言をしてたちどころに死ぬという、伝説の "予言獣・件(くだん)" が誕生した瞬間だった・・・


 大学生・美波大輔は、卒論のために全国の一言主(ひとことぬし)神社を取材中。岡山県の山中にやってきたが、そこで豪雨に遭ってしまう。そこで斜面の崩落に巻き込まれた女子高生・浦賀絵里(うらが・えり)を救い、彼女の実家である畜産農家に泊めてもらうことに。

 その夜、大輔と絵里は謎の一団が牛の出産に立ち会う "儀式" を目撃する。そこで生まれた仔牛は人語を話し、時の首相の寿命を告げて絶命した。それは、伝説の "予言獣・件 "が誕生した瞬間だった。
 謎の一団は2人の存在に気づき、絵里は捕らえられてしまうが、大輔はなんとか逃げ出すことに成功する。

 一方、東京では首相が急死し、後継者選出を巡って混乱の中にあった。そんな中、朝経新聞の政治部記者・宇多野礼子(うたの・れいこ)は、次期首相候補の一人・鵜川陽介(うかわ・ようすけ)が「みさき教」という団体の施設に出入りしていることをつかむ。
 「みさき教」は宗教法人ではなく、実態が全く分からない謎の団体だった。しかしそのことを伝えられた礼子の上司は顔色を変え、「みさき教はタブーだ。関わるな」と言い出す。

 村口毅郎(むらぐち・たけろう)は奈良県警の刑事。礼子の高校時代の同級生で元カレでもある。別件で「みさき教」を追っていた村口は、礼子と共闘することになる。

 絵里を救出すべく岡山へ戻った大輔は、礼子・村口とも合流し、日本政界の裏で蠢く陰謀に迫ることになる。
 やがて彼らは「みさき教」が古代からその時々の政権の陰にあり、「件」を利用して政治を動かしてきたことを知っていく。

 現代の科学技術を用いて、さらなる勢力拡大を目指す「みさき教」。政府はもとより警察、マスコミまで操り、日本全土が彼らの支配下に入っていく終盤は、ホラーというよりディストピア・テーマのSFのような雰囲気を感じる。
 圧倒的な権力を手にした「みさき教」の野望を、大輔たちは打ち砕くことはできるのか・・・


 作者お得意の "ダジャレネタ" は封印し(笑)、シリアスなストーリーが進行していく。とはいっても大輔と絵里の会話はユーモアたっぷりで、それが随所にある陰惨な描写(けっこうホラーでスプラッターだったりする)を緩和しているともいえる。

 歴史的背景もけっこうきっちり固めてあるみたいで、伝奇要素も興味深く読ませる。物語のとっかかりである「一言主神社」は全国にあるらしいのだが、茨城県常総市にもある。
 実は、毎年この神社の前を通って初詣に行ってる(ちなみに初詣先はお寺)。作中ではこの常総市の一言主神社にも言及があって、ぐっと身近に感じてしまったよ。この次はちょっと寄り道してみようかな、なんて思った。


 あんまり書くとネタバレになるのだけど、このラストは皮肉が効いていてよくできてる。ここは笑うべきシーンのはずなのだけど、一抹の恐ろしさも感じる。ホラーSFのエンディングとしてはいい案配だと思う。



nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント